旅を感じる【ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)】の「エスカル」、クラシックを現代的にアップデートしたダニエル・ロートの「トゥールビヨン プラチナ」、そして唯一無二の存在感を放つ【ジェラルド・ジェンタ(Gérald Genta)】の新作が登場した。素材へのこだわり、ムーブメントの進化、デザインのひねりなど、見どころは盛りだくさん。今回は、高級時計の最前線を走る3本をまとめて紹介。

旅の精神を宿す装飾石のタイムピース
ウォッチ・コレクション「エスカル」に、ターコイズとマラカイトをダイアルに用いた2つのリミテッドエディション(各30本)が登場した。40mmケースには、ダイアルと同じ鉱物から切り出された一体型ケースリングを採用し、ラグやベゼル、ケースバックにはプラチナを用いている。鮮やかな天然石の魅力を最大限に引き出すため、極めて高度なクラフツマンシップが注ぎ込まれたモデルだ。
「エスカル」は旅と発見のロマンを象徴するデザインが特徴だ。これに自然界の宝石であるターコイズとマラカイトを組み合わせることで、その物語はさらに豊かになる。ターコイズの濃い筋目は大河の流れを思わせ、マラカイトの縞模様は地層のような奥行きを生む。いずれも古来より珍重されてきた素材であり、原石の段階から熟練職人がその性質を見極め、厳密な基準で選別している。青の濃淡や縞模様の精度までこだわる選定は、まさに一本の時計を仕上げるまでの“発見の旅”でもある。

困難を極めたクラフツマンシップ
装飾石のダイアルは珍しくないが、ケース構造まで石を用いる試みは格段に難しい。「ラ・ファブリク・デ・ボワティエ」の職人とエンジニアは、まずケース製造の常識を刷新するところから始め、内部構造をゼロから再設計。脆い天然鉱物を精密な公差で加工し、針やラグ、リューズを接合するための部位を作り上げるには、高度な石細工の経験と感覚が不可欠だ。研磨を経て石が鮮やかに“目覚める”瞬間、自然の造形が初めて時計として姿を現す。最終的には、模様の走り方や色調まで考慮し、芸術品のように最も調和の取れる組み合わせが選ばれる。

質感の探求
新作「エスカル」は、素材が本来持つ色彩と質感を最大限に際立たせる設計が施されている。立体的に加工された装飾石ケースは、視覚的な美しさに加え、触れた際の独特の存在感をもたらす。ストラップには初めてサフィアーノレザーを採用。ターコイズモデルにはアロヨグレー、マラカイトモデルにはレインフォレストグリーンが組み合わされ、どちらも石の色調と上品に調和する。ケース径は40mmで、2024年モデルからわずか1mmの拡大に抑え、旅の時計らしい汎用性とクラシックなプロポーションを両立した。プラチナ製ベゼルとケースバックが石の曲面より僅かに張り出す設計は、繊細な素材を実用面で支える工夫となっている。

透明な美を湛える自社製ムーブメント
ケースバック越しには、自社製クロノメーター認定ムーブメント「LFT023」が姿を見せる。22Kローズゴールド製マイクロローターを備え、50時間のパワーリザーブを誇る。サンドブラストと鏡面仕上げのコントラストは、“質感の美”という「エスカル」のテーマを内部にまで表現。裏側に配されたサフラン色のサファイアは、プラチナモデルであることを示す控えめなシグネチャーである。

新作「エスカル」は、自然のユニークな造形美を職人の技で読み解いたタイムピースだ。それぞれの個体が異なる表情を持ち、旅の途中で出会う宝物のように、新たな発見と驚きをもたらしてくれる。「エスカル」とともに過ごす時間は、日々を旅へと変え、一つひとつの瞬間が持ち主独自の物語を紡いでいく。

