腕時計は、様々な人物や業種とのコラボレーションがよく行われているジャンルだ。それでも同業種で手を組むことは数少ない。長年の時計関係者でも、思い浮かべられる例は、独立時計師とハリー・ウィンストンがタッグを組んだプロジェクト「オーパス」シリーズぐらいだろう。こうした異例のコラボレーションが、2020年の新作で登場した。タッグを組んだのは、15年前にブランドが生まれ変わったH.モーザーと、同じく15年前に創業したMB&Fである。実はMB&Fは、そもそもコンセプトを優先させ、それにあったパートナーと理想とする腕時計を作ってきたブランドである。それが、ついに独立時計師ではなく、H.モーザーという由緒正しきブランドとなった経緯を、新作とともに詳しくみていこう。
H.モーザーはサプライヤーとしても超優秀
H.モーザーは、自ら手掛ける少量生産の高級腕時計を展開する一方、同じように小規模で高級時計を製造しているスイスの独立ウオッチメーカーに姉妹会社である「プレシジョン・エンジニアリング」社を通じてヒゲゼンマイなどを供給してきた。その供給先のリストに名を連ねていたのが、MB&Fである。その関係は実に10年以上。今回、発表された新作「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー×MB&F」が搭載するヒゲゼンマイも、もちろんプレシジョン・エンジニアリング社製だ。
新作コラボウオッチの発表は、このヒゲゼンマイの需要と供給を明らかにするだけではない。いきなり専門的な話になるが、搭載するヒゲゼンマイは、円筒形のシリンダータイプを採用。これは、かつて船舶用の超高精度時計「マリンクロノメーター」などにも使われていたものである。最大の利点は、ホゾの軸に沿って機能するため、同心円状に動くという特徴にある。さらに両方の先端をブレゲヒゲで固定することにより、ホゾの摩擦を軽減して等時性を大幅に改善するのである。加工精度が極めてシビアなため、製造は通常のヒゲゼンマイに比べて10倍の時間を要するという。このパーツだけを見ても、新作に対するH.モーザーの本気度が伝わってくる。
さらなる見どころが、40度に傾斜させた文字盤を時分表示のサブダイアル。これは、着用者にとっての視認性に配慮したもので、円錐形の輪列を搭載することで面から面へのトルク伝達をも最適化。これについてエドゥワルド・メイランは、フュメダイアルの美しさを引き立てるために、背景に溶け込むサファイアのサブダイアルを開発し、MB&Fがもつ世界観の“モーザー化”を試みました と語っている。
MB&Fファーストのコラボモデルも登場
実はサプライズは「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー×MB&F」に留まらない。MB&FのデザインコードにH.モーザーのエッセンスが加わったもう一つの新作「レガシー・マシン101 MB&F×H.モーザー」では、テン輪、パワーリザーブ、時刻表示という基本的な表示を、誰もみたことのないデザインによって再構築。ロゴさえ記さないH.モーザー特有のアイコニックなフュメダイアルとの融合で、前代未聞の腕時計へと昇華させている。
これらのモデルはいずれも複数のフュメダイアルでの展開となり、すべて世界限定15本。ブランドロゴなどなくとも、その外装、機構、仕上げの優秀性で存在感を発揮する、まさに「本物志向」の人のためのコラボレーションウオッチ。自らの審美眼に揺るぎない自信のある人は、オーナー権に挑んでみてはいかがだろう。
問い合わせ先:エグゼス TEL 03-6274-6120
http://h-moser.jp
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