誕生70周年を迎えるエタニティなダイバーズウオッチ【ブランパン フィフティ ファゾムス】の過去・現在・未来

70年も前に生まれた腕時計が存在し続ける理由 ―― 。それは完成されたプロダクトであることを物語っており、ロングセラーの実績がこれを実証している。【ブランパン(BLANCPAIN)】の「フィフティ ファゾムス」は、まさしくこれに該当する傑作ダイバーズウオッチ。2023年の誕生70周年を迎えるにあたり、その魅力を<過去・現在・未来>からひも解く。


↑ブランパンが1953年に発表した「フィフティ ファゾムス」のファーストモデル

<過去>全モダンダイバーズのロールモデルが生まれた経緯

フィフティ ファゾムスがデビューした1953年は、グレゴリー・ペック&オードリー・ヘプバーン主演の名画『ローマの休日』が公開。この年、時計好きなら誰もが知るダイバーズの基本スタイルを引っ提げ、モダンダイバーズの祖と称される傑作が産声を上げた。当時、スキューバダイビングはレジャーとして楽しまれるよりも、これを生業とするプロの潜水士が行うことがほとんどで、安全のための高精度な防水時計が求められていた。そこでブランパンCEOだったジャン-ジャック・フィスターは、自身のダイビング経験をもとに強烈な水圧に耐えるケースの発明に着手。これとほぼ同時期、フランス海軍の士官で第二次世界大戦中はフロッグマン(水中工作員)として活躍したロベール・“ボブ”・マルビエ大尉が、ブランパンに特殊潜水部隊用のダイバーズの開発を依頼したのだった。


↑フランス海軍のロベール・“ボブ”・マルビエ大尉。特殊潜水部隊を新設するにあたって優れたダイバーズを探し求めていた。左腕にフィフティ ファゾムスが確認できる

 

そのような時代背景やニーズから、マルビエ大尉の期待に応え、フィスター自身も満足のいく世界初のモダンダイバーズ=フィフティ ファゾムスは生み出された。とくに革新的だったのが【①水密性を高めるダブルOリング ②Oリングの変形を防ぐ特殊なケースバック ③ロック機構付きベゼル】で、防水スペックはヒトが潜れる最大の水深と考えられていた50 fathoms(1ファゾムがおよそ1.8288メートルで、約91メートル)を誇った。これらの優れた機能や反射を抑えるマットな黒文字盤など、オーソドックスな現在のダイバーズスタイルが確立されていたことに驚かされる。なお個性的なネーミングは、シェークスピアが最後に単独執筆した戯曲とされている『テンペスト』に登場する「Full fathom five thy father lies.」(あなたの父は5尋の海底深くに眠る)の台詞に由来するもの。フィスターがロマンティックでユーモアを持った人物であったことを示すエピソードである。


↑フィフティ ファゾムスのオリジナルモデルのケースを構成するパーツ群。左から裏蓋用Oリング、裏蓋、裏蓋リング押さえ、ミドルケース、リューズ用チューブとOリング(3個)、ベゼルトップ、ベゼルスプリング。ケースの接続部には特殊なOリング(ガスケット)をセットし、気密性を高めた。60分間のスケール付き回転ベゼルには、誤操作を防ぐためのロック機構が備わっていた

 

過酷な環境に身を置く精鋭ダイバーによる試用をクリアし、晴れてフランス海軍特殊潜水部隊に装備されたフィフティ ファゾムスは、民生品として市場に出回っていたことも特筆すべき点といえる。それが1956年初出の「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」の誕生にも繋がったわけであるし、その盛名はアメリカやドイツにも届いて各国軍が採用するほどになっていった。そのうえで、各々のニーズに応えるユニークなフィフティ ファゾムスも生まれたのである。


↑ジョン・F・ケネディ大統領が海軍兵士と面会した際の写真。兵士の腕には「フィフティ ファゾムス」が巻かれており、アメリカ海軍も採用していたことがうかがえる

アメリカ軍もフィフティ ファゾムスを選んだ


↑フィフティ ファゾムス MIL-SPEC 1

 

フィフティ ファゾムスを語るうえで外せないマスターピースの中でも、ここでは代表的な2モデルに焦点を当てる。ひとつが、アメリカ軍の厳格な基準を満たす物品として認定されたダイバーズである「MIL-SPEC 1」(1957年~58年開発)だ。軍用を示す特別な“称号”を、ブランド名とモデル名に続いて文字盤に記しているのが特徴で、6時位置には当時のアメリカ海軍が要求した水密性表示を備える。このディスクはケース内に液体が入り込んだ際、ホワイトからレッドに変色する仕組みになっており、事故を未然に防ぐ安全装置として働く。なお同様の水密性表示を再現し、搭載するモデルが2017年に限定復刻された。

 

ドイツ軍が重視したのはラジウム不使用の安全性


↑フィフティ ファゾムス ノー ラディエーション

 

ふたつ目が、「ノー ラディエーション」(1960年代~70年代初頭にドイツ海軍が採用)。大半の時計が文字盤や針の発光塗料に放射性物質ラジウムを使っていた当時、ブランパンはこれを排除して健康を害さない“放射性物質不使用”を決断した。これを大々的にアピールしたモデルで、ひと目でわかるスタンプを6時位置にレイアウト。自発光タイプのラジウムからトリチウム、そして現在使われている蓄光型のルミノバ系へと夜光が進化してきた経緯を物語るアーカイブピースとしても重要で、その安全性と潜水時計としての実力を評価したドイツ海軍の潜水戦闘部隊が採用していたという逸話が残っている。2021年にトリビュートモデルとして復刻されたことが記憶に新しい。


