時計界の雲上ブランドには、これぞといったドレス系デザインの“ザ・シンプルウオッチ”がラインナップされている。それらは栄光の歴史や技術の高さを物語るシンボリックな存在であり続けている。
本記事では、創業時から途切れることなく継続されている中で、最も古い歴史を誇る「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」のシンプルモデルの魅力を掘り下げる。
アーカイブの換骨奪胎から生まれたケースプロポーションの黄金律
20世紀の幕開けとともに誕生した腕時計が、その基本形状を確立させるのは1930年代のこと。それに続く約30年の年月で、デザインの幅を大きく押し広げたのがヴァシュロン・コンスタンタンだった。そうしたアーカイブピースの換骨奪胎から生まれた「パトリモニー」は、現代のアイコンたる資質を持つ。
さまざまな表情を持つシンプルウオッチの中でもミニマルなモデルが、時針と分針しか持たない2針時計だ。これはフォーマルな席で身に着けるドレスウオッチの基本でもあるのだが、機能的なディテール要素は極めて少ない分、デザイン面での個性を盛り込むことは、ぐっと難しくなってくる。針が多いほどデザインも複雑だと思うのはまだまだ時計ビギナーで、上級者になるほどシンプルなほど難しいことをよく識っている。たった2本の針だけで、フォルムの美しさのなかに、ひと目でそれと分かる個性を実現しているのがヴァシュロン・コンスタンタンの「パトリモニー」である。
ロレックスの「オイスター」、パテック フィリップの「カラトラバ」を経て確立された腕時計の基本デザインに、積極的に華やかな意匠を加味してきたのが1960年代頃までのヴァシュロン・コンスタンタンだった。前者ふたつとは異なり、ラグをミドルケースに溶接する手法を好んだヴァシュロン・コンスタンタンは、様々なデザインのファンシーラグで愛好家の目を楽しませてきた。「コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ」と呼ばれたティアドロップラグや、「フィフティーシックス」の源流ともなったシェブロン状のラグは特に有名だ。
そうした一方でヴァシュロン・コンスタンタンは、ラウンドケース自体のプロポーションでも、独自性を模索してきたことで知られる。60年代頃までに作られた、ヴァシュロン・コンスタンタンのシンプルウオッチは、ケース径に対してラグの幅をぐっと絞って細身のストラップを装着し、また分針も少し短めというプロポーションを持っていた。こうしたアーカイブ的なデザイン要素を洗い出し、換骨奪胎した現代のアイコンが「パトリモニー」なのだ。バックケース側に向けて絞り込まれた側面のプロポーションと、ぎりぎりまで細くしたベゼル、そしてショートラグという組み合わせは、極めて優れた装着感とスリムな印象を与えてくれる。ボンベ状のダイアルに沿わせた針とアプライドインデックス、そして2019年から新導入された「マジェスティックブルー」。その組み合わせが非常に美しい。
搭載するヴァシュロン・コンスタンタンのマニュファクチュールムーブメント「キャリバー1400」は、2001年に発表された。旧HDGの基本設計をベースにして、VCVJ編入後に徹底的な手直しが加えられた超高級メカ。毎秒8振動のハイビート機ながら、サイズは伝統的な9リーニュ(スイスやフランスで用いられているムーブメントサイズの単位)を保ち、ジュネーブ様式に則った独立ガンギ受けなどを備える。
シンプルウオッチを極めれば2針だけの美しさに行き着く
ヴァシュロン・コンスタンタン「パトリモニー・マニュアルワインディング」Ref.81180/000R-B518 224万4000円
2004年に発表された手巻きの2針パトリモニー。9リーニュの古典的なムーブメントを搭載しながら、ケース径を大幅に拡大。その分ベゼル幅を絞り、ダイアル開口部を大きくとってプロポーションをスリムに見せている。2019年にピンクゴールドケース専用カラーとして導入されたマジェスティックブルーの文字盤は、PVDコーティングによる発色が美しい。手巻き(自社製Cal.1400)。18Kピンクゴールドケース。ミシシッピアリゲーターストラップ。直径40mm(厚さ6.79mm)。3気圧防水。
問い合わせ先:ヴァシュロン・コンスタンタン TEL.0120-63-1755 https://www.vacheron-constantin.com/jp/