スイスの時計ブランド【オメガ（OMEGA）】は、NASA（アメリカ航空宇宙局）が宇宙空間の船外活動で唯一使用を認めている公式装備品であるムーンウォッチこと「スピードマスター」の存在により、人類の宇宙史に深く寄与してきた。これを物語るエピソードのひとつとして、同社が1969年に製造し、NASAの伝説的な宇宙飛行士ウォルター・”ウォリー”・シラーへ贈呈した「スピードマスター BA 145.022」がある。先日この貴重なスピードマスターが、アメリカのRR オークションにて190万7000ドル（およそ2億8000万円）もの高額で落札された。
↑RR オークションに出品された「スピードマスター BA 145.022」
異なる3つの宇宙計画に参加した唯一のパイロットが所有
RR オークションはアメリカのボストンに拠点を置くオークションハウスで、歴史的文書や歴史的人物のサイン、歴代大統領の所有品など、貴重なアイテムを扱っている。ここにNASAの宇宙飛行士として活躍したウォルター・”ウォリー”・シラーが所有者だった「スピードマスター BA 145.022」が出品され、190万7000ドルで落札されたのだ。
シラーは1962年、アメリカ初の有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」で宇宙船シグマ7の搭乗の際、私物の「スピードマスター CK2998」を着用していたという。これはオメガの時計が宇宙で使われた初めての事例となり、その数年後にNASAはすべての有人宇宙ミッションにおける公式装備品として「スピードマスター」を制式に認定した。つまり今なお続くオメガとNASAの関係は、シラーがプライベートで所有していたスピードマスターがきっかけのひとつだったわけだ。
↑RR オークションに出品された「スピードマスター BA 145.022」のケースバック
「スピードマスター BA 145.022」は1014本のみ製造
今回、高額落札がマークされた「スピードマスター BA 145.022」は、1969年に人類史上初めて月面に着陸したアポロ11号のミッション成功を記念し、1969年～1973年にかけて1014本が製造された“ナンバード エディション”のうちの一本。限定番号1番は当時のアメリカ大統領であったリチャード・ニクソンのもとに、限定番号2番は副大統領のスピロ・アグニューに贈呈された。この2本の時計についてはアメリカ政府の厳格な取り決めによってすでに返却されているが、そのようなユニークなエピソードも同スピードマスターの知名度を高める理由となっている。
なお限定番号3～28番は1969年11月25日、”Astronaut Appreciation Dinner（アストロノート・アプリシエーション・ディナー）”と称されるヒューストンで開催された晩餐会にて、シラーを含むNASAの宇宙計画に参加した宇宙飛行士たちに贈られた。シラー自身は、“Astronaut Walter M. Schirra, Mercury 8 – Gemini 6 – Apollo 7”がケースバックに刻印された限定番号8番を受け取っている。出品された「スピードマスター BA 145.022」は、まさにこの時計だった。
伝説のムーブメントの後継機であるキャリバー861を搭載
気品が漂うフル18Kイエローゴールドの「スピードマスター BA 145.022」は、希少な配色であるバーガンディカラーのベゼルや、ケースバックへの“to mark man’s conquest of space with time, through time, on time（時間とともに、時間を通して、時間通りに達成された人類の宇宙進出を記念して）”の刻印を特徴としている。搭載ムーブメントは、伝説的な手巻き「キャリバー321」（アポロ11号によって実現された月面着陸で宇宙飛行士が着用していたスピードマスターに搭載）の直系にあたる手巻き「キャリバー861」である点も、「スピードマスター BA 145.022」がヴィンテージウオッチ市場で人気を博している理由といえる。
当時、限定番号29～32番はスイス時計界のリーダーや政治家に贈呈され、残る限定番号33～1000番は一般のユーザーに向けて販売された。「スピードマスター BA 145.022」の高額落札は今回が初めてではなく、2022年初めにはアポロ11号の宇宙飛行士マイケル・コリンズに贈られた同スピードマスターが、アメリカのヘリテージオークションにて76万5000ドル（およそ1億円）を記録した事例もあったが、今回はその倍以上の落札価格が付いたことになる。
https://www.omegawatches.jp/ja/
Text／三宅裕丈
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