BORN TO BE WILD! 腕に吸い付くフィット感が野生を呼び覚ます−ノルケイン新作「ワイルドワン」ローンチイベントリポート in ツェルマット

9月21日、新興スイス時計ブランドの【NORQAIN(ノルケイン)】が、最上位コレクションとなる「インディペンデンス ワイルドワン」を発表した。WN編集部は、スイスのツェルマットで行われたブランド初の大型ローンチイベントを現地取材。翌日には、ブランドCEOのベン・カッファー氏と経営顧問を務めるジャン-クロード・ビバー氏へのインタビューも行った。

TEXT/Daisuke Suito (WATCHNAVI)

初のブティックを構えたツェルマットにて新作Wild ONEを発表

マッターホルンを望むスイスの山岳リゾート地、ツェルマット。名だたる時計店、直営ブティックと同じ並びにノルケインは初のブティックを構えた

ノルケインの創業は2018年。その翌年にデビューコレクションを発表すると、早くも世界の主要国で展開を開始。日本でも各地を代表する正規専門店30店舗以上が取り扱いを決めるなど、驚異的なスタートダッシュを見せる。2020年には時計界で特別視されていたケニッシ社(チューダーやシャネルにムーブメントを供給する専門メーカー)と、異例の長期的なパートナーシップを締結。2021年にはマッターホルンを望むスイスの山岳リゾート地ツェルマットに初のブティックをオープンさせるなど、ノルケインは立ち上げから数年のうちに驚くほど多くの話題を提供してきた。彼らが多くのショップやサプライヤーから信頼を得ることができた理由は、CEOのベン・カッファー氏の人柄や人脈はもちろん、彼が掲げた「スイスの伝統的な時計作りを未来に残す」という信念によるところが大きい。「アドベンチャー スポーツ」「フリーダム60」「インディペンデンス」の3つの柱からなる、50以上に及ぶコレクションは、そのすべてにおいてサプライヤーとの関係性をオープンにしてきた。外部企業であってもブランドに関わるすべての人や仕事に光を当て、ともに成長し、歴史を築いていくことでスイスの伝統的な時計作りを後世に伝えていこうという考えだ。

こうしたブランドのスピード感とCEOの信念に共感したのが、時計業界の成功請負人ジャン-クロード・ビバー氏である。彼は2022年から正式にノルケインの経営顧問として参画したのだが、実はそれ以前から約2年かけてベン・カッファー氏と秘密裏に進めていたプロジェクトがあった。それこそが、今回取り上げる新作「ワイルドワン」だ。

ワイルドワンのローンチイベントは、初めてブティックを構えたツェルマットで行われた。会場は、歴史ある映画館Vernissage。とはいえ地下の会場へ降りてもまだ実機を見ることは叶わず、カクテルタイムもそこそこにステージ前の椅子に陣取ってイベント開始まで待機することに。ふと振り返れば、いつしか背後には国内外から100名を超えるであろう参加者が着席し、筆者と同様にイベントのスタートを待っていた。イメージムービーが流れたのち、最初に現れたのは司会を務めるスイス人女優のメラニー・ワイニガー氏。ひと通りノルケインのブランドストーリーを語った彼女の呼び込みを受け、次に現れたのがベン・カッファーCEOだった。彼と司会のやりとりのすべてをここに記したいところだが、さすがに95分に及ぶイベントの内容を事細かに記すこと難しいので割愛させていただく。

4年間走り続けてきたブランドのハイライトになるイベント

彼もまた自身の体験談としてブランドの4年に及ぶ出来事について、ホスト役の司会の問いかけに答える形で振り返っていく。「自分の中でのハイライトだ」とまで語るほど、今回の新作を発表できること、イベントができたことを本当に心から喜んでいた姿が印象的だった。次にステージに加わったのは、新作「ワイルドワン」開発のきっかけを作ったジャン-クロード・ビバー氏。「COVID-19の中で人々がネガティブになる中で、私は若者の手助けをしていきたいと思った。そこで、次の世代の担い手をリサーチしたんだ。ダイナミックで心身ともに優れた人物を。そして見つけたのが、親友のベンだったのさ」という彼と、カッファー氏は客席から見る限りでも心から信頼し合っているようだった。実際に、ビバー氏も「私が20年若返ることができたなら、本当の意味での親友になっていただろう。それほどベンとは同じメンタル、ソウル、ラブ、パッション、ウェルネス、オネスティを感じているんだ」と続けて語っていた。

