なぜ快進撃は始まった!? 「モーリス・ラクロア」CEOが語ったヒットの要因とコロナショック処世術

いま、日本各地の時計店でスタッフが口を揃えて「売れている」という時計がある。それが、モーリス・ラクロアの「アイコン」シリーズだ。この時計は、1990年代に世界的にスマッシュヒットした「カリプソ」を現代的にアップデートしたデザインを特徴とする。2016年にクオーツ時計として登場するや、その作り込まれた外装に対して10万円代というハイコストパフォーマンスで業界人からが大注目。その翌年には、よりケースのシャープさを際立たせた自動巻きバージョンも登場し、昨今流行しているラグジュアリー・スポーツのジャンルで、最も手に入れやすいタイムピースとしての地位を築き上げた。この時計の仕掛け人であるモーリス・ラクロアCEOは、今後、アイコンシリーズをどのように育てていくつもりなのか。コロナショックで世界が混乱する最中に投げかけた質問への回答と、最新モデルから考察する。

 

時代の要望にマッチしたプロダクトの供給

モーリス・ラクロアのヒットシリーズ「アイコン」を発表した2016年、高級時計の世界ではオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」やパテック フィリップ「ノーチラス」「アクアノート」、ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ」という、1970年代からの歴史を持つラグジュアリースポーツウオッチが再評価を受け、世界各国の正規店で入手困難な状況が続いていた。中古市場の価格は高騰し、それをさらにリセールバリューを気にするオーナー希望者が拍車をかけた。

 

だが、もちろん腕時計ブランドは上記3ブランドだけではない。星の数ほどもあるブランドは、いまや定番となった青文字盤のようなカラーの追加や自社製ムーブメントの設計、新素材の開発など、様々な取り組みによって独自性の確立を試みていた。なかでも歴史あるブランドが力を入れていたのが、自社のアーカイブピースのリバイバル・モダナイズ。古くは腕時計黎明期の1930年代から見直された各社往年の名機たちは、現代最新の技術によって新たな魅力あるタイムピースとなり現代に再生されたのである。「アイコン」は、1990年代に誕生したカリプソと共通のデザインコードを持つ時計として、2016年に誕生した。ベゼルに爪を持つ多面的なデザイン、ケースと一体設計されたバンド構造、クルー・ド・パリ装飾の入った高級感漂う文字盤という出で立ちは、もれなく世の中が渇望していたラグジュアリースポーツウオッチの姿を想起させることとなり、現在のヒットへと結実したのである。

モーリス・ラクロア「アイコン クロノグラフ」Ref.AI1018-SS001-333-1 13万2000円
クオーツ。SSケース。直径44mm。カーフストラップ。100m防水。アイコン オートマティックにのみ搭載されていたイージーチェンジャブルシステムを、2020年はクオーツモデルにも搭載。グレーダイアルにブルーのアクセントとストラップが映える

“アイコンは世界的な成功を収め、すべての市場で高い評価を得ています。これは、すべての潜在的な顧客とターゲットとなる市場に合う製品を開発するためにきめ細かく、時間をかけ、発売前には市場調査や小売店等販売業者とのフィードバックセッションに投資したためです。もちろんかつてのヒット商品カリプソのデザインコンセプトを受け継ぎ、現代風に再解釈したアイコンのデザインに加えてクオリティと価格のバランス、知覚価値が時計ファンに評価されたのだと思います”–モーリス・ラクロアCEO ステファン・ワザー氏

 

いま、アイコンにはスタンダードな時分秒の3針タイプのほか、クロノグラフ やスケルトン仕様のモデルも揃う。クオーツから始まったシリーズは、そのラインナップを色やサイズ、デザインで広がり続けている。誕生からわずか4年のうちに急拡大するアイコンは、「マスターピース」や「ポントス」といったロングセラーもあるブランドにとってどのような位置付けとなるのだろうか。

“私たちにとって、アイコンコレクションはハイライトです。2016年にクオーツでリリースされ、その後2018年に自動巻きでリリースされて以来、このラインの開発を中止したことはありません。昨年、マニュファクチュールムーブメントを搭載した最初のアイコンモデルである「アイコン マーキュリー」を発表しました。アイコンは、その強力で都会的なデザインと高い知覚価値のおかげで、非常に人気が高いことがわかりました。それでもなお、お客様の要望をすべて満たすように、ハイエンドを含め様々な製品を継続的に構築していきます

 

混迷を極める2020年もモーリス・ラクロアは心配無用

2020年の新作ももちろん主役はアイコンだ。今年は、クロノグラフ やコンビケースなど、ステファン氏が宣言した通り、シリーズのさらなる充実化が図られた。しかしながら、発表のタイミングは新型コロナウイルスCOVID-19が世界各地でピークに向かっていた4月。新作発表を見送るなどの考えはなかったのだろうか?

