【本邦独占インタビュー】ブライトリングがクロノグラフブランドとしての勢力を拡大! ジョージ・カーンCEOに尋ねた「ギャレ」買収の真意

昨年、創業140周年を迎えた【ブライトリング(BREITLING)】は、腕時計の創世記からクロノグラフに着目し、精密な計時機器の製造に情熱を注ぎ、自社でクロノグラフムーブメントを開発・組み立てが可能なマニュファクチュールブランドへと発展してきた。次なるステップとして、2023年には【ユニバーサル・ジュネーブ(UNIVERSAL GENEVE)】を買収し、間も無く【ギャレ(GALLET)】の買収も公式発表する。その真意をジョージ・カーンCEOに独占インタビューした。

Gallet Flying Officer from 1939

クロノグラフメーカーとしての拡大を図ることが目的

 

ブライトリングが今回買収をアナウンスすることとなる「ギャレ」(これまで「ギャレット」と呼称されてきたが、今後日本では「ギャレ」で統一の予定)は、名門ブランドながらユーズドマーケットに出回っているヴィンテージモデルは少なく、熱心なコレクターの間で支持されている。1903年に動力飛行の時間を計測するストップウオッチ(市販モデルは「ザ・サン」)を開発するなど、航空時代の幕開けに貢献した一社となったのだ。そのためユニバーサル・ジュネーブと同じく本格的な再始動が求められてきたブランドで、ブライトリングの傘下に入ることによっていっそう注目が集まる。

Vintage Catalog with Gallet Timers from 1934

 

そんな「ギャレ」は、1826年にラ・ショー・ド・フォンにて創業されたブランドで、その源流を遡ると1466年にはすでに時計製造に携わっていた記録が残されている。スイス時計の聖地とされる歴史的なラ・ショー・ド・フォンにて、とりわけクロノグラフのジャンルに傑出したコレクションを輩出してきた。20世紀初頭には、航空、レース、軍用、オフロード遠征等で同社製クロノグラフは数多く利用され、その精度や耐久性、信頼性を実証した。そして1939年、マルチタイムゾーン追跡用に設計された防水クロノグラフ「フライング・オフィサー」を発表。複数の夜間給油を必要とする数日間にわたる大陸間飛行の初期において、パイロットから乗客までが利用する「ギャレ」の代表作として絶賛された。また、1938年に発表された「マルチクロン・クラムシェル」も名の知れた防水クロノグラフで、埃や湿気、大雨にも耐えられる設計が特徴だった。これらは主にアメリカ市場で高く評価され、「フライング・オフィサー」については大統領を務めたハリー S. トルーマンが愛用していたという。

Flying Officer of Harry S. Truman from 1939_Courtesy of the Harry S. Truman Library and Museum

 

今回の「ギャレ」買収により、ユニバーサル・ジュネーブを含めてブライトリングは3本柱が揃うブランド構成となるわけだが、いずれも1910年代からクロノグラフを製造してきた歴史あるブランドだ。これは偶然ではなく、計画的なブランディングといえるはずである。ジョージ・カーンCEOは、どのような目的を持って今回の買収を行ったのだろうか?

〈ブライトリングCEOジョージ・カーン氏へ本邦独占インタビュー〉


ブライトリングCEOジョージ・カーン(Georges Kern)/1965年、ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。フランスのストラスブールで政治学を学び、スイスのサンクトガレン大学で経営学の学位を取得。タグ・ホイヤーで時計界のキャリアをスタートし、リシュモンではA.ランゲ&ゾーネ、ジャガー・ルクルト、IWCシャフハウゼン(2002年にCEOへと昇格)で重要なポジションを担う。2017年にブライトリングのCEOに就任し、同社の隠れた歴史を掘り起こしながら、モダンレトロをテーマに多様性や機能性を重視したコレクションを展開。eコマース戦略にも注力するなど、グローバルでブライトリングを飛躍させた。

Gallet Multichron Clamshell from ca. 1938

「ギャレの買収は、ブライトリングの拡大における自然な次のステップです」

―― ギャレの買収はいつ頃から検討されていましたか?