「彼とはどのように出会ったの?」という司会からの問いかけに対し、カッファー氏は「共通の友人を介して会ったのが最初だね。とてもよく覚えているよ。そのとき、ジャン-クロードに『2週間後にノルケインで会おう』と言われたんだ。半信半疑だったけど、彼は本当に来てくれてね。自分たちのコレクションを見せて、ひと通り説明を終えたら僕にこう言ったんだ『OK。パーフェクト。価格もクオリティもとても良いと思う。素晴らしい基礎ができているよ。だから次に必要になってくるのはイノベーションだな。ハイエンドのタイムピースが合った方が良い』って。それを具体的にどうしていくかというところから、今に至るジャン-クロードとの関係が始まったんだ」。ビバー氏も続けて、「ノルケインにはクレイジーなほど素晴らしいポテンシャルがあると思ったよ。私が成功に必要だと考えている『スペシャル』『ディファレンス』『インディペンデンス』という要素を満たしていたし、ベンの力になることが自分の役割だと確信したんだ」

独自素材「NORTEQ(ノルテック)」を採用した5000Gに耐える軽量ウオッチ

このように35歳以上の年齢を超えて互いを信頼し合う二人だが、もちろん彼らだけでワイルドワンが作られるわけではない。この新作の完成に欠かせなかったのが、トップエンドのブランドのケースも手がけるBiwi SA。同社CEOのパスカル・ブルカール氏もステージに加わったのは、それだけでも筆者にとってはとても珍しい光景に思えた。というのも、スイス時計産業は基本的に複数のパーツサプライヤーなどと協力して時計を手がける分業制を敷いているにも関わらず、サプライヤーの存在を秘匿したがるからだ。

左からベン・カッファー氏、ジャン-クロード・ビバー氏、パスカル・ブルカール氏

パスカル氏が主に語ったのは、新素材「NORTEQ(=ノルテック)」について。これは、カーボンファイバーを主成分とし、あらゆる外的要因の耐性に優れ、超軽量。しかも、黒以外のあらゆる色表現を実現しながら、ノルケインが重要視する魅力的な価格も維持するハイパフォーマンス素材である。「ノルテックは開発に2年かかりました。カーボンファイバーとバイオ由来原料を60%含む高性能ポリマーマトリックスでできています。開発にはとても多くのチャレンジがありました。ただ個人的なことを言わせてもらえば、ベンとジャン-クロードのふたりを失望させないことが、最大のチャレンジでしたね(笑)」(パスカル氏)。

Biwi SAによるワイルドワンの外装スケッチ

ただしノルテックは、ワイルドワンをカバーする役割を持つパーツでしかない。Biwi SAは素材開発のみならず、デザイン、コンセプトも請け負っており、ケース構造も設計する必要がある。ユーモアを挟んではいたものの、サファイアクリスタル、チタン、ノルテック、ラバーといった硬さが大きく異なる素材を完全に結合させるためには相当な苦労があったに違いない。

さて、ここまでですでにイベントは45分を経過。ワイルドワン開発の主要人物によるトークがひと通り終えたところで、いよいよお披露目のカウントダウンがスタートする。10、9、8、7…0! そして再び始めるイメージムービー。大自然や様々なアクティビティに取り組む人々の姿と共に、ワイルドワンの特徴が表現される。カラーバリエーションはブラック×カーキ、ブラック×ブルー、バーガンディ×グレー(200本限定)の展開であることが明らかにされてムービーは終了。

余韻も冷めぬまま壇上の話題は彼らの着用モデルについて。カッファー氏もビバー氏も着けていたのは、同じブラック×カーキのワイルドワンだった。カッファー氏曰く「バーガンディとグレーの組み合わせも好きなんだけど、カーキとブラックの方がなにかと使いやすいからね」とのこと。ビバー氏の口からは、「製品版はこのイベントの前日に初めてみたのだが、本当にスペシャルな時計が出来上がったと思う。ワイルドワンは、間違いなくノルケインの高価格帯を牽引するスタンダードとして成功を収めるだろう」という感想が語られた。

製品お披露目後は、ノルケイン プロダクトディレクターのセドリック・ルノーによる詳細な製品プレゼンテーション。ワイルドワンが誇る堅牢性、耐衝撃性、快適性についての話や、文字盤/ケース/ムーブメントなど製造に関わるサプライヤーのすべてが、ノルケイン本社を中心に半径50km圏内にあること。それにより迅速な意思決定、開発、輸送などが可能であることなども語られた。

