「高級時計が売れている」真相を確かめるべくIWCシャフハウゼンの国内5店舗のブティックを直撃取材してわかった「売れている理由」

最近、高級時計が売れているという。その真偽を確かめるべく、時計愛好家から支持を得ているスイスの高級時計ブランド「IWCシャフハウゼン」に協力を要請し、国内に5店舗あるブティックで聞き取り調査を行った。そこから見えてきたいまの高級時計ブームの裏事情に迫る。

Text/Daisuke Suito(WATCHNAVI)
Photo/Atsuyuki Shimada(大阪、神戸、名古屋)、Yoshinori Eto(銀座)

国内の購買意欲はコロナ禍以前のインバウンド需要をも凌駕

まず筆者が訪れたのは、銀座・並木通りにある直営ブティック(東京都中央区銀座6-6-1/0120-261-868)だ。2014年に前店舗がオープンし、2018年末に現在の場所へ移転。売り場面積が拡張され、リニューアル後は来店者が2倍になったという。「現在の店舗になってしばらくは訪日外国人旅行者も多く、好調でした」(銀座ブティックマネージャー・河西善靖さん)。

2020年4月に緊急事態宣言が出され、IWCブティックも一時は休業していたが、その一方で比較的早い段階から顧客へのサポートを開始した。「修理品のステータスやお問い合わせいただいた在庫の確認などで、休業中もブティックにはよく来ていました」。その後、事前予約制で営業を再開。予約してくるだけあり、成約率は100%だったという。

段階的に通常営業に戻していくと、多くの人々がブティックに来店するようになったという。「このブティックに20名ほどのご来店があることもありました。とはいえ私たちは応対できても最大でも5組。いまも入店をお待ちいただいたり、お時間を空けて再度ご来店をお願いすることがございます」。

日本で最初にオープンしたIWC 銀座ブティックは2018年に現在の場所へ移転。2階には技術者が常駐しており、ストラップ交換や磁気抜きなどの軽微なケアなら当日に対応してもらえる。

IWCシャフハウゼンの商品ラインナップは50万円台からあり、主力のポルトギーゼコレクションが100万円前後を中心とした展開となっている。「堅実な時計という印象を持たれているようで、ブライダル関連需要がかなり高いですね」。記念の品として腕時計を選ぶというのは、コロナ禍以前にもあった話。だが、その理由に現在の高級時計販売の好調な理由が潜んでいる。

「旅行に行けない代わりに腕時計を購入することにした、とおっしゃる方は多いです。先のブライダル関連でしたら、結婚式を挙げられない代わりに時計を選ばれる方も。あとは最近、時計を資産とみなして購入を検討される方もいらっしゃいますね」。使い途を失った予算を腕時計に向ける人は多いようだ。

次は、大阪・ミナミにある大阪 心斎橋ブティック(大阪府大阪市中央区西心斎橋2-2-3/0120-271-868)を訪問。こちらも2018年にオープンした、コロナ禍前後を経験している店舗だ。「新型コロナの前後では、インバウンド需要がなくなったことが最大の変化ですね。ただ、そのような状況でも売り上げが落ち込むことなく、むしろ2021年は好調だったといえます。夏ぐらいからは高額品の動きも良くなりました」(ブティック マネージャー・中山 亮さん)。

高額品とは、IWCシャフハウゼンが得意とする“永久カレンダー”のことを指す。ゼンマイの解ける力を動力とし、歯車を主なパーツとする機械式時計でありながら、ずっと動かし続ければ少なくとも2100年まで調整不要で日・月・曜日・月齢を表示する複雑なメカニズムは、ステンレススチールモデルでも300万円台からの展開。この価格帯のモデルについては、5店舗あるブティックでも心斎橋店が突出しているという。「2021年はパイロット・ウォッチの新作が好調で、ポルトギーゼとの2トップでした」。

IWC 心斎橋ブティックは大きな行灯が目標。店内には暖炉を囲む応接間を想起させる空間に、IWCシャフハウゼンが誇る6コレクションのコーナーを展開する。

ここまで2つの直営ブティックの話を聞いたうえで、筆者はある発見をした。それは、「パイロット・ウォッチ」「ポルトギーゼ」以外のコレクションの名前がなかなか出てこないこと。IWCシャフハウゼンには他にも「ポートフィノ」「ダ・ヴィンチ」「アクアタイマー」「インヂュニア」というコレクションがある。ブティックといえば豊富な品揃えが魅力のはずだが……。「スイスの生産体制が追いついておらず、多くのお客様をお待たせしている機種もあります。この需要と供給のアンバランスが、一番コロナ禍における問題点と言えますね」。

 

時計ブームは都市部から徐々に、着実に全国へと広まっている

今度は大阪のキタ、阪急うめだの6階時計フロアにあるイン・ショップ形式のブティック(大阪府大阪市北区角田町8-7 阪急うめだ本店 6階/06-6313-7727)を訪問。百貨店内の売り場でも、やはり最近の高級時計人気を感じているという。

「売り場が改装してすぐにコロナ禍になり休業となり、再開後すぐは時計好きの方々のご来店が多かったように思います。いまはファミリーでのご来店など、幅広いお客様が来られるようになりました。時計フロア全体を見ても、ブームが来ていると感じますね」(アシスタント ブティック マネージャー・西口覚姿さん)。

