2024年2月29日まで受付再開/1983年〜1994年に発売された合計8機種のG-SHOCKの公式レストアサービスの裏側を直撃取材!

2023年12月5日からG-SHOCKのレストアサービスの受付が始まった。初号機DW-5000Cにはじまる合計8機種のスクエアモデルを対象とした本サービスについて、前回の反響や再び実施することになった経緯を聞くべく、編集部はカシオのリペアセンターを訪れた。

予想以上の反響に驚くというレストアサービスの実態

–単刀直入に聞きますが、どうしてオリジンのレストアサービスを再び行うことにしたのでしょうか?

右から品質企画室リーダーの難波さん、東日本リペアセンターのレストアサービス作業担当の多田さん、同リペアセンター長の松崎さん

難波さん:G-SHOCKの誕生35周年のときに一度、初代モデルのレストアサービスを実施したことがすべての始まりです。このときは光成形という技術を使って対応しましたが、結果的にほぼ手作業でカバーする部分が多く、お世辞にも効率が良いとは言えませんでした。一方で、オーダー数は予想を遥かに超えていたため、「今後もレストアサービスは必要だろう」となったわけです。

–初期の定番8機種が対象ですから、古い物では製造から40年も経っていますよね。機械式時計ならまだしも、いくら頑丈とはいえG-SHOCKのようなデジタルクオーツウオッチでそれだけの反響があるとは、ユーザーの方々の物持ちの良さに驚きます。

難波さん:前回のレストアサービスを行った際にアンケートを募り、お寄せいただいた回答を読むとG-SHOCKが大切な思い出の品になっていたことがわかりました。修理を諦めていた時計がキレイになって再び使えるようになるならば、と。そういう思いからレストアサービスをご利用いただいたのでしょうね。

–コレクター目線で考えるとオリジナルの状態を保たせたいところですが、やはり1980〜90年代のG-SHOCKは当時流行ったハイテクスニーカーなどと同じく、樹脂が加水分解してしまうアイテムは長期保管が極めて難しい。一方、大切な人からプレゼントされたもののような他に変え難い記憶が詰まった時計になると、その個体であることが何よりも重要になってくるのですね。その点、レストア対象のG-SHOCKであればモジュールを金属で覆っているから外側の樹脂パーツを交換すれば長く使い続けられることになる、と。

難波さん:2021年に広く一般向けに告知したオリジンのレストアサービスは、前回の反省を活かして簡易金型を起こすことにしたのです。バンドについてはメーカーさんが当時の金型をまだ保有されていたので、とても助かりました。もしバンドも金型設計していたら、どれだけコストがかかるかわかりません。その樹脂パーツですが、オーダー数がわからないから都度つどで必要数を作ることになります。

樹脂パーツ自体の再生産効率は光成形に比べれば上がりましたが、レストアサービス自体は基本的に技術者が手作業で行なっているため、一定の作業ペースが作りにくい。しかも大切なお客様の想いが詰まったG-SHOCKですから、レストア作業にはとても気を使います。本音をお伝えすると、交換パーツがある時計をリペアするのとはまた違った緊張感がありますよね。レストアサービスの時計は樹脂パーツと電池こそ新品交換ですが、それ以外の部分は届いた個体でお返ししなければならないわけですから。

–今回はレストア作業のデモンストレーションを見せていただけるんですよね?

多田さん:はい。では、さっそく取り掛かりましょうか。実際の作業は、まず樹脂カバーからメタルケースを取り出すところから始めます。さらにモジュールを取り出し、ケースに残ったボタンの動作を確認。この個体はボタンシャフトがやや曲がっているので手作業で微調整していきます。この作業も個体によっては金属疲労などで折れてしまう可能性が非常に高いので、極めて慎重に行います。

