ビジネスウオッチに新たな価値観をもたらした名機「オシアナス」誕生20周年の歩みを担当者とともに振り返る

2004年、カシオがアナログウオッチ市場に参入するべく立ち上げた新ブランド、「オシアナス(OCEANUS)」のファーストモデルが発表された。あれから20年という大きな節目を迎えた今、担当者は何を感じているのか。今後の展望を含め、2名の代表者に話を聞いた。

テクノロジーを売りにするカシオが針で表示する腕時計に挑戦

–オシアナスが2024年で誕生20周年を迎えました。そもそもこのブランドは、どのような経緯で誕生したのでしょうか?

小島さん:今年はカシオの時計事業50周年でもありますので、当社の時計事業の時系列からご説明しましょう。ファーストモデルは、デジタル式で日付の自動調整機能『オートカレンダー』を世界初搭載したカシオトロンでした。そして低価格路線からG-SHOCKを含むデジタルの開発時代を経て、2000年代からカシオが培ってきたデジタル技術を活かした高機能アナログウォッチモデルの開発に注力していくことになります。

白石さん:オシアナスは2004年に発表した1stモデルこそ、デジタル表示の付いたモデルでした。サイズも大きく機能訴求の部分がありましたが、その後はモーターの進化や電波受信のマルチバンド化などの技術進化とともに、オシアナスらしい“エレガンス、テクノロジー”を確立していったのです。

商品企画部の小島 直さん(左)とデザイン開発統轄部の白石俊也さん。小島さんはモジュール開発のキャリアがあり、白石さんはオシアナスの立ち上げ当初からデザインに関わってきた

–ブランド名にもある「海」のイメージや、フルメタルでのテクノロジーとエレガンスの融合といったコンセプトですね。

小島さん:カシオが得意とするローパワー化と高密度実装技術を用いて2007年に作り上げたマンタの初号機『OCW-S1000』は、当時のクロノグラフ電波ソーラーの分野における世界最薄を記録しました。おかげさまで好評をいただき、マンタのシリーズは当初の期待を超えて定番化。最新世代では10mmを切るほどの薄型化を実現しています。そうした薄さの追求に加え、オシアナスに欠かせないブルーの表現にもこだわってきました。光沢感を得るために塗装ではなく蒸着を採用したり、そこからスパッタリングやIPなどを用いたりと、モデルに合う最適な色の表現を継続。これら“オシアナスブルー”だけでも、どれほど調色してきたか把握できません。現在は、長年にわたって研鑽を積んできた色表現の技術をパーツごとに適材適所で使い分けています。

初期のオシアナス。左からファーストモデルの『OCW-500』(2004年11月)、世界5局受信に対応したマルチバンド5仕様の『OCW-M700』(2006年10月)、アシンメトリー文字盤の第1弾『OCW-S1400』(2009年10月)、初の6モータードライブを実現した『OCW-S3000』(2013年10月)

小島さん:初期は大々的にはアピールしていなかったのですが、主に新作で進化したポイントにブルーを使っていたんですよ。マルチバンド化したOCW-M700ではガラス外周部の受信表示にブルーを配色し、アシンメトリーデザインを取り入れたOCW-S1400ではリングパーツにもブルーを使いました。このあたりで現在に通じるオシアナスのイメージは決定的になりましたね。

3部作で展開された20周年記念モデル

–OCW-S1400に採用された非対称のダイアルデザインは衝撃的でした。その後、スマートアクセスやGPSなどにも採用されましたよね。

小島さん:独自開発思想のカシオだからできたレイアウトだと思います。いまではG-SHOCKにも使われていますが、あれは元々オシアナスで生まれたレイアウトだったんですよ。そうした背景もあって2012年のスマートアクセス搭載OCW-S2400や、当時世界初のGPSハイブリッド電波ソーラーOCW-G1000にも同様のアシンメトリーデザインを使いましたし、最新の20周年記念モデルを含むOCW-T6000などへと継承しています。

白石さん:20周年記念モデルは“BLUE STORY”をテーマに2004年から紡いできたオシアナスの歴史を、航海になぞらえた3部作で表現しました。OCW-T6000BVは日差しが反射して輝く海、サファイアガラスのベゼルリングに20面のカットを入れたOCW-S7000BVは快晴の空を映す紺碧の大海原がそれぞれデザインモチーフとなっています。

小島さん:残るOCW-S6000BVは、24面カットのサファイアガラスベゼルにスパイラルカットの技術を応用した2種類のカットを施すことで波がぶつかり合うような造形とし、さらに青色から黒色へグラデーションする新開発の蒸着を基調に、スパッタリングと蒸着を複数回繰り返すことで荒れた海が感じられる意匠に仕上げています。

最新作となるオシアナス20周年記念モデルの3部作。左から『OCW-S7000BV-2AJR』25万8500円/世界限定1200本、『OCW-S6000BV-1AJR』42万3500円/世界限定350本(公式サイトでは完売)、『OCW-T6000BV-2AJR』16万2800円/世界限定1000本

白石さん:文字盤も黒色を施したマザーオブパールを初採用しています。白蝶貝の模様を際立たせながら黒く美しい文字盤に仕上げるため、塗装や蒸着ではない独自技術で白蝶貝を黒色化するなどして『自然への畏敬を感じさせる荒れた大海原』を表現しました。

