【シリーズ】次の世代に繋げるためのACTION–認定NPO法人「キッズドア」の活動

腕時計は大切にするほど長く愛用できる一方、ひどい扱いをすればすぐに壊れてしまう。それは人間も、地球も同じこと。未来のために行動を起こした時計界の現状を、シリーズ【次の世代に繋げるためのACTION】としてレポートする。今回は本誌WATCHNAVIの売り上げの一部を寄付している、認定NPO法人「キッズドア」の活動をピックアップ。同団体理事長へのインタビューを紹介する。

認定NPO法人キッズドア理事長、渡辺由美子さん。2009年NPO法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、活動を広げている

 

日本にあった貧困の連鎖を断ち切るための活動は続く

水藤(WATCHNAVI編集長):最初は腕時計専門の媒体が、どんな関係があるのかと思いましたよね。突然の申し出、大変失礼いたしました。同じように、私も寄附先を検討していたときに貴団体の資料を拝見し、こんなにも日本に貧困家庭で育つ子供がいるのかと驚きました。そして、教育こそが、あらゆる文化を次の世代に伝えるうえで最も不可欠なことだと考えるに至ったのです。

渡辺さん(認定NPO法人キッズドア理事長):日本の貧困率は、リーマンショックをきっかけに2009年、政府によって初めて公表されました。そこで明らかになったのは、国内の「相対的貧困率」の高さでした。日本は豊かな国だと思われていましたが、全体の所得の中央値の半分に満たない状態にある世帯が多いのです。とくにひとり親世帯での貧困率は深刻で48.1%に上るという衝撃的なデータが公表されました。これはOECD加盟国中でワーストです。このデータだけだと「働けないのだろう」と思う人が出てくるのですが、ひとり親世帯の就労率は先進国で1位。つまり世界一働いている。それなのに、日本のひとり親世帯は世界一貧困ということになります。そんな状況おかしいですよね。

水藤:子供の貧困は世帯あたりの自己責任ではなく、社会構造上の欠陥があることに問題があるのですね。

渡辺さん:私たちは「貧困の連鎖」と呼んでいます。親の収入が少ないから十分な教育が受けられない、進学・就職で不利になる、収入の高い職につけない、子供世代も貧困に陥るという悪循環です。

水藤:そこでキッズドアでは無償学習支援を行うこと貧困の連鎖を断ち切ろうとされているのですね。

渡辺さん:「子供の貧困」は福祉ではなく投資です。子供に学習機会があれば社会人として自立でき、その子たちの納税額で国にとっても大きなプラスとなります。生活保護受給の状況になるかもしれない子供を救うことは未来への投資なのです。

キッズドアでは、貧困家庭に向けて物資を支給している。写真は、受け取った家庭から届いた返信ハガキ。発送元の家庭の多くは文房具の購入費さえ捻出が難しいそうで改めてハガキの多さに驚く

 

水藤:今、最も必要と感じていることはなんでしょうか?

渡辺さん:子供の健全な成長や学力向上には経済的資本だけでなく、文化的資本と社会関係資本が必要と言われています。一方で自発的に行動が起こせず、思い立っても交通費のない子供がいます。美術鑑賞や職業体験、社会見学など、子供の好奇心を喚起するような文化的資本は、とくに足りていないと感じます。

水藤:それなら私たちが協力できるかもしれません。子供が時計に興味を持ってくれることこそ、私たちの活動の一歩。そのためにできることを考えておきます。

渡辺さん:キッズドアの子供たちには、社会の優しさが足りていません。ぜひご協力をお願いいたします。

キッズドアの学習会の模様。笑顔で楽しい雰囲気作りが、勉強を続けるきっかけになる。一方、上を目指すための学習会もある

 

2021年度の報告から見るキッズドアの活動・成果

2021年度にキッズドアの学習会に参加した生徒は合計1872人。うち中学生899人、高校生世代786人、小学生187人だった。年間の学習会開催回数はオンライン学習支援も合わせて4914回。東京のほか、千葉や東北、埼玉など64か所の拠点で行われた。こうした学習支援を受けたキッズドアの生徒の中から2021年度は252人が高校へ、大学や専門学校には59人が進学した。コロナ禍から始めたファミリーサート物資&情報&就労支援対象者数は、なんと1万9793名にも上り、団体の活動・成果が着実に実を結んでいることがわかるだろう。だが、これら数字は同時に、日本の貧困世帯の多さを何よりもリアルに物語っている。

本誌WATCHNAVIは、子供の教育が時計文化の継承に不可欠であるとの想いから、キッズドアへのサポートを決定。寄付の継続とともに、他の形の支援も行う予定である。

 

Text/Daisuke Suito (WN) 本記事は『ウオッチナビ 2022 Autumn Vol.87』より抜粋・編集しています。

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