ブランパンの名作ダイバーズ「フィフティ ファゾムス」の70周年記念モデル第3弾は忠実復刻のようでいて実は先進技術を満載

『ローマの休日』や『地上より永遠に』といった名作映画が生まれた1953年、ダイバーズウオッチにもひとつの名作が生まれた。現代の潜水時計の礎を築いたこの腕時計こそ、【ブランパン(BLANCPAIN)】が開発した「フィフティ ファゾムス」である。デビュー70周年の節目となる2023年は同コレクションよりアニバーサリーモデルが生まれ、その3つ目として限定仕様の「フィフティ ファゾムス 70周年記念 Act 3」が先日公開された。ブランパンで初めてブロンズゴールドをケース素材に使うなど、名作ダイバーズを称えると同時に新たな試みに挑戦した一本に注目が集まっている。

フィフティ ファゾムス70周年記念の第3弾はオールドファン歓喜の「MIL-SPEC」復活

 

1953年当時にブランパンのCEOだったジャン=ジャック・フィスターが、フィフティ ファゾムスを開発するきっかけとなる潜水中の出来事があったカンヌで大々的に発表された「フィフティ ファゾムス 70周年記念 Act3」は、そのベースモデルを予測していた人もいたのではないだろうか。なにしろ、モチーフになったのはヴィンテージ市場で衰え知らずの人気を誇る「MIL-SPEC」である。実際、現CEOのマークA.ハイエックも「人気があるモデルだから」と認めていた。ファンにとっては予測というよりも、むしろ期待していた一本に違いない。だが、そこはブランパン。単なる復刻では終わらなかった。


↑1957年製のMIL-SPECオリジナルモデルが備えていた特殊な防水性表示を同じ位置に踏襲。時計に水分が侵入すると色が変化し、ダイバーに注意喚起を行う

 

まずはケースには、9Kブロンズゴールドが採用されている。合金のレシピは、ブロンズ50%に対し、ゴールドが37.5%。これにシルバー、パラジウム、ガリウムを合わせることで、温かみのある独特の色味を得ながら酸化による緑青の発生を防ぐ。この“ブロンズゴールド”という素材の選択がまた、既存品にも随所にゴールドパーツを組み込んできたブランパンらしい。マッシブな中に高級感を潜ませる手腕は、さすがである。


↑高さのあるサファイアガラスがヴィンテージ感を演出。この風防を含め、厚さは13.3mmを形成。時計のカラーコードに合わせたNATOストラップは、海洋から回収された魚網を原材料としている

 

ムーブメントは、ごく一部の特別モデルに採用されたことのあるノンデイト仕様のキャリバー1154の改良版となる1154.P2を搭載。シリコン脱進機や独自の合金の採用により、軟鉄製インナーシールドを用いることなく1000ガウス耐磁性能を実現している。これはブランパンでは初の快挙であり、これだけでも格別の限定感が味わえる。シースルーバックからは、いかにも堅牢そうな新設計のプレートに施された仕上げと、18Kローターの動きが確認可能。パワーリザーブは変わらず100時間を確保しており、もちろん防水性能は30気圧対応となっている。


↑キャリバー1154.P2の動きがシースルーバックから楽しめる。こちらのマニュファクチュールムーブメントは、高精度な定番キャリバー1150のノンデイト版1154から、耐磁性能を1000ガウスまで強化している

 

わずか555本のみ製造される本機は、歴史的なカメラのケースに着想を得た特製ボックス付き。幸運にも手にすることができたなら、この本格ダイバーズウオッチを腕に水中写真を撮影した、かつてのダイバーに思いを馳せてみてはいかがだろう。


↑ダイビングスケール付きのブラックセラミック製逆回転防止ベゼルを装備。緻密な刻みが、操作性の向上とヴィンテージ感を強調する。このベゼルのフラットさとドーム型風防のバランスも美しい

 

