時間は誰にでも平等。だからこそ1日24時間、その限られた時間をどう使うかが「人生を楽しむ」ための鍵となります。様々な業界で活躍する人物から「時間術」を聞く本連載。第29回は北京五輪・トライアスロン日本代表の山本良介さんにお話を聞きました。
文:赤坂匡介/写真:高橋和幸(PACO)
心に深く刻まれている時間は、 悔しさしかなかった「北京五輪」での敗戦
高校3年生で競技を始め、1年目にして日本ジュニア選手権で優勝。その後、北京五輪・トライアスロン日本代表に選ばれるなど、数々の結果を残してきたトライアスリートの山本良介さん。 現在も現役選手として活動する山本さんに、日々どんな時間の使い方をしているのか聞いてみると、そこには「自然とは普段から仲良くしておく」という山本流の時間術がありました。
――高校時代に競技を始め、すでに20年以上のキャリアを誇る山本選手。日々欠かさずしている日課はありますか?
毎日ですよね……? となると、トレーニングくらいでしょうか。トライアスロンはスイム(水泳)、バイク(自転車)、ラン(ランニング)の3種目のタイムを競う競技ですから、朝は水泳から始めて、ブランチを挟んでランニング、バイクとこなしていくと、あっという間に1日が終わります。 またリカバリーもトレーニングの一環ですから、3日練習して、1日休むというサイクルを基本繰り返しています。
――トレーニング漬けの日々。たまには息抜きも必要ですよね?
はい。そんなときは仲間と銭湯に行きます(笑)。いわゆるスーパー銭湯ではなく、昔ながらの“昭和の香り”がするところが好きですね。店内に流れる穏やかな時間に身を任せていると、すごくリラックスできます。 あと自然に触れるのも好きです。トライアスロンは、対自分、対自然と向き合う競技なんです。波や風の強さなど、さまざまな条件がレースを左右します。だから自然は、僕にとって、普段から「仲良くしておきたい存在」なんです。
――そんな山本選手にとって、心に深く刻まれている「時間」はどんな瞬間ですか?
周囲の期待に応えられなかった北京五輪のことは、やはり強く記憶に残っています。ゴールを切った瞬間、僕の頭には悔しさしかありませんでした。すぐに4年後のオリンピックを目指し、トレーニングを再開しました。 そうして迎えたロンドン五輪の選考レースでは、ライバルであり、親友とも呼べる選手と代表枠を奪い合う、激しいデッドヒートを繰り広げました。結果、僕は3位落選。ふと隣を見ると、勝ったはずの親友が号泣していました。その涙には、僕らが互いに励まし合い、切磋琢磨しながら、ともに歩んできた時間や、お互いの覚悟を知るからこその思いがあふれていました。夢が破れたのに、どこか清々しい思いだったあの瞬間も、僕の心には深く刻まれています。 ちなみにその彼とは、いまでも親友です。世界でいちばん信頼しています。