外装パーツの展開図。ベゼルと裏蓋はノルテック、ライムグリーンのパーツはラバー、ムーブメントを保護するコンテナはチタンとなっている

ディーン・シュナイダーと開発した特別モデルや新たなアンバサダーもお披露目

セドリック退席後にステージに呼び込まれたのは、野生動物保護活動家でブランドアンバサダーでもあるディーン・シュナイダー氏。ノルケインのブランドステートメントである「your life, your way」そのものの歩みを続ける彼の生き様に共感する人は多く、たとえばインスタでは1千万以上ものフォロワー数がいるほどだ。「周りにどう思われようとも、自分の信念を貫くことが大切だ」とステージ上で語った彼もまた、ワイルドワンの開発に加わった一人であり、このモデルの特別仕様「ハクナ ミパカ」には彼の意見がふんだんに取り入れられている。

文字盤とストラップにはライオンのたてがみを彷彿とさせるランダムなパターン装飾を施したほか、独特の斑点模様を持つヴィーガンのサンドカラーラバーショックアブソーバーには、南アフリカにある彼の自然公園であるハクナ ミパカ オアシスの砂を配合。限定500本で製造される本機は、売上の10%を同オアシスに寄付される。こうした背景もあるように、ワイルドワンは動物由来の製品を一切使用せず、野生動物を傷つけることなく製品化されたものであるのも興味深い。なおこれは後日談ではあるが、10月時点でオンライン販売分は完売し、あとは各地の正規取扱店での入荷分で手に入れるしかないという状況だという。

左から司会のメラニー・ワイニガー氏、伝説的なスイス人アイスホッケー選手でスタンレーカップの優勝者にしてノルケインの共同創業者兼取締役でもあるマーク・ストライト氏、スキー レースの選手でオリンピックメダリストのミシェル・ギザン氏、マッターホルンのトレイル最速記録保持者アンディ・スタインドル氏

ここまででワイルドワン関連の話題は終了。続けてノルケイナー(アンバサダー)の紹介へ移る。最初に登場したのは、伝説的なスイス人アイスホッケー選手でスタンレーカップの優勝者、そしてノルケインの共同創業者兼取締役でもあるマーク・ストライト。続けて、スキー レースの選手でオリンピックメダリストのミシェル・ギザンが呼び込まれ、最後に現れたのはローカルヒーローのアンディ・スタインドルだった。このアンディもまた凄まじく、ツェルマットの境界広場からマッターホルン山頂までの往復の行程、実に標高差2861hm、全長22.8kmを4時間未満(03:59:57)で完走した実績は前代未聞。そんな彼に目を付けるノルケインもまたふるっている。彼らの活動などが説明され、イベントは終了。と同時に、ワイルドワンの実機が展示された“ジャングルスペース”が開放され、ついに製品と対面を果たす時がやってきた。

スイスメイドの超軽量ハイパフォーマンスウオッチは80万円以下で展開

 

待望の実機を前にすると、独自素材ノルテックと手作業で仕上げたラバーショックアブソーバーの一体感ほか、細部の作り込みに至るまでスイス高級時計の流儀に則ったものだとわかる。裏をチェックすればケニッシ製エクスクルーシブキャリバーNN20/1の動きが確認可能。9時側のベゼルと裏蓋を指で押し込むとわずかに沈み込む感触が伝わり、ショックアブソーバーの存在が確認できる。多層レイヤーダイアルは、現代技術をしても複雑さ緻密さを極めるパターンにより存在感を発揮している。驚いたのは、手に持った時と実際に装着した時の重量の違いだ。軽量な腕時計自体は機械式時計であっても珍しいものではない。ただ、軽いからといって着け心地が良いかというと、そう簡単にいかないのが腕時計の難しいところ。そのようなストレスがワイルドワンにはなく、手首と同化したのではないかと思えるほど腕に馴染んだのである。もちろん個人差のある感想ではあるが、もし今後ワイルドワンを目にする機会があれば、必ず一度は試着をおすすめする。この着け心地の良さは、なかなか貴重である。

ジャングルイメージの空間にディスプレイされた新作「インディペンデンス ワイルドワン」 Ref.NNQ3000QBK1A/B002 76万6700円 自動巻き(キャリバーNN20/1)。毎時2万8800振動、70時間パワーリザーブ。ノルテック+ラバーケース。直径42mm(厚さ12.3mm)。ラバーストラップ。200m防水

最後に、このローンチイベントの終了時刻はAM3時だとアナウンスされていたのもなかなかにクレイジー。翌日にカッファー氏とビバー氏への重大なインタビューを控えている筆者は、早々に会場を後にさせていただいた。そのインタビューの内容は後編にてお伝えする。

問ノルケインジャパン Tel.03-6864-3876
https://www.norqain.jp

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