時計界のアカデミー賞も受賞した【オーデマ ピゲ】新定番「CODE 11.59 by Audemars Piguet」の5年の歩みから読み解く今後の展望

<取材・撮影協力>
オーデマ ピゲ

オーデマ ピゲの次世代を担う「CODE 11.59 by Audemars Piguet」が誕生から丸5年が経過した。この節目に、改めてこのコレクションの魅力と存在意義について、ブランドの歴史を振り返りながら考察していく。

150年近い歴史のすべてが反映された次世代コレクション

オーデマ ピゲの創業は1875年。ジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲのふたりが、“複雑時計の揺りかご”と称されるジュウ渓谷の町ル・ブラッシュに設立した工房から始まった。

1882年には現在のオーデマ ピゲの社名を冠し、同年にグランドコンプリカシオンを発表。そこから世界初となるミニッツリピーター搭載の腕時計を発表する1892年の間に製造した1600個のウオッチの80%は一つまたは複数の複雑機構を搭載していたという記録が残る。一方、創業時すでに流行していたアールヌーヴォー(新しい芸術)やその後のアールデコ(※)時代を捉えたウオッチデザインをさまざまに展開。スクエア、トノー、オクタゴン、アシンメトリー、オープンワークなど、あらゆるシェイプやデザインを20世紀前半までに作り上げていた。

※「現代産業装飾芸術国際博覧会」の通称=アールデコ博に由来

そして、1972年には外部デザイナーのジェラルド・ジェンタによる「ロイヤル オーク」を発表。オーデマ ピゲはラグジュアリースポーツウオッチという、今に至る一大ジャンルのパイオニアとなったのである。そして、こうしたオーデマ ピゲの豊かな歴史のすべてを反映し、現代的な解釈を融合させたコレクションこそ、2019年に発表された「CODE 11.59 by Audemars Piguet」(以下CODE 11.59)である。

微に入り細を穿った造形に漂うル・ブラッシュの矜持

2019年、オーデマ ピゲのSIHH(ジュネーブサロン)出展ラストイヤーで世界的に披露された新コレクションは、実物を見ることのできない人たちの間で物議を醸し出した。というのも、正面から見た写真だけでは極めてオーセンティックなラウンド型の自動巻き(のように見える)時計だったから。だが、実際にジュネーブで実物を吟味した筆者を含むメディア関係者は、一様にその革新性に舌を巻いた。

コレクションの現行モデルより。左/「CODE 11.59 バイ オーデマ オーデマ ピゲ スターホイール」Ref.15212NB.OO.A002KB.01 770万円 奥/「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」Ref.15210ST.OO.A056KB.01 335万5000円 右/「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ」Ref.26393ST.OO.A348KB.01 467万5000円

内側と外側で異なる2重曲面を持った複雑なサファイアクリスタル風防と、それに合わせてデザインした幅の極めて狭いベゼル。よく見るとベゼルから伸びるラグはケースバックには触れておらず、中空きのラグはその細部まで面取りを行き渡らせている。ベゼルと裏蓋に挟まれるミドルケースにはオーデマ ピゲのDNAを受け継ぐ八角形のシェイプを採用。これも上下に面取りを施すことで、特徴的な形状をより強調させた。

現行モデルの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ スターホイール」は、ブルーアヴェンチュリン文字盤と風防の湾曲が生み出す視覚効果により表情が多彩に変化。装着すれば、適切な重量バランスにより手首にしっくりとなじみ、ゴールドケースでありながら重みでストレスを感じることもない。まさしくオーデマ ピゲの最新技術の粋が結集した一本であると理解した。

 

正面から見ると確かに王道のデザインではある。だが、ドレスウオッチと定義するにはやや厚みがあり、存在感も強い。ベゼル幅が狭いという見た目に加え、スペック面を見てもスポーツウオッチ的ではない。「CODE 11.59をなんというジャンルで括ればよいか?」実際のところ当編集部ほか、未だ誰も正解に辿り着けていないところを見ると、かつての「ロイヤル オーク」と同じく次世代を見据えたコンテンポラリーウオッチといって差し支えないだろう。言い換えれば、オーナー次第で解釈が変わる時計であり、まさしく今の「多様化時代」の象徴のような存在だ、と筆者は考えている。