ルイ・ヴィトン「エスカル オトマティック プラチナ ターコイズ」 Ref.W3PTB1 987万8000円/自動巻き(Cal.LFT023)、毎時2万8800振動、50時間パワーリザーブ。ターコイズケース(シースルーバック)、レザーストラップ、サファイアクリスタル風防(反射防止加工)。直径40mm、厚さ8.97mm。3気圧防水。世界限定30本。
問い合わせ先:ルイ・ヴィトン カスタマーサービス TEL.0120-00-1854 https://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/homepage

プラチナケースのトゥールビヨン
ダニエル・ロートという名は、伝統的なウォッチメイキングと卓越した技術の象徴である。ブランドの第2の黄金時代は、信条である「芸術品としてのウォッチ(La Montre Objet d’Art)」を体現する最新作「トゥールビヨン プラチナ」と共に幕を開けた。1988年のアイコニックなトゥールビヨン REF.2187/C187から着想を得た「トゥールビヨン プラチナ」は、ダニエル・ロート氏が愛した複雑機構と、ハイウォッチメイキングにおけるタイムレスな理想への献身を讃えるモデルである。2023年にブランドが復活した際、最初に発表された「トゥールビヨン」と「エクストラ プラット」は、クル・ド・パリ ギヨシェ模様を纏ったイエローゴールド製の20本限定モデルであった。これに続き、ピンストライプギヨシェのローズゴールド製通常モデルが登場し、ダニエル・ロート復活の礎となった。両モデルは同じデザインコードとウォッチメイキングの原則を共有し、わずかに改良されたダブルエリプスケースと自社製マニュファクチュールムーブメントを備えている。「トゥールビヨン」に搭載されたDR001と「エクストラ プラット」のDR002は、ルイ・ヴィトンの設立者でありマスター・ウォッチメーカーであるミシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニによって特別に開発され、最高水準で仕上げられた独自フォルムのムーブメントである。

プラチナ製ダブルエリプスケース
「トゥールビヨン プラチナ」は、ブランドの最初の黄金時代に限られたプラチナの使用を再び導入するモデルであり、重厚感と希少性によりコレクターに愛される貴金属の復活を告げる。プラチナは加工が非常に難しく、ケース製作には18Kゴールド製ケースの最大3倍の時間を要する。マチュー・エジは「プラチナはウォッチメーカーに畏敬と愛着を抱かせる特別な素材である」と語る。「トゥールビヨン プラチナ」は、1988年のC187デザインを忠実に踏襲し、ブランドのシグネチャーであるダブルエリプスケースを採用。四角形と円形の両要素を組み合わせたこのケースデザインは、大型トゥールビヨンに理想的であり、時の試練に耐え、現代においてもアイコニックなケースデザインとして認められている。ラグは中央に手作業で取り付けられる構造を保ちながらも、下向きアーチに再設計され、手首への装着感を改善している。

精緻なダイアル
ダイアルはソリッドホワイトゴールド製でアンスラサイトの色調に仕上げられ、手動ローズエンジン旋盤による直線ギヨシェが刻まれる。時・分表示用チャプターリングはスターリングシルバー925製で、3段式秒目盛りやブランド名「DANIEL ROTH」、個別のウォッチ番号が配される。曲線的な「マスターシュ(口ひげ飾り)」も同素材で作られ、熟練職人が特注工具を用いて加工したものである。ダイアルはすべて「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」で自社生産され、完成までには1枚あたり最大3日を要する。

トゥールビヨンムーブメント搭載
「トゥールビヨン プラチナ」の心臓部は、自社開発のDR001トゥールビヨンムーブメントである。206個の部品はすべて手作業で仕上げられ、ダイアル下の部品でさえ装飾が施される。ブレゲ在籍時にロート氏が初めて製作したトゥールビヨンへのオマージュであり、独立系ウォッチメーカーとしての挑戦の象徴でもある。