↑フィフティ ファゾムスを装備したフランス海軍の特殊潜水部隊

 

1953年誕生のオリジナルモデルを含む3つの印象的なフィフティ ファゾムスは、ブランパンのモットーである“革新こそ伝統”を表し、エタニティ(永遠や不変性)のシンボルともいえる。いずれも希少なヴィンテージウオッチのため、オークションに出品される度に高額落札がマークされているのだ。誕生70周年を迎える2023年、新たな伝説をつくる逸品の登場にも期待が膨らむ。

 

<現在>敬愛すべきオリジナルを継ぐ現代のマスターピース

フィフティ ファゾムスの奥深きストーリーを経て、ファーストモデルの直系(第三世代)にあたる現行「フィフティ ファゾムス オートマティック」は2007年に登場した。その姿はオリジナルモデルへのリスペクトを具現化させたエタニティなスタイルで、ディテールやスペックのブラッシュアップに光るものがある。黒文字盤や回転ベゼルといった元祖モダンダイバーズの正統性を証明する定番機能を備えるとともに、最先端のテクノロジーが投影されているのだ。

↑極度の水圧に耐える極厚風防とベゼル天面を覆うのがサファイアクリスタル。抜群の強度を誇る。ケース側面に装着時も見て楽しめるブランドロゴが刻印されている

 

「フィフティ ファゾムス オートマティック」(Ref.5015-1130-52A)の先進性について掘り下げよう。特徴のひとつが、高硬度で傷に強く、非常にクリアで読み取りを助ける高品質サファイアクリスタルパーツの採用だ。極厚風防からベゼル天面まで同マテリアルで作られており、ドームフォルムを成している。ちなみにベゼルもドーム形状としているのは現CEOのマーク A. ハイエックのアイデアで、自身のダイバーキャリアからダイビングスケールの目盛りが傷などによって消えてしまうことがないようにとの目的だった。このスケール部には針やインデックスと同じルミノバ夜光が備えられており、水中や暗闇においても分のカウントが可能となっている。


↑ブランパン自慢の自社製キャリバー1315。5日間も続く強力なパワーリザーブを備えている

 

また、およそ5日間(120時間)のロングパワーリザーブを実現するキャリバー1315を搭載している点も見逃せない。4年の歳月をかけて完成させたマニュファクチュールムーブメントで、ヒゲゼンマイを最新のシリコン製としている。これによって耐磁性や耐久性が大きく向上している。なおステンレススチールケースモデル(Ref.5015-1130-52A)は耐磁性ケージを内蔵している関係で、シースルーバックではなくオリジナルモデルと同じねじ込み式のスチールバックを採用している。


ブランパン フィフティ ファゾムス オートマティック Ref.5015-1130-52A 191万4000円
スペック:自動巻き(自社製Cal.1315)、毎時2万8800振動、120時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース、サファイアクリスタル風防&ベゼル、セイルキャンバスストラップ。直径45mm、厚さ15.5mm。30気圧防水

 

<未来>豊かな海を守るアクションを継続的に実施

最後に、ブランパンが他社をリードするエタニティな活動についても触れておきたい。シンボリックなフィフティ ファゾムスを介して、同社は母なる海を探査・保全し、理解を深める「ブランパン オーシャン コミットメント」を2014年から主催している。海の探検家、海洋学者、水中カメラマンらをパートナーに迎え、自然豊かな海域での活動のサポートを行っているのだ。これまでに400万㎢を超える海洋保護エリアを新たに設けるなど、地道だが着実に成果を上げ、美しい海の維持に貢献している。

↑先史時代から生息する魚類、シーラカンスを守る「ゴンベッサ・プロジェクト」。ブランパンが協賛している活動のひとつ

 

海洋生物学専門の水中写真家、ローラン・バレスタ氏による「ゴンベッサ・プロジェクト」への支援も「ブランパン オーシャン コミットメント」の一環だ。観測が難しい希少な生物や現象の調査を目的としており、フィフティ ファゾムスの提供から資金のサポートまで実施している。そのほかにもモナコ大公アルベール2世財団やエコノミスト誌『ワールド オーシャン サミット』といった非営利団体と提携し、海洋環境に関するあらゆる課題を共有。サステナブルな未来社会の実現に向けて取り組んでいる。

↑フィフティ ファゾムス オートマティックの着用イメージ

 

ブランパンのアイコニックピース=フィフティ ファゾムスは、<過去・現在・未来>のいずれにおいてもエポックメーキングなダイバーズとして君臨している。潜水用プロフェッショナルツールながら、進化の過程でラグジュアリーウオッチの要素を取り入れ、唯一無二のタイムピースとして憧れの対象となった。祝70周年を迎え、次なるイノベーションはあるのか? 確実にいえることは、モダンダイバーズのベンチマークという偉大なる創造性が、永久不変の価値を生み出してきた事実である。

 

<問い合わせ先>
ブランパン ブティック 銀座

TEL:03-6254-7233
住所:東京都中央区銀座7-9-18ニコラス・G・ハイエックセンター4F
営業時間:11:00~20:00(日曜・祝日のみ 11:00~19:00)
定休日:年末年始

https://www.blancpain.com/ja ※価格はすべて記事公開時点の税込価格です。

Text:山口祐也/Yuya Yamaguchi(WATCHNAVI)

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