クロノグラフの祖とされる知る人ぞ知る時計師ルイ・モネの名を継ぐ同名ブランドは、創業の地のスイスでは新興勢力に属する。しかしながら個性豊かなコレクションを武器に、現在では世界125か国で展開するまでに至っている。創業者であり、クリエイティブ・ディレクターでもあるジャン・マリー・シャラー氏が今回久しぶりに来日。日本における新しい正規販売輸入元となったジーエムインターナショナルを介し、インタビューが実現した。
「ユーザーを幸せな気持ちにさせる。それが私のミッション」
ルイ・モネCEO兼クリエイティブ・ディレクター ジャン・マリー・シャラー氏
1816年、フランス人時計師ルイ・モネが天文学の研究のために発明した1/60秒カウンターを備える懐中時計型ストップウォッチに出会ったことをきっかけに、同名のブランドを2004年に創業。シャラー氏本人が、ハイエンドで希少価値の高いユニークピースの開発の陣頭指揮を執る。なおルイ・モネ製作の1816年製懐中時計は、2016年に“史上初のクロノグラフ”としてギネス世界記録に認定された。
―― 今回、来日された目的は?
「長い間、コロナ パンデミックで海外への視察が叶わなかったけど、徐々に緩和され、日本にも来ることができました。取り扱い店やメディアの方々、そして新しいパートナーであるジーエムインターナショナルの面々ともリアルなコミュニケーションを図りたかったのです。当然、ビックリするような時計も持ち込んでいますよ」
―― ルイ・モネといえば、これまでも他社では実現不可能なユニークピースを世に送り出していますが、そのアイデアはどこから生まれるのでしょうか?
「創業時より、我々はマイクロブランドだからこそできる創造性を持ったコレクションを重視しています。アイデアの源は、“ユーザーを幸せな気持ちにさせる”が基本。誰も踏み込んでいない新しい世界を求めることで、人に驚きや感動を与えることができる。社員にもその姿勢を心がけてもらい、自由に提案できる社風とすることで特別なアイデアが生まれるのでしょう。
また、我々は年産500本程度の規模。大量生産ができないぶん小回りが利くため、ディテールから機能の細かい点にまで気を配れます。これも、常識を覆す全く新しい時計を作り出せる理由といえるでしょう」
「クロノグラフと密接なレースの世界をカラーで表現」
「タイム・トゥ・レース」 現在は3か国のモデルの展開だが、この4月にドイツモデルが登場。その他の国をイメージしたモデルも検討中とのこと
―― いま注目してもらいたいモデルは?
「まず、各国の印象的なカラーを取り入れたタイム・トゥ・レースを紹介しましょう。ロードレースの世界を表現したモノプッシャークロノグラフで、イギリスはブリティッシュグリーン、イタリアは国旗に使われているレッド、フランスは海や空を想起させるライトブルーをキーカラーに使っています。時刻表示用のサブダイアルの数字2桁は、オーダーによって“1~99”までの好きなナンバーを入れることができるようになっていますが、ひとつの数字に対するロットは1本のみ。これも、世界のどこにもない自分だけの時計を楽しんでもらうためのアイデアです」
風防を通し、ムーブメントの奥行き感がよく見て取れる。クロノグラフを作動させると、さらに壮大な眺めとなる
―― 意図的にコラムホイールを12時に置いて作動を楽しませるスケルトンダイアルやクロノグラフ優先の表示、そして色使いなど、ルイ・モネらしさ全開といえますね。
「このモデルは、46mmケースで展開しているクロノグラフをベースとしており、サイズダウンのニーズもあって新たに開発しました。ですがコトは容易ではなく、46mm用のキャリバーを収めるためにおよそ3年もの試行錯誤を繰り返し、風防を盛り上がったドーム型にして高さをつくることでキャリバーの搭載を可能にしました。結果的にダイアルいっぱいをメカが占めることとなり、平面的だけでなく3Dにその構造を見れるようになったのです」
ルイ・モネ「タイム・トゥ・レース・レーシンググリーン」 Ref.LM-96.20.8VF 616万円(税込)/自動巻き(自社製Cal.LM96)、毎時2万8800振動、48時間パワーリザーブ。グレード5チタンケース(シースルーバック)、ドーム型サファイアクリスタル風防、ラバーストラップ。直径40.7mm、厚さ17.92mm。50m防水。各色世界限定99本(サブダイアルの数字は“1~99”より選択。ただし、ひとつの数字に対するロットは1本のみ)。
「古代から未来まで。限界や常識を超え続けるユニークピース」
宇宙にロマンを感じる人に向けたアーティスティックなユニークピースは、コンプリケーションとメテオライトを贅沢にも融合
―― ルイ・モネといえば、貴重な鉱物などを用いたコレクションも代名詞ですよね?