(ジョージ・カーンCEO)「今回のギャレの買収は私たちが何年も前から注目していたもので、買収プロセスにおける最大の課題は、1年半にわたって複雑な問題を解きほぐしつつ、機密性を厳格に保ちながら、すべての要件を問題なくまとめ上げることでした」

Vintage Advertising of Gallet Flying Officer in ca. 1950

 

―― この買収により、ブライトリング、ユニバーサル・ジュネーブ(2023年)、ギャレ(2025年)の3ブランドが揃うことになります。明確なクラス分けをしますか? また、主要コレクションの価格帯をお聞かせください。

「素晴らしいのは、3つの強力なブランドがそれぞれ明確なアイデンティティを持ちながらも、互いにカニバリゼーションを起こさないことです。いずれも、強い伝統と素晴らしい製品を持つブランドです。さらに、リテールパートナーに強力な補完的サービスを提供できます。ギャレの買収により、ブライトリングのポートフォリオと高級時計市場における影響力が拡大し、高級時計市場のあらゆるセグメントに参入することになります。なお、ユニバーサル・ジュネーブは平均販売価格が約20,000CHF(2025年3月中旬時点の日本円換算で、330万円前後)で、約15,000CHF(250万円前後)からの価格帯をカバーします。ブライトリングは引き続き3,000~30,000CHF(50万円前後〜500万円前後)のセグメントをカバーし、ギャレは3,000CHF(50万円前後)を少し下回る価格帯から約5,000CHF(85万円前後)までの価格帯をカバーする予定です」

Gallet Multichron Regulator from 1936

 

―― 3ブランドはいずれもクロノグラフブランドというイメージです。それぞれを補う存在となりそうですが、各社の魅力や特徴、今後の展望を教えてください。

「19世紀初頭以来、ギャレは未知の世界に挑む探検家、新たな地平を追い求める飛行家、大陸を横断する旅行者など、果敢に冒険する人々に装備を提供してきました。1826年にジュリアン・ギャレ(Julien Gallet)によってラ・ショー・ド・フォンに設立されたこのブランドは、精度と冒険の代名詞となり、冒険家や移動の多いプロフェッショナル向けに設計された時計を製造してきました。ギャレはブライトリングの傘下にあるため、両ブランドは同じコアバリューを共有していますが、それぞれが独自のポジショニングで市場を獲得しています。この独自性は将来まで続くものでしょう。初期の長距離旅行、探検、冒険のための高精度の計時という伝統に根ざしており、ブライトリングの兄弟ブランドとして頑丈でありながら洗練された高級時計製造へのエントリーポイントとして存在していきます。

陸・海・空向けのクロノグラフのスペシャリストとして始まったブライトリングは、ネオラグジュアリーのリーダーへと進化しました。自社製造ムーブメント、追跡可能な貴重な素材、社内イノベーション、厳格なテストに重点を置くことで、より高い価格帯で展開されます。この3つのブランドにより、明確なセグメンテーションが実現することになります。2023年に買収したユニバーサル・ジュネーブは、価格面でブライトリングより上位のブランドに位置付けし、完全に独立して運営されます。一方でギャレは、エントリークラスの高級時計セグメントを補完する、歴史に根ざした強力なブランドです。これによって様々なプライスゾーンの製品を、独立企業であるブライトリング社が包括的に提供していくこととなります」

Vintage Advertising of Gallet Flying Officer in ca. 1950

 

―― 3ブランド間でキャリバーの共有のほか、パーツの内製化を進めますか? ムーブメント供給メーカーとの関係にも変化があるならば教えてください。

「ギャレの時計はブライトリングと同じ工場で製造され、ブライトリングの時計製造のノウハウと、ブライトリングが時計業界のサプライヤーと築いてきた強固な関係の恩恵を受けて、クオリティの高いムーブメントを搭載することができます。最初のコレクションは2026年にリリースされる予定です。オフィシャルウェブサイト(https://www.gallet.com/ ※3月18日に開設)でギャレの旅路を追跡していただき、歴史的に重要なブランドストーリーをご覧ください。さらには、今後の展開の一端を見ることができるでしょう」

 

問い合わせ先:ブライトリング・ジャパン TEL.0120-105-707 https://www.breitling.com/jp-ja/

Text/山口祐也(WATCHNAVI編集部)

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