左)「アイコン ベンチュラー バイカラー」Ref.AI6058-PVY13-430-1 32万4500円
自動巻き(Cal.ML115)、毎時2万8800振動、38時間パワーリザーブ。SSケース(ゴールドプレート/セラミックベゼル)&ブレスレット。直径43mm。300m防水。防水性能に優れた大人のスポーツウオッチにコンビモデルが新加入。ブルーセラミックベゼルにはゴールドの6つのアームが輝き、ブレスのスモールリンクと絶妙な調和を見せる
右)「アイコン クロノグラフスケルトン」Ref.AI6098-SS001-090-1 82万5000円
自動巻き(Cal.ML206)、毎時2万8800振動、48時間パワーリザーブ。SSケース(シースルーバック)。直径44mm。カーフストラップ。200m防水。エッジの効いたアイコンの力強いシルエットと、高度な透かし加工の技術が融合したグラフィカルなクロノグラフ。ベゼル幅を薄くして視認性を確保したため、6本のアームがサファイアクリスタルの上に張り出した

“私たちの強みは、俊敏性と対応力です。したがって、私たちはすぐに2方向の戦略を採用しました。
まず、従業員の健康と安全を確保することが不可欠でした。そのため、マーケティングなどの部署でテレワークを始めた人もいます。これは、このアプローチを数年間採用してきたため、当社にとって新しいものではありません。さらに、減産によって失業した人は、スイス連邦によって提案された恩恵を受けた人もいます。さらに、まだオフィスで働いている従業員のために、私たちは国の安全基準に忠実に従いました。
2番目の戦略は、サービスの概念に関連しています。これは、クライアントの要求に耳を傾けることを常に心がけているためです。このため、決して生産を停止したことはありません。これにより、現在の需要を満たすだけでなく、健康危機が終わったときに生産本数を簡単に増やすことができます。もちろん、COVID-19によって悪影響を受けているサプライヤーからの部品を待っているため、現在は予定より遅れています。
最後に、2020年の新製品に関して言えば、幸運なことに、ウイルスが発生する前にそれらの70%をすでに発表していました。まず、私たちはパリのイベントで新製品を発表し、次にインホルゲンタ(チェコ)、そして最後にアジア市場を訪問しました。
新製品の第2波の発売戦略は、年の後半まで延期されました。前例のない状況に直面しても、私たちは非常に柔軟です”

 

スイス時計界を陰で支えるサプライヤーの存在は、スイス時計界には不可欠。そうした他社の影響は受けながらも、ブランド自体は不測の事態に対して柔軟に対応でき、それこそがモーリス・ラクロアの強みだとステファン氏は言う。いま高級時計界は、世界最大のイベントの終焉と新たな大規模展示会の模索、様々なコミュニケーション・マーケティング戦略、販売チャネルの拡大など、多岐にわたって一気に過渡期を迎えている。こうしたなかにあって、柔軟さがウリのモーリス・ラクロアはどのような舵を切っていくのか?

“私たちはすでに2019年にブランドのビジネスおよびプロモーション戦略を再考し、街頭や店頭でロードショーを開催し、お客様により近づいています。 一方、見本市としてのバーゼルワールドは、毎年開催されるロードショーとプレゼンテーションプログラムの目的地の1つでした。 クライアントや顧客との関係を生み出すのは1つの見本市ではなく、すべての主要地域での年間を通じての活動、ミーティング、プレゼンテーションの集中的なコミュニケーションプランだと私たちは考えます。 テーマは季節に焦点を絞ったものである必要があり、コミュニケーションはデジタルおよびソーシャルメディアプラットフォーム上で定期的に開催されます。 今日の顧客は、実施されるプログラムを通じて、ブランドからのコンスタントなニュースの発信を期待しています”

 

モーリス・ラクロアが「アイコン」で起こした快進撃。その背景には、先見の明に優れたステファン・ワザー氏のブランドの舵取りがあったことは想像に難くない。インディペンデントブランドらしい柔軟かつ迅速な対応で急速に変化する時代の荒波を乗りこなしてきたこのブランドは、これからも様々なアプローチで話題を提供してくれそうだ。

 

問:DKSHジャパン TEL.03-5441-4515
https://www.mauricelacroix.com/jp_ja/

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