「その通り(笑)。過去にはダイナソーシリーズで、恐竜の化石の実物をダイアルに使いました。子供のときに恐竜に対して抱いたワクワクするイメージを、大人になっても持ち続けている人に向けて製作した限定品です。そうした憧れは“宇宙”にも向けられますよね? スペース・レボリューションはすぐそこにまで迫っている宇宙への旅を、2つのフライング トゥールビヨンと2隻のチタン製スペースシップ、そして中央部にギベオン メテオライトをあしらうことで表現しました」
ダイアル表面を熟練の技を持つ職人による緻密なギヨシェで飾り、センターに希少なギベオン メテオライトをセット。なお巻き芯がなく、ゼンマイの巻き上げと針調整はリューズを引いてポジション設定する仕組みではない。代わりに7割がたをシースルーデザインが占めるケースバックに、両機能を切り替えるレバーを搭載している
―― トゥールビヨンとその対局にある宇宙船が周回しながら重なり合う。この独創的なコンプリケーションも、実にルイ・モネらしさを表した逸品ですね。
「ブラックフォース(黒い宇宙船)が5分毎に1周、レッドフォース(赤い宇宙船)が10分毎に1周します。センターに集約された機械構造体は時分針を含めて6つのレイヤーから成り立っており、計44個のセラミックベアリングがこれらを滑らかに駆動させています。また特異なポイントが巻き芯を持たないことです。リューズはわずか3.75mm厚の輪列部とリンクしており、ゼンマイの巻き上げと時刻調整を実現しています。こちらの開発にも3年をかけました。470ものコンポーネントから構成される限界の無い宇宙的な機構を、円筒型のサファイアクリスタルケースを通して鑑賞に没入できるのです」
ルイ・モネ「スペース・レボリューション」 Ref.LM-104.50.20B 7150万円(税込)/手巻き(自社製Cal.LM104)、毎時2万1600振動、48時間パワーリザーブ。サファイアクリスタル+18Kローズゴールドケース(シースルーバック)、アリゲーターストラップ。直径43mm、厚さ18.30mm。10m防水。世界限定8本。
―― とても興味深いユニークピースを拝見しました。日本でもオリジナリティのある時計への関心が高まっており、ルイ・モネは今後さらに注目を集めそうです。最後にファンに向けたメッセージをお願いします。
「現代の時計は、時刻表示に加えて個性を主張するアイテムであることが強く求められています。正直、時間はコレ(iPhoneを取り出して)で確認する方法もある(笑) だからこそ時計にアート的な要素を組み込むことが不可欠だと考えています。そしてユニークピースを作ることは、時計を生業とする者にとって憧れのひとつ。多くのメーカーではあらゆる事情によって断念せざるを得ない傾向にありますが、最後までやり遂げられるのがルイ・モネの強み。もちろんデザイナーやサプライヤーとは、ギリギリのラインまで無理を通す議論を重ねる苦悩がありますが…それも私のミッションです(笑)
私が好きな東京も京都も、古いものと新しいものが融合するエキサイティングな都市です。以前、都内で開かれていたフリーマーケットに立ち寄ったことがあり、そこにも過去と現在があって良いインスピレーションを得ました。そうした経験を踏まえ、そう遠くない未来に日本をモチーフにしたユニークピースを作る予定です。ご期待ください!!」
「ルイ・モネ(LOUIS MOINET)」を解説創業年:2004年 19世紀初頭、才能豊かなルイ・モネは時計師のほか、彫刻家、画家、建築家としても活躍した天才肌。その偉大な人物の名を冠する独立系ブランドのコレクションは、いずれも限定生産のユニークピースであり、デザインからメカニズム、マテリアルまでこだわりが貫かれている。 |
問い合わせ先:ジーエムインターナショナル TEL.03-5828-9080 https://www.louismoinet.com/
Text:山口祐也/Yuya Yamaguchi(WATCHNAVI)
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