時計ジャーナリストが語る〝最新こそ最良〟を体現する1本――カルティエ「サントス デュモン」

ロングセラーを誇る腕時計は機能もデザインも完成の域に達しており、モデルチェンジを経ても大きく変わることがない。だからこそ〝最新こそ最良〟であることが義務づけられている。2019年は、ロングセラーモデルをアップデートした新作がいくつか生まれた一年だった。本企画では、〝最新こそ最良〟であることを体現する新作を取り上げ、著名なジャーナリストに評価してもらう。時計ジャーナリスト・柴田 充さんには、長寿命クオーツという新機構を手に入れたカルティエの名作について語ってもらった。

サントス デュモン Ref.CRW2SA0011 62万7000円/世界初といわれる紳士用腕時計「サントス」のオリジナルに近い薄型コレクション。昨年の「サントス ドゥ カルティエ」に続いて、今年リニューアルを果たして新たな表情に。サテン仕上げのボディとポリッシュのベゼル、細身のローマ数字などエレガンスは継承。写真はLMサイズ。ほかSMサイズも展開。長寿命クオーツ(約6年)。ステンレススチール+18Kピンクゴールドケース。アリゲーターストラップ。縦43.5×横31.4mm、厚さ7.3mm。30m防水

「ひとりの男が思い描いた大空への夢を託す」

華やかなりしベルエポックの時代、パリの社交界でひときわ羨望の的となった紳士がいた。男の名はアルベルト・サントス=デュモン。ブラジル生まれの富豪で、当時、ライト兄弟の初飛行や自身の活躍などによって巻き起こした世界的な飛行ブームのなか、飛行機を製作し、冒険航空家として名を馳せた。そしてルイ・カルティエとの深い親交から「サントス ウォッチ」が生まれたのだ。サントスは、大きな襟の白シャツにハットを被り、スーツのラペルには花を飾るのを欠かさなかったという。だが時計に関しては、操縦桿から手を離してジレのポケットから懐中時計を出すという仕草は、陸では優雅に見えても機上では命取りになる。当時すでに腕時計は軍用で存在していたものの、それをサントスが良しとするわけがない。そこで親友のルイに相談したのである。

果たして1904年に完成した腕時計は、ケースとストラップに一体感が漂う、これまでの懐中時計にはない角型を纏った。それは、ポケットからの出し入れのしやすさを考慮する必要のない腕時計独自のデザインであり、やがて1911年には市販モデルが登場した。これが世界初の紳士用腕時計と呼ばれる所以だ。機能性をエレガンスへと昇華させた独創的なスタイルと先見性は、時代と共にさらに磨かれている。「サントス ドゥ カルティエ」は、昨年ケースからブレスレットに連なるシェイプに合わせてベゼルをブラッシュアップし、これに続き、今年は「サントス デュモン」がアップデートし、新たな魅力を見せる。

だが一見しただけでは、かつての「サントス ウォッチ」との違いはわからないかもしれない。基本のデザインコードを変えず、細身のインデックスなど、むしろ1904年のオリジナルモデルをモチーフにしているからだ。一方で本来の機能美を追求。新開発のクオーツムーブメントを搭載し、約6年間の連続作動の実用性と薄く心地良いフィット感を両立している。なおストラップは、手軽に交換可能なインターチェンジャブル式を採用。サントスの愛したファッションへの思いにも寄り添っているといえよう。

大空に挑戦するサントスのパイオニア精神は、腕元の時計となり、現代に継承される。その情熱は常に時代を革新させるのだ。

 

柴田 充
1962年、東京都生まれ。コピーライターとして活躍後、出版社勤務を経てフリーランスのライターに。腕時計のみならずクルマやファッションにも造詣が深い、業界のご意見番。

 

問:カルティエ カスタマー サービスセンター TEL.0120-301-757
https://www.cartier.jp/

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