連載 第2話【半世紀前の伝説】映画『アポロ13』でも描かれた「オメガ スピードマスター」の偉業――稀代のクロノグラフが活躍する前夜

宇宙開発史において、スイスウオッチブランド「オメガ(OMEGA)」がいかに貢献してきたかを解説する連載 第2話。第1話では、NASA(アメリカ航空宇宙局)によってクロノグラフの傑作「スピードマスター」が認められたエピソードを紹介した。この回では、アポロ13号を襲った“アクシデント”について触れる。

アポロ13号に襲いかかった事故。そして3名の運命は……

「アポロ13号」は1970年4月11日、米国中部時間13時13分にケネディ宇宙センター・第39発射台から打ち上げられた。クルーは船長のジム・ラベル、司令船操縦士のジャック・スワイガート、月着陸船操縦士のフレッド・ヘイズの3名で、ミッションの目的は月面の直径80kmにも及ぶクレーターがあるフラ・マウロ高地に降り立ち、様々なサンプルを採取することであった。

アポロ13号の打ち上げ台に向かうため、バンに乗り込む3名のクルー。

 

若干のトラブルに見舞われたものの、打ち上げは成功。工程も順調に進んで第3段ロケットを切り離し、これに格納されている月着陸船「アクエリアス」と、司令船・機械船からなる本船「オデッセイ」のドッキングも終えた。これにて航行態勢となり、一路、月に向かって進み始めた後の打ち上げから55時間55分後、突如その“アクシデント”は起こった。機械船に搭載されている2基の酸素タンクのひとつが、皮膜が剥がれたケーブルの放電によって燃焼。圧力の上昇によって爆発し、機械船の外壁パネルを吹き飛ばしたのだ。

アポロ13号において酸素は呼吸用だけでなく、水素と反応させて電力や水を作るための生命線ともいえるもの。この爆発で残されたもう1基の酸素タンクも損傷したほか、酸素と水素のタンクに連動した複数の電池によって稼働する2基の電源のうち1基は完全に機能を停止してしまった。残る1基も大幅にパワーダウンし、こちらも停止まで残りわずか。つまり電力も水も、呼吸に必要な酸素も失う窮地に陥ってしまった。

クルーの報告を受け、ヒューストンのNASA管制室では即座に対応を迫られることになった。機械船と統合された司令船には帰還時の大気圏突入用にバッテリーが備えられているが、余剰はないためこれを使うわけにはいかない。残された方法は、月面への着陸時に本船から切り離して使う月着陸船に搭乗員を移動させ、地球に帰還するというものだった。月着陸船には本船搭載の電力供給システムとは別途バッテリーが備えられており、これを利用する判断を下した。

アポロ13号で船長を務めたジム・ラベルは当時42歳。1968年12月に実施されたアポロ8号計画で司令船操縦士として搭乗し、月周回飛行の実績があった。その経験が13号の危機脱出に生かされた。

 

この時点で本来の月面探査は当然中止。クルーがいかにして帰還するかのみが焦点となったが、月着陸船は本来司令船から月面への往復で2名のみが搭乗することを想定して設計されていたため、3名が想定時間を超えて搭乗するのは明らかに無理があった。時間に関していえば、爆発が発生した時点ですでに地球から32万1860km。宇宙船が“回れ右”をして最短で地球に引き返せる限界をとうに過ぎていたし、たとえそれ以前だったとしても、爆発を起こした本船のエンジンがフルスロットルで逆噴射をかけても大丈夫かどうか、保障はなかったのである。

最短で帰還する必要があったものの、消去法によって直ちに引き返すのではなく、そのまま月の軌道を周回し、通常の推進力で地球の重力圏に戻ることがベストとNASAは判断した。だがそれには最低4日間を要し、電力のほか水や酸素も足りない。アポロは通信装置以外の大半のシステムをオフにし、電力を極力セーブしながら地球を目指すほかなかった。クルー3名は、管制室の指示に従って司令船をシャットダウンすると、狭小な月着陸船に移動。月の裏側を回り、地球への帰還路に入った。水は最小限しか飲めず、暖房が使えないため船内は極寒の環境に。睡眠もままならず、極度の不安とストレスに苛まれながら管制室との交信を続け、地球帰還への対策をとった。

地球への大気圏突入に際し、司令船から切り離された機械船(写真奥)。船体の外壁が吹き飛ばされ、内部が露出しているのがわかる。

 

そののち、重大な問題がアポロに降りかかった。管制室からの知らせで、地球の大気圏に突入する際の角度が浅くなりつつある、というのだ。突入角度が浅いと大気の層に跳ね返され、待ち受ける運命は再突入まで2週間かかる別の軌道に乗るか、永久に帰還できないという最悪のシナリオ。爆発後、気体の漏出が微弱ながらも推力となり、船体の針路に影響したとも考えられたが、原因は不明だった。彼らが再び地球の土を踏むためには、船体のロケット・エンジンをよき按配で噴射し、軌道を修正するほかなかったのだった。無駄な電力が使えない状況下において、唯一無二のクロノグラフ「スピードマスター」が、地球帰還のカギとなるシーンがこの後訪れる。

連載 第3話では、アポロ13号クルーの命を救ったスピードマスターの働きについて紹介する。

 

月との親和性が高いスピードマスターに満ち欠け表示を備える

【現行モデル】オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ マスター クロノメーター」Ref.304.33.44.52.03.001 124万3000円/自動巻き(自社製Cal.9904)、毎時2万8800振動、60時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)。アリゲーターストラップ。直径44.25mm。10気圧防水

マスター クロノメーター キャリバー9904を搭載する自動巻きスピードマスターで、クロノグラフのほかに9時位置インダイアルにポインター式のカレンダー、6時位置にムーンフェイズ(月齢表示)を備える。ロジウムプレート仕上げのインデックスを配したサンブラッシュ仕上げのダイアルから、リキッドメタルのタキメータースケールが入ったセラミック製ベゼルリング、そしてアリゲーターストラップまで、エレガントなネイビーブルーで統一。

 

問い合わせ先:オメガお客様センター TEL.03-5952-4400
https://www.omegawatches.jp/ja/

 

©All photographs courtesy of NASA from nasaimages.org

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