CODE 11.59の5年間の歩みを俯瞰する

左/アプライドのロゴとインデックスをラッカー文字盤にセットしたオートマティックの第1世代。Ref.15210OR.OO.A099CR.01 中/一体設計の自動巻きクロノグラフキャリバー4401を搭載。Ref.26393BC.OO.A321CR.01 右/オープンワークダイアルでトゥールビヨンキャリバーの造形美を追求した複雑時計。Ref.26600OR.OO.D002CR.01 ※3モデルとも販売終了

[2019:新時代の始まり] CODE 11.59の名が意味するところは、Challenge(挑戦)、Own(継承)、Dare(追求心)、Evolve(進化)という4ワードの頭文字に、日付が変わる=新しい日を迎える直前のメタファーとしての時間“11.59”を加えたもの。SIHHでは、オートマティック4型、クロノグラフ4型、フライング トゥールビヨン2型、トゥールビヨン オープンワーク、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター スーパーソヌリと発表初年にして13モデルが登場。オートマティックは新開発の自社製キャリバー4302を、クロノグラフもまた自動巻きとクロノグラフを初めて一体型にした新設計の自社製キャリバー4401を搭載するなど、コレクション名に相応しい次世代ムーブメントでも注目を集めた。

左/濃淡のついたサンバースト模様のダイアルを採用した新デザインに移行。Ref.15210OR.OO.A002KB.02 456万5000円※2020年発売モデルとはストラップが異なります。 中/ミドルケースにピンクゴールド、ベゼルと裏蓋にホワイトゴールドという2つの素材を用いたバイカラーモデル。Ref.26393CR.OO.A008KB.01 643万5000円※2020年発売モデルとはストラップが異なります。 右/エナメリストのアニタ・ポルシェ氏が文字盤の制作を担当したグランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ。Ref.26397BC.OO.D002CR.01※販売終了

[2020:サンバーストダイアルとバイカラー] 2年目のコレクションで早くも新しい文字盤が。濃淡を持たせたグラデーションダイアルや、2019年のオンリーウオッチの出品作に通じるピンクゴールドとホワイトゴールドの素材を使い分けたバイカラーケースの仕様がオートマティックとクロノグラフから5型登場。コンプリケーションにはフライング トゥールビヨン クロノグラフのほか、卓越したエナメル職人アニタ・ポルシェ氏が文字盤を手がけたグランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリが追加された。

左/新しく追加されたスモークブルーダイアル。Ref.15210BC.OO.A002KB.01 456万5000円 中/ミドルケースにブラックセラミックを採用。文字盤のヘアライン仕上げも特徴的。Ref.26393NB.OO.A002KB.01 643万5000円 右/シンメトリー配置が目を引くフライング トゥールビヨン クロノグラフ。Ref.26399CR.OO.D002CR.01※販売終了

[2021:セラミックミドルケース] 先進的な素材の積極採用でも知られるオーデマ ピゲはこの年、CODE 11.59にブラックセラミック製のミドルケースを採用したバイカラーモデルを発表。このミドルケースは、オーデマ ピゲと同じく家族経営を続けるメーカー「バンゲーター社」と提携して作り上げたもの。さらにケースと平行に入れられたヘアライン仕上げの文字盤や軽やかさを演出するテキスタイル調のラバー加工ストラップにより、新たな世界観を構築した。

左/ケースと文字盤全面にダイヤモンドをセットした宝飾仕様。Ref.15210OR.ZZ.D208CR.01 価格要問い合わせ※2022年発売モデルとはストラップが異なります。 中/ブラックオニキスの文字盤にバゲットダイヤのインデックスをセット。Ref.26393BC.OO.A002KB.02 価格要問い合わせ 右/第1世代のオープンワークトゥールビヨンに鮮やかなエレクトリック ブルーを配色。ミドルケースはブルーセラミック製。Ref.26600NB.OO.D346KB.01 価格要問い合わせ

