時計界の雲上ブランドには、これぞといったドレス系デザインの“ザ・シンプルウオッチ”がラインナップされている。それらは栄光の歴史や技術の高さを物語るシンボリックな存在であり続けている。
本記事では、技術、クオリティ、ステータスでいずれも時計界の最高峰に君臨し続けている「パテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)」のシンプルモデルの魅力を掘り下げる。
腕時計のフォルムを決めた原点としてのシンプルさ
ブレゲの「クラシック」が懐中時計の全盛期に隆盛を極めた“古典的ディテール”の集大成だとしたら、腕時計独自の様式美を作り上げたのがパテック フィリップの「カラトラバ」だと言える。ラウンドケースの腕時計は、そのデザイン的な源流を辿って行けば、必ずふたつの腕時計に辿り着く。ひとつはロレックスの「オイスター」。そしてもうひとつが、この「カラトラバ」なのだが、後者のほうがよりシンプルウオッチらしい、堂々たる風格を備えている。
しかし不思議なことに、当のパテック フィリップ自身が定める「カラトラバ」の定義は意外なほど簡潔だ。それに従うなら、丸型のシンプルな腕時計はすべて「カラトラバ」と言うことになるのだが、その中でも時計好きが別格として捉えているのが、1930年代に始まるRef.96の系譜だ。リファレンス末尾にこのナンバーを持つ時計は、ラウンドケースにスモールセコンド、エッジを効かせたバーインデックスに、ドーフィンスタイルの時分針を持つ。歴代機では1982年発表のRef.3796、そして2004年発表のRef.5196が正統な96系の後継機となるが、1930~50年代までの同社は96系のケースでさまざまな試みを行っており、例えばセンターセコンド+セクターダイアルを再現したRef.5296などの例外も、長いパテック フィリップの歴史の中には数多く存在したようだ。
そうなると、96系が「カラトラバ」の象徴として認識されている要因は、ダイアルの意匠や針の配置とは無関係に、ラウンドケースそのもののディテールに収斂されてくる。1932年に発表されたRef.96のケースが、なぜすべての腕時計の始祖と目されるのか? それはミドルケースと一体化されたラグを、ケース側面のラインに繋げることで、腕時計独特の美しいフォルムを描き出したことによる。また、アプライド(植字)によるバーインデックスも、それまでの懐中時計の作法とは一線を画するものだったと言えるだろう。
シンプルであるが故に際立つフォルムの美しさ。その原点でもあり、現代も比類ない個性を誇っているのが、96系「カラトラバ」なのである。
1991年に発表された、長く製造され続けている信頼性の高い自社製手巻きムーブメント「キャリバーCal.215 PS」を搭載。かつての“紳士用”に沿った9リーニュ(直径21.9mm)と小振りだが、安定した毎時2万8800振動のハイビートを実現。携帯精度に優れるフリースプラングなど、当時としては先進的な設計が盛り込まれた。
ミニマルなバランスを極めた腕時計の原点
パテック フィリップ「カラトラバ」Ref.5196 282万7000円
1980年代にRef.96の復刻版としてラインナップされた、Ref.3796の後継機。2004年に発表された当時は、一気に37mmまで拡大されたケースが話題となったが、現代の目で見れば小振りな範疇に入るだろう。標準的なスナップバック仕様を継承するなど、派手さはないものの、その分タイムレスな魅力に溢れた傑作時計だ。手巻き(Cal.215 PS)。18Kホワイトゴールドケース。直径37mm(厚さ7.68mm)。3気圧防水
問い合わせ先: パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109 https://www.patek.com/ja
- TAG