ダニエル・ロート「トゥールビヨン プラチナ」 Ref.DAAG01A1 185000スイスフラン(税抜き)/手巻き(Cal.DR001)、毎時2万1600振動、80時間パワーリザーブ。プラチナケース(シースルーバック)、レザーストラップ、サファイアクリスタル風防。縦38.6×横35.5mm、厚さ9.2mm。3気圧防水。
問い合わせ先:https://www.danielroth.com/
メテオライトを携えた新作
ジェラルド・ジェンタを象徴する「ジェンティッシマ ウルサン」コレクションに、より存在感のある41mmケースを採用した2つの新作が加わった。ブルーとグリーンのメテオライトダイアルを備えた今回のモデルは、宇宙由来の素材ならではの神秘的な表情を宿し、コレクションの魅力をさらに高めている。これまでの36.5mmモデルでは、マザーオブパールの柔らかなピンク、アンスラサイトの深みあるグレー、オパールの炎のような輝き、漆黒のオニキスなど、地球が育んだ多彩な天然素材を文字盤に用いてきた「ウルサン」。41mmとなった新作は、ラバーストラップと50m防水を備え、日常使いにも配慮されたスポーティかつ現代的なデザインが特徴。実用性を重視しつつ妥協のない美学を求めるコレクターに向けた一本だ。なお、ウォッチの設計と組み立てはルイ・ヴィトンの高級時計製作アトリエ「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」が手がけている。
ケースに隠された八角形
サンドブラスト加工を施したグレード5チタニウムのラウンドケースは、一見するとシンプルな造形に見える。しかしよく目を凝らすと、内側の輪郭が微かに八角形を描いており、細部へのこだわりと独創性をさりげなく主張する。さらに、ケース外周には234個のホワイトゴールドビーズを手作業でセット。まるでミニチュアの彫刻作品のような緻密なケースは、幾何学的でありながら有機的な美しさを宿す。この特徴的なケースが、薄く切り出されたブルーまたはグリーンのメテオライトダイアルを包み込む。天然の結晶構造はひとつとして同じものがなく、それぞれの時計が唯一無二の表情を持つアートピースとなっている。
スポーティとエレガンスの融合
ジェラルド・ジェンタのデザイン哲学は、新作にも色濃く反映されている。ゼニス社製の自動巻きムーブメントによる高い信頼性を備えながら、ラバーストラップのスポーティさと、ゴールドのアクセントが生むエレガンスを併せ持つ。アトリエのアーティスティック・ディレクターであるマチュー・エジ氏は、このモデルを「スポーティでシックなウォッチ」と表現し、市場に埋もれない存在感と識別性を重視したと語る。
メテオライトがもたらす新たなデザインコード
今回のメテオライトダイアルは、単なる大型化ではなく、ウルサンの精神をより大胆に表現したもの。光の角度によって青や緑の色調が変化する文字盤は、自然素材ならではのダイナミズムを放ちながら、視認性も確保している。5分刻みのマーカーと針には、ジェンタ氏が好んだ色調に合わせたほのかなピンクの特別なスーパールミノバを採用。外側が丸みを帯び内側が特徴的な八角形を描く特注サファイアクリスタルが、全体の立体感を引き立てる。
新作「ジェンティッシマ ウルサン 41」は、ただの時計ではない。ウニの有機的な造形美と、メテオライトが持つ宇宙の神秘性を融合させた、アートピースとしての価値を備えている。大胆な創造性と独創性を求めるコレクターにとって、そして芸術を日々の生活の中で楽しむ者にとって、理想的な一本となるだろう。
ジェラルド・ジェンタ「ジェンティッシマ ウルサン 41 ブルーメテオライト」 Ref.EEEH01A1 25000スイスフラン(税抜)/自動巻き(Cal.GG-005)、毎時2万8800振動、50時間パワーリザーブ。グレード5チタンケース(シースルーバック)、ラバーストラップ。直径41mm。
問い合わせ先:https://www.geraldgenta.com/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。
Text/平野翔太(WN編集部)























