オルセー美術館のワールドプレミアをレポート! ルイ・ヴィトン「タンブール」はハイウオッチメイキングの領域へ

7月5日、パリのオルセー美術館でルイ・ヴィトンが時計の新作発表を行った。日本メディアはWATCHNAVI編集部含め、6媒体が参加。プレゼンを行ったウオッチディレクターのジャン・アルノー氏が「新しいチャプターに入った」と語った、新作「タンブール」について現地取材のレポートを交えながら詳しく解説する。

TEXT/Daisuke Suito(WATCHNAVI)

パリで新作発表を行った真意

ルイ・ヴィトンの創業地がフランス・パリであることをご存知の人は多いだろう。今回、ワールドプレミアが行われた新作タンブールの発表もパリで行われた。会場はオルセー美術館。LVMHとルイ・ヴィトンが運営をサポートしている、パリ3大美術館のひとつである。プレゼンテーションはオルセー美術館の特別室で、午前中のうちに行われた。プレゼンターはウオッチディレクターのジャン・アルノー氏だ。

“象徴的な『タンブール』のシェイプをベースにした大胆なウォッチメイキング デザインが登場してから20年。160年以上にわたって メゾンの礎となってきたモダニティ、エレガンス、そして機能性の追求はそのままに、ルイ・ヴィトンは、この新たなウオッチのあらゆる要素において、前例のないレベルの洗練性をもって、ウォッチ コレクションのラインナップをさらに充実させます。今回の発売にあたり、ひと目でルイ・ヴィトンと分かるスタイルを備えつつ、確かな時計製造技術に裏打ちされたウオッチを作ることでメゾンのウオッチメイキングの歴史に新たな一章を開くことを目指しています”–ウォッチ部門ディレクター ジャン・アルノー

プレゼンテーション終了後は新作のタッチ&フィールタイム。タンブール初となるラグ一体型ブレスをモチーフにした壁伝いに歩くと、大きな見どころとなる50工程も経て完成するという文字盤と、新規開発されたキャリバー「LFT023」の拡大模型が展示されていた。

この文字盤の最大の特徴は、センター部分に入った縦の筋目模様。わずかな角度の違いや環境光によって色も見え方もダイナミックに変化するのである。この特徴を効果的に演出するのが、レイヤー構造になったサンドブラスト仕上げの盤面。外周はインデックスに呼応するようにカット。それらをそれぞれのレイヤーを区切るようにセットされたメタルリングの光沢が、細部に至る造形を際立たせる。これら要素だけを取り上げても50工程を要するという説明が納得できるほど、手の込んだ作りとなっている。

わずかな空間にいくつもの階層を構築した文字盤は、8.3mmの厚みの時計に驚くほどの奥行き感をもたらした。©LOUIIS VUITTON

また、アプライドインデックスや時分針にはホワイトゴールドを用いるラグジュアリーな素材使いにより気品を演出。これに蓄光塗料スーパールミノバを施すことでスポーティな雰囲気を加えた。ちなみに最新型では、12時側に「LOUIS VUITTON PARIS」、6時側の最外周に「FAB. EN SUISSE」と記されることとなった。これはルイ・ヴィトンがパリ生まれのメゾンであることを象徴すると同時に、時計の製造(Fabrique=ファブリケ)がスイスで行われたことを示す表記となっている。これは、アルノー氏が述べたように、時計界におけるルイ・ヴィトンのウオッチメイキングがネクストレベルに到達したという自負に違いない。

今後のウオッチメイキングの軸となりうる新型キャリバー

キャリバーのブリッジなどには最新ハイウオッチコレクション「オートマタ」にも通じる仕上げを施す

新型キャリバーLFT023の頭文字LFTは、もちろんルイ・ヴィトンのウオッチメイキングアトリエ「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」を表している。023の数字についての言及はなかったが、誕生した西暦に由来、と考える筆者はやや安直か。開発には、直近の話題作Biverのカリヨン・トゥールビヨンも手がけたLe Cercle des Horlogersも関わっており、3針仕様ながらハイクオリティな仕上がりに。角穴車をモノグラム・フラワー モチーフにし、輪列受けに「L」の形状をデザイン。シンボリックな22Kマイクロローターには、ファインジュエリー コレクション「LV ヴォルト」にも通じる装飾が施された。

なお、時計通の人なら違和感を覚えた人もいいるかもしれないが、このキャリバーLFT023では赤い人工ルビーが使われていない。代わりに、無色透明のシンセティックサファイアを用いて、シルバーとゴールドのツートーンにまとめあげた。筆者の見立てではキャリバーLFT023は、今後ルイ・ヴィトンのタイムピースにおける重要なベースムーブメントになりうる。そうした派生型が増えていくほど、作り込まれた細部の輝きも増していくのである。パワーリザーブは50時間、振動数は毎時2万8800振動とスペック値に突出した点はなくとも、仕上げの完成度は超一流。精度でもTIMELAB財団後援によるジュネーブのクロノメーター検定機関による認定を取得するなど、質実伴ったキャリバーとなっている。

外装面で特筆すべきはもちろんケースインテグレーテッドブレス。開発に2年を要したというブレスは両端を面取りしたシングルリンクを採用。連結用リンクにポリッシュ仕上げを施すことで、絶妙な光沢感を手首にもたらす。バックルは、ブレスはボタンを持たないシンプルな両開き式を採用。ブレスリンクのシームレスな連なりは時計の美観向上に貢献するとともに、装着時の快適性にも寄与している。エンドピースはねじ留め式になっており、裏蓋側で固定する構造。重心を下げつつ、幅広のエンドピースから5リンク目まで徐々に絞るテーパーをかけることで、安定したフィット感を実現した。最大のアイコンデザインである太鼓型のケースは従来は14mm程度の厚みが魅力でもあったが、それを一気に最新作では8.3mmにまで抑制。先ほどのブレス形状と取り付け位置の配慮も手伝って、かなり良好なフィット感が得られた。サイドビューからは、これまで打刻されていたブランドのシグネチャーがレリーフとなった点も見逃せないポイント。ここに特徴を持たせることでブレスを裏蓋の面を揃えたときに生まれる余白をうまくデザインに落とし込んだのである。

ルイ・ヴィトン「タンブール」左)Ref.W1ST20 261万8000円 右)Ref.W1ST10 261万8000円 自動巻き(キャリバーLFT023)、毎時2万8800振動、50時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース&ブレスレット。直径40mm、厚さ8.3mm。50m防水 ©Laziz Hamani

取材後記

いくつもの新たな魅力を備えたタンブールは、この時計のためだけのモノグラム・ウオッチボックスが付属するのも大きな魅力。熱心なルイ・ヴィトンファンなら、このボックスを目当てに購入を検討する人さえいるのではないだろうか。なお、これまで展開してきたタンブールについては徐々に縮小していくとのこと。生産本数や今後の展開など、まだまだ気になる点は多いがひとつ言えることは今後のタンブールは、今作がベーシックでありエントリーのひとつになるということ。円安続きで価格高騰が止まらない昨今の高級時計市場において、今ほど「欲しい時が買い時」という言葉が身に染みるタイミングはない。高いと思って手をこまねいていると、このタンブールもそう遠くない未来に“高嶺の花”となってしまうことだろう。

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問い合わせ先:ルイ・ヴィトン クライアントサービス TEL.0120-00-1854
https://jp.louisvuitton.com/

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