G-SHOCK最上級ライン「MR-G」に加わったフルアナログの薄型「MRG-B2100B」開発担当者が明かす”日本の技術へのこだわり“

熱心なG-SHOCKや高級時計の愛好家を中心に支持を得ているG-SHOCKの最上級ライン「MR-G」から、フロッグマンに続く約1年ぶりとなる新型「MRG-B2100」が登場した。デザインのベースに多角形ケースのスリムモデル2100シリーズを採用したこの要注目作について、開発背景を商品企画部の石坂さんにインタビューした。

普段使いに向くフルアナログのスリムなMR-G

–「やはり出たか」という印象ですが、実際いつ頃から企画されたのでしょうか?

石坂さん:2年半ぐらい前ですね。オリジンのMRG-B5000があるなら、当然2100シリーズのMR-Gがバリエーションにあってしかるべきだろう、と。以前、販売店の方やオーナーの方にヒアリングしたとき、既存のアナログMR-Gの大きさに抵抗感を示されることもあったので、今回のMRG-B2100はフルアナログでもスリムになるよう配慮しました。

この写真は最近行われたMR-G オーナーズクラブに登壇した際の石坂さん。MR-Gオーナーはこうしたイベントに参加できるのだという

–ベースとなった2100はデジタルとアナログの併用表示ですよね。そもそも、なぜMR-Gでは針によるアナログ表示のみにしたのでしょうか?

石坂さん:1stモデルの意匠を反映したMRG-B5000を除き、MR-Gは基本的にアナログ表示なのでMRG-B2100もそれを踏襲しました。同じアナログのMRG-B2000の厚みが16.9mmに対して、新作では13.6mmにまで抑えることができました。サイズではありませんが、他との比較という点でいうと、ベースにした樹脂製の2100シリーズはメタルベゼルでも単一パーツで設計していますが、最新のMRG-B2100はベゼルの内部も含めて27個の部品を組み合わせてできています。

–複数パーツを合体させる外装設計は、フロッグマンオリジンのMR-Gにも共通の仕様ですね。

石坂さん:こうすることで細部に至るまで美しく仕上げきることができ、MR-Gに相応しい外装が出来上がるんです。ベゼルトップにはプラチナと同等の輝きを持つといわれる「コバリオン」をセットしました。ちなみに、メタルバンドには高い硬度を持ちながら加工性に優れた「DAT55G」を使っています。

–素材構成がMRG-B5000と共通なんですね。形状の好みはありますが、デジタルか、アナログか。これは悩みます。

石坂さんに用意していただいた分解状態のベゼル。指さす先がコバリオンベゼルだ。ボタン周りに使うアーチ状の多面パーツや、ペン先ほどの微細パーツもすべてくまなく手作業で仕上げ切ることで、MR-Gの名に相応しい質感が生み出される

文字盤は組子格子に着想を得てデザイン

–プレスリリースにも記載されていましたが文字盤は、金物を使わず木材を組み合わせる日本伝統の建築工法、木工技法のひとつ「木組(きぐみ)」の機能美から着想を得たそうですね。

石坂さん:組子細工が施された格子や障子など、明確な境界を作りながらもその仕切りの奥に気配を感じさせる作りが日本的だと考えました。とはいえ、そう簡単にことはうまく運ばず(笑)。ソーラーセルを隠しつつも十分に光を透過させるための形状と実際に成型するうえでの条件を両立させるため、かなりの試行錯誤がありましたね。文字盤は樹脂のインジェクション(=射出成形)で作るのですが、一般的なやり方では文字盤形状が歪んだり、穴周りにバリやウェルドライン(※)が出てしまうので、担当者は途方に暮れていたようです。※ウェルドライン:射出成型において金型内で溶融樹脂の合流部分に発生する線状の跡で、成型不良の一つ。

文字盤の説明をする石坂さん

–すごく質感が高い文字盤なので、いまお話を聞くまで金属だと思っていました。

石坂さん:メタルでもできなくはないでしょうが、この文字盤を金属板から削り出すとなると、今の価格設定ではとても済まないでしょう(笑)。さらにいうと、G-SHOCKの耐衝撃性能を確保するには、質感を保ちつつ可能な限り軽量にしていきたいなど、さまざまな理由から樹脂製の方が有利なんです。あえて使わずとも、精密な加工技術と蒸着技術で質感の高いメタル表現ができますので。針はアルミ製ですが、シルバーのインデックスは樹脂に金属蒸着を施したものです。ちなみに、プロモーション動画でも出てくるのですが、ホームベースのような形状をした12時位置のインデックスはG-SHOCKのSHOCK REGISTロゴがモチーフで、白線に黒い縁取りのパーツのみ別体になっているんですよ。

–この文字盤を見ていて気になったのですが、左下の曜日表示の扱いについて社内で議論はありませんでしたか?