[2022:素材と機構の伝統と革新] ロイヤル オーク誕生50周年に世界が湧いたこの年もCODE 11.59から意欲的な限定モデルが相次いで登場。文字盤とケースにダイヤセッティングを施した宝飾系に始まり、オニキス、ソーダライトを用いた深みのある文字盤のモデルが加えられた。ケースでもブルーをキーカラーにしたトゥールビヨン オープンワークでブルーセラミック製ミドルケースを採用。このモデルはALD(原子層堆積)工程によって得られたブルーの地板やブリッジも大きな見どころである。

左/直径38mmの新たなサイズを採用。Ref.77410OR.OO.A623CR.01 440万円 中/ステンレススティールケースを初採用。Ref.26393ST.OO.A056KB.01 467万5000円 右/GPHGのグランプリに輝いた超絶コンプリケーションウオッチ。Ref.26398BC.OO.D002CR.02 価格要問い合わせ

[2023:SS、38mm、GPHG受賞] 誕生から5年目、最初の大きなトピックスがステンレススティールケースの登場。これまでの展開がピンクゴールドかホワイトゴールドだったこともあり軽快ささえ感じる素材のバリエーションはスタンプ加工のダイアルでも目を引く。これはスイスのギヨシェ職人ヤン・フォン・ケーネルと共同開発したもので、同心円と放射のパターンが絡み合いながら濃淡とともに広がりを見せる類を見ないデザインであった。これもまた例によってオートマティックとクロノグラフの両方から3色ずつ展開されることとなる。すでに十分な話題性があるにも関わらず、オーデマ ピゲはこの年の秋に38mmのサイズバリエーションも追加。パープルとアイボリーの文字盤にスティールモデルと共通のダイアルパターンを採用するなど、新鮮な雰囲気に仕上げた。そしてこの年を締めくくったビッグニュースが、ジュネーブウオッチグランプリ(GPHG)の最優秀賞となる「金の針賞」の受賞である。受賞モデルは、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル (RD#4)」。1899年にオーデマ ピゲが完成させた総部品点数1168個に及ぶ複雑時計のマスターピース「ユニヴェルセル」を、同様以上の機能を備えながらさらに腕時計というパッケージに相応しい実用性までも与えて復活させたモデルである。このモデルの存在を年初に聞いた筆者は、「しばらくこれ以上の複雑時計は出ないだろう」と確信した次第。もちろんGPHGのグランプリ受賞も当然だと考えていた。

2024年以降のCODE 11.59の展望予測

新CEOの指揮のもと、オーデマ ピゲはCODE 11.59をブランドの中でどのように位置付けていくのか。その答えは過去5年で示されているのではないだろうか。ひとまず、最初の5年間で文字盤変更の決断、使用素材の多様化、サイズバリエーションと、これから先のコレクション拡充を見据えるうえでの基盤がようやく出揃った感がある。そのまま素材と色のバリエーションが増えていくことは間違いないだろう。CODE 11.59が興味深いのは、ユニヴェルセルやスターホイールのような伝統的なコンプリケーションさえも受け入れる懐の深さにもある。複雑機構については、今後もアーカイブピースに着想を得たものが出てくるはずだ。また、オーデマ ピゲといえば異業種間コラボも積極的に行っているが現在までにCODE 11.59からは出ていないため、そろそろ出そうなタイミングでもある。さて、例年通りのスケジュールであれば間も無くオーデマ ピゲの2024年の新作が発表される頃。果たしてどのようなモデルが出てくるのか、ぜひご自身でも予測してみてほしい。

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AP LAB Tokyo ●東京都渋谷区神宮前5-10-9 ●11:00〜19:00 ●火曜定休●入場料/無料(予約来場優先/予約なし入場も可能)●03-6633-7000

AP LAB Tokyo(エーピー ラボ トウキョウ)は、原宿にオープンしたオーデマ ピゲ世界初の体験型施設。時計の奥深い世界を楽しみながら学べるエデュテイメント(エデュケーション+エンタテイメントを合わせた造語)施設は、誰でも気軽に入場OK。しかも無料というから、少し足を伸ばしてでも行く価値はあるだろう。

来店予約サイト: https://aplb.ch/g58k

問い合わせ先:オーデマ ピゲ ジャパン TEL.03-6830-0000

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※価格の表記がないモデルは販売終了品。価格は記事公開時点の税込価格です。

Text/Daisuke Suito(WATCHNAVI) Photo/Yoshinori Eto(fraction)

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