松崎さん:ボタンシャフトは一体成形になっているので折れたらアウト。しかも交換パーツのストックもない状況です。

多田さん:しかも長年使われたボタンシャフトはさすがに経年変化が起こりやすいですね。カバーを外すときに少なからず干渉しますし、なにより人によって押す方向のクセがありますから曲がっていることも多いです。ちなみにこのシャフトには極小の2重パッキンがあり、こうした極小部品もG-SHOCKの性能維持に欠かせません。このように目視と触感でひと通りの外装の調整を終えたらモジュールをメタルケースに戻して、新しい電池に入れ替えます。

松崎さん:今回はケースバックを開けた状態でご用意しましたが、お送りいただく個体の中には錆びなどで完全にケースと固着してしまった個体も届きます。そうした、どうしてもレストアできないものについてはやむなくご返送させていただくことになります。

–先ほどのボタンシャフトもあまり攻めた調整は難しそうでしたね。他に交換できないパーツとは?

難波さん:ケースバックですね。私たちも交換パーツの新規設計を試みたのですが……。なんというか、いまの技術だと綺麗にできすぎてしまうのです。文字や図柄のデザインもかっちりしすぎてしまうというか。

–そうこうしている内に作業が完了しました。だいたい組み付け作業だけで30分ぐらいでした。

多田さん:届いた状態から程度を確認し、分解、調整、組み立てまでで順調にいけば30分〜1時間程度の作業ですね。ただ、裏蓋が開かないなどの症状があると、もっと時間はかかります。

–普段の作業にレストアサービスが追加されるわけですから、センター長は人員配置などで頭を悩ませそうですね。

松崎さん:レストアサービスは高いスキルを持った修理技術者でなければ務まらないので、メンバーはほぼ決まっています。彼らが届いた順番で作業に取り掛かるため、作業完了までに3か月はお時間をいただくようにしています。

難波さん:ゆくゆくはレストアサービスが常時受け付けられるような体制ができたら良いのですが、それは現状だとまだまだ難しいですね。前回のフロッグマンのように、リクエストの多いモデルを徐々に増やすことでご期待に応えていければと思っています。

編集後記

レストアサービスの金額は約1万円。「そのサービスを利用するなら新品を買う」という声は社内外であったという。ただ時代は変わり、SDGsの流れから「物を大切にする」ことがより尊ばれるようになると、このレストアサービスはむしろプラスのイメージをG-SHOCKにもたらすようになった。

少し話は逸れるが、高級時計の世界では「永久修理」を謳うブランドが存在する。自社製品である正当性が認められれば、どの年代のものでも修理を受け付けるというものだ。「世代を超えて使える」と言いながらも一般的なメーカーが部品の保有期間を数十年と定めているなか、永久修理のフレーズは非常に魅力的に映るだろう。

今回のG-SHOCKのレストアサービスは、上記の「永久修理」に通じるものがある、と筆者は感じている。30年以上も使ってきた腕時計である。それほど長く人生を共にしてきた腕時計が1万円で復活するのであれば、喜んでレストアサービスを利用する人はいるに違いない。その事実は、何よりも今回の取材のプレゼンテーション時に見せてもらった利用者の声で証明された。腕時計の価値を価格で語ることなかれ。そう改めて思い至る取材となった。

[レストアサービス概要]

1) 受付期間:2023年12月5日~2024年2月29日※1
2) 申し込み方法:レストアサービス受付専用WEBサイト
https://gshock.casio.com/jp/restore/g-shock-origin/
3) 対象モデル:DW-5000C・WW-5100C・DW-5200C・WW-5300C・DW-5600C・DW-5800C・DW-1983・SWC-05
4) 料金:10,560円(税込)
5) サービス内容:べゼル・バンド・電池の交換 ※2
※1:申し込み多数の場合、早期終了の可能性があります。
※2:樹脂色が黒、色埋め色がグレーのべゼルのみとなります。
ベゼル固定ネジの頭部は+(プラス)のみとなります。
電池交換後の防水検査は日常生活用防水レベルでの実施となります。
(日常生活での汗や洗顔のときの水滴・雨などに耐えられるレベル)

Text/Daisuke Suito(WATCHNAVI)

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