石坂さん:確かに色々とアイデアはありました。ただ、先ほどもお伝えしたようにデジアナ表示モデルがベースなので、曜日表示があった方がデザイン的にしっくり来たんですよね。どれぐらい主張させるか、というデザインバランスは検討を重ねましたが、最終的にこれぐらい目立たせることで落ち着きました。

フルアナログ表示のためボタン類は右側にある3つのみで直感的に操作可能

–面積的にも液晶盤の代わりを担っているイメージですね。(何気なくLEDを点灯させる)あの〜……すごくいまさらですが、MR-Gのライトは以前から徐々に消えていくような情緒的な消灯の仕方でしたか?

石坂さん:趣きを感じていただけてよかったです(笑)。せっかくなら実用一辺倒ではなく、使うことを楽しんでいただきたい。そういう思いから、MR-GはLEDライトにも工夫を凝らしたんです。

–今回の組子格子と相性がすごくいいですね。和の心が感じられるというか。

石坂さん:MR-Gは山形カシオで製造していますし、ベゼルのコバリオンやバンドのDAT55Gも日本独自の合金です。これに文字盤の組子格子のような伝統的な要素が加わったMRG-B2100は、とくに日本の技術にこだわったモデルといえますね。ちなみにDAT55Gは大同特殊鋼株式会社が開発した素材で、コバリオンは東北大学金属材料研究所で開発されたものを株式会社エイワが製造しています。それぞれの素材の背景もとてもユニークなのですが、私から説明するにはとても時間が足りないのでご自身で調べてみてください。

木組工法はベゼルの組み立てにも応用。ケースに固定ピンを立て、それを支点に緩衝体を挟みながら合計27個のパーツを組み立てていく。MRG-B2100ではこのように素材と設計、使用時のすべてで日本を感じることができる

–さて、2100まで出てきてG-SHOCKの定番がMR-Gに揃った印象です。とはいえ、まだまだG-SHOCKの中にはMR-Gとして出てきてもおかしくない人気モデルがたくさんありますし、そろそろMR-Gオリジナルのデザインも見てみたい気もしますが……。

石坂さん:う〜ん、色々と考えているのは事実ですが。……やっぱり言えませんね(笑)。

 

取材後記

筆者にとって石坂氏へのインタビューは昨年のMR-Gフロッグマン以来、約1年ぶり。最後の質問こそはぐらかされてしまったものの、相変わらず多くのことに詳しく答えていただくことができた。今回のインタビューには出てきていないが、以前の取材でG-SHOCKのフルアナログ化がいかに難しいかを聞いたことがある。液晶単体のモジュールとは異なり、アナログモジュールは針による表示はギアやディスクなどのパーツが増え、針の取り付けにも繊細さが要求される。しかもそのすべてがG-SHOCKの耐衝撃テストに合格する必要があるのだ。


今回のMRG-B2100は、オリジンベースのMRG-B5000よりも幅こそ若干絞られてはいるが0.7mmほど厚い。ただ、逆を言えばアナログ表示でこのサイズにまで抑えることができたのは開発陣の弛まぬ努力の賜物と言える。ではMRG-B5000とMRG-B2100でどちらを選ぶか。これは筆者も大いに悩むところだが、同等のサイズ感と素材使いであれば、選択の分かれ目はアナログか、デジタルか、という点に絞られるだろう(となれば、筆者は新作のMRG-B2100か)。最上級ラインに相応しい高額品ゆえ、購入を検討するとなれば、しっかり時間をかけて見極めていただきたい。

G-SHOCK「MRG-B2100B-1AJR」 64万9000円/クオーツ。チタンケース&ブレスレット。サファイアクリスタル風防。縦49.5×横44.4mm、厚さ13.6mm。質量122g。20気圧防水

問い合わせ先:カシオ計算機 お客様相談室 TEL.0120-088925 https://gshock.casio.com/jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。

TEXT/Daisuke Suito(WATCHNAVI) Photo/Ryohei Oizumi

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