入手困難必至! 世界限定555本の希少フィフティ ファゾムス


ブランパン「フィフティ ファゾムス 70周年記念 Act 3」 Ref.5901-5630-NANA 442万2000円

多くのエピソードに彩られた、ヴィンテージウオッチ市場でも人気のMIL-SPECモデルを現代技術で復刻。70年前のオリジナルに忠実な41.3mmのケースには、9Kブロンズゴールドをブランド初採用している。6時側にはアイコニックなグレーの防水性表示を備える。100時間パワーリザーブの新開発マニュファクチュールムーブメントを搭載。

スペック:自動巻き(自社製Cal.1154.P2)、毎時2万1600振動、100時間パワーリザーブ。9Kブロンズゴールドケース(シースルーバック)、NATOストラップ。直径41.3mm、厚さ13.3mm。30気圧防水。世界限定555本。

 

多くの派生型を手掛けても貫き続けたハイスペック

Act3をよりよく知るには、ぜひともフィフティ ファゾムス70年の歴史を把握しておきたい。そもそもブランパン自体は1735年創業と、現存する世界最古の伝統を持つ由緒正しきブランドだ。1932年に創業家一族の7代目が亡くなると、彼を長年にわたって支えてきたベティ・フィスターが初の女性CEOに就任。そして彼女の甥のジャン=ジャック・フィスターが1950年からブランパンの共同CEOとなったところから歴史が動き始める。

ある日、熱心なダイバーだったジャン=ジャック・フィスターは、自分の愛する南仏・カンヌでダイビングを楽しんでいたという。だが、夢中になるあまり空気が不足。危うく命を落としかけたのである。この経験をもとに、彼はスキューバダイビングのニーズに合った時間計測の必要性を痛感。ダイバーズウオッチの開発に着手する。

 

1953年に発表した初号機は、二重の防水シールが施されたリューズや裏蓋の密閉システム、ロック可能な回転ベゼルで特許を取得。リューズのパッキン摩耗を減らす自動巻きキャリバー、10気圧以上の防水性、視認性に優れた文字盤などの本格仕様まで実現した。この高性能には、軍関係者も注目。フィフティ ファゾムスはやがてフランス、ドイツ、アメリカ、ノルウェーなどのコンバットスイマーが装備することとなった。

また、1950年代当時にフィスターは防水性表示も開発しており、1957年にMIL-SPEC1を発表。さらに、1963年にスイスで施行された「放射線防護規則」により時計の夜光塗料としてラジウムが事実上の使用禁止になると、「NO RADIATION」と文字盤に記したモデルを発表する。これら以外にもフィフティ ファゾムスには、バラクーダやBUNDといった派生型がある。いずれもユニークな誕生背景を持つ生産数の少ないコレクターズアイテムだ。

現代版フィフティ ファゾムスは、マークA.ハイエック氏が社長兼CEOに就任した2003年の誕生50周年記念モデルをきっかけに復活。オリジナルに忠実でありながら先進ムーブメントを搭載し、サファイアクリスタルベゼルで300m防水を確保した限定モデルが大成功すると、2007年のレギュラーモデル復活の嚆矢になった。

元来、フィフティ ファゾムスは、その誕生時から現代に至るまでコンバットスイマーやエリートダイバーの要求に応えてきた”真の現代ダイバーズウオッチ”である。それが今や、唯一無二の本格性能を持つラグジュアリーダイバーズへと進化し、多くの時計好きに歓迎された。

一方でテック ゴンベッサのように実践的な技術成果を上げ続け、本格志向の人の心もとらえて離さない。このようにフィフティ ファゾムスは、多くのファンを抱える時計界でも稀有なコレクションである。対して、Act3の限定本数は555本とあまりに少ない。このモデルを腕に70周年のフィナーレを迎えられたら、それほど最高なことはないだろう。

 

問い合わせ先:ブランパン ブティック 銀座 TEL.03-6254-7233 https://www.blancpain.com/ja ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。

Text/水藤大輔(WATCHNAVI) Photo/新垣隆太(CASK) Styling/石川英治(TableRockStudio)

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