ここも売れ筋は「ポルトギーゼ」と「パイロット・ウォッチ」だというが、それは入荷状況とはあまり関係ないようだ。「最近の高級時計に求められるトレンドに、2021年の新作が上手く当てはまったと思っています。メタルブレスレットは長く使えるので好まれていますし、サイズダウンしたパイロット・ウォッチのバリエーションは着け心地が好評です。購入動機に関しては、『旅行に行けない代わりに』という理由をよく耳にするようになりましたね」。

IWC 大阪うめだ阪急ブティックは、百貨店内にある地の利を生かし、幅広い来店者が訪問。気軽にブティックの豊富な品揃えを堪能できる。

コロナ禍に注目されていた“コト消費”が難しくなり、改めて“モノ消費”に目を向ける人が増えたのだろう。IWCブティックでは接客のことを「セリング・セレモニー」と言うと聞いたが、確かに高級時計は購入するところからして非日常感がある。

筆者の経験でも時計購入時には“これだけの高額品を所有することができた”自分を褒めたくなるし、その時計に相応しい自分になれるよう改めて頑張ろうという気になれる。資産という側面で見ても、長く一定の価値を保つ高級時計は優秀だ。

そんなことを考えながら、2021年11月に完成したばかりの三宮にある神戸ブティック(兵庫県神戸市中央区三宮町3-1-4/078-333-1038)へと足を運んだ。大丸や老舗の時計店があるこのエリアは、時計好きに知られた激戦区である。

「とにかく時計に詳しい方が多く、自社製ムーブメントを搭載しているかどうかなど、専門的なお問い合わせは日常茶飯事です。昨今の報道にあるような時計ブームが来ているかどうかは正直まだ判断がつかない状況ですね」(ブランド マネージャー・黒野 哲さん)。ブティックの存在は神戸の時計趣味人のクチコミを中心に広まり始めたばかりの模様。探しているモデルがある人には穴場のスポットと言えるかもしれない。

完成したばかりのIWC 神戸ブティック。応接メインの2階を含め、一人でも複数名でもゆったりと時計選びが楽しめる空間が特徴となっている。

最後の訪問はコロナ禍真っ只中の2020年10月にオープンした名古屋ブティック(愛知県名古屋市中区錦3-24-17 BINO栄 1階/052-953-1868)。ここもまたIWC以外に時計ブティック2店舗が横並びで軒を連ねる激戦スポットであり、この状況だけでも名古屋の時計熱がうかがい知れる。

「長くIWCの時計を愛用されている方をはじめ、時計好きな方がオープン時より多くご来店くださっています。一方で、最近は並びのブティックを巡る方が増えており、日々高まる時計人気を体感しています。当店の人気コレクションは、「ポルトギーゼ」「パイロット・ウォッチ」「ポートフィノ」ですね。主に男性にご支持いただいていますが、ときには女性がお一人でご来店くださることも。パートナーとご来店される方のなかには、シェアする前提で40mm以下のサイズの時計を選ばれることもありますよ」(クライアント アドバイザー・田中美咲さん)。

名古屋ブティックはオープンしてから1年のうちに複数本を購入しているリピーターもいるというから、顧客満足度の高さが伝わってくる。

IWC 名古屋ブティックは回遊性の高いフロアに大型スクリーンで世界観を表現。新作「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」(写真:Ref.IW329301 107万8000円)の売れ行きが好調という。

5店舗のIWCブティックを巡ってわかった高級時計が売れる背景

銀座、大阪、神戸、名古屋と取材するなかでわかったのは、確実にいま高級時計がブームになっていること。そして、転売目的で話題の一部ブランドだけの話ではなく、IWCシャフハウゼンのような質実剛健な時計もその盛り上がりの一翼を担っていることだった。この一連の流れを「良い時計」の本質を知る時計愛好家の人々が牽引していたことも理解できた。

そうして一般層も注目することとなった高級時計は、旅行や挙式などのイベントに使うはずだった予算を腕時計という有形の記念品の購入にする「節目買い」人口の増加を伴って需要増となり、各ブティックはインバウンド需要がなくても売り上げが好調を保つにいたったわけだ。

時計製造ラインがフル稼働できず品揃えに偏りが出てしまうのは世界的なコロナ禍の弊害といえるが、その状況下でさらに希少性を増した高級時計に人々の購買意欲が掻き立てられている可能性も高い。以前のように自由に海外旅行ができるようになるのは当分先のことと考えれば、高級時計ブームはまだしばらく続くことだろう。

5つのブティックすべてで売れているという話を聞いた「ポルトギーゼ・クロノグラフ」(神戸ブティックにて撮影。Ref.IW371604 95万1500円)。高級時計の所有欲を満たすスペックを持ちながら、シンプルなデザインで誠実な印象を持たれると好評を得ているという。ステンレススチールケース(シースルーバック)。直径41mm。厚さ13mm。アリゲーターストラップ。3気圧防水

問い合わせ先/IWCシャフハウゼン Tel.0120-05-1868
https://www.iwc.com/

※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、休業日や営業時間の変更、一時休業などを行っている可能性があります。撮影のため一時的にマスクを外していますが、ブティックスタッフは接客に際して感染症予防のためマスクを着用しています。

TAG

人気のタグ