–まさに20年の歴史の集大成のような3部作ですね。そういえば、それらのモデルにも使われているサファイアガラスを使ったベゼルが出始めた頃は、かなりデザインのイメージが変わった印象を受けました。

白石さん:GPS搭載モデルのOCW-G1100で最初に採用したわけですが、これはオシアナスらしい海の表現に加えて宇宙的な要素も感じられる素材としてサファイアガラスが最適だったのです。そこに着色技術を加えることで、表現の幅が広がりました。

日本の伝統工芸と“エレガンス、テクノロジー”の融合

–精度追求という点ではGPSとBluetoothの3Wayに到達していて、サファイアガラスを使った先にオシアナスはどう進化するのかな、と思っていました。そうしたら今度は「江戸切子」が出てきたときも驚きました。

小島さん:常に新しいことに挑戦したいという思いがあるので、技術革新を進める一方、新しい表現手法の一つとして伝統工芸との融合も模索していたんです。色々な分野の方にアプローチして、お話をしていく中で江戸切子職人の堀口氏と意気投合。端的にお伝えすると、堀口氏は『職人の手作業といえども、1点ずつ個体差が生じてはいけない』という考え方を持っておられました。時計のサファイアガラスは硬いうえに小さい。これにカットを入れるということに加え、全品を均一に仕上げていくのは堀口氏にとっても大きなチャレンジだったと思います。引き受けてくださって本当にありがたかったですね。

日本の工芸技術が融合した歴代の特別シリーズ左から伝統工芸士の堀口徹氏が手がけた第1弾となる『OCW-S4000C』、徳島県の伝統的な藍である“阿波藍”をテーマにしたJapan Indigo – 藍 – の一本『OCW-S5000APL-2AJF』、下出祐太郎氏によるプラチナ蒔絵が施された『OCW-S5000ME』、宝飾研磨職人の小松一仁氏がハンドカットを施した『OCW-S6000JC-2AJR』

–そして素材使いではついにサファイアガラス製ベゼルが登場します。

白石さん:OCW-S6000は、匠の研磨技術により実現しました。24面のカットを点で合わせる必要がありますから、成形するだけでも長年の経験がなくては実現しません。見た目は繊細ですが(G-SHOCKほどではないにせよ)、日常生活における使用状況を想定した試験をクリアしているので安心してお使い頂けますよ。

–ところで、以前、9.5mmまでの薄型化を実現したOCW-S5000の開発インタビューで「オシアナスはドーム型ガラスが特徴だ」というお話を聞いたのですが、OCW-S6000でフラットガラスが出てきたので「あれっ?」となりました(笑)。そのぶん厚みも抑えられて8.7mmにまでスリムになったのかな、と。

小島さん:それほどOCW-S6000のサファイアベゼルは特別なんですよ(笑)。実際のベゼルデザインとの相性を考えると、風防もフラットにした方がまとまりが良かったんですよね。一方で、オシアナスとして変えてはいけない部分というのもあって、とくに造形美が感じられる外装はつねに念頭に置いてデザインしています。金属の光り方まで考慮した立体感を追求しているので、どのモデルも決して作りやすくはないですね。

白石さん:オシアナスは2004年のスタート時から『スーツに似合う腕時計』を打ち出し、ファーストモデルのローンチイベントではモデルにスーツを着用してもらいました。機能的な価値だけではなく、オシアナスを着けたらどのようなライフスタイルが送れるかなど、ストーリーをデザインしていくことも、オシアナスを開発していくうえで欠かせないポイントです。20年の間に多くの進化を遂げてきましたが、まだ色々とやりたいことはあります。これからのオシアナスに、ぜひご期待ください。

取材後記

2000年代、多くのビジネスマンにとってオシアナスは待望の腕時計だったのかもしれない。質感の高さに見合った10万円程度の価格帯でとにかく見栄えが良く、電波ソーラーのため精度と動作安定性にも優れる。フルメタルだが素材がチタンのため軽くストレスフリーでアレルギーも起こしにくい。実際、筆者もオシアナスを着用しているビジネスマンを街中で何度も見かけたことがある(もちろん目印はオシアナスブルーだ)。その後、このブランドが嚆矢となり、10万円台のソーラー電波クロノグラフは国産ブランドが受信速度や針の迅速駆動などの技術を競い合う時代に突入。その開発競争は、ソーラー発電でのGPS駆動が各社出揃った時点から徐々に収束へと向かうが、そこに至るまでの急速な技術発展のきっかけはオシアナスが作ったもの、と筆者は考えている

振り返れば、フルメタルでの標準時刻電波受信は難易度が高いと思われていた2000年代初頭にアナログ表示で挑戦し、それを達成。しかもクロノグラフなどの多機能も備えて実用に耐えるサイズに抑えた点は、デジアナモデルとはいえ快挙だ。その後、2005年からはフルアナログの電波ソーラークロノグラフとしてカシオ独自の高密度実装技術と省電力化を追求しながら、毎年のように世界最薄記録を更新。機能面では多局受信「マルチバンド5(のちに6へ進化)」に、リューズを用いた「スマートアクセス」、発電量を安定させる「遮光分散型ソーラーセル」、世界初となる電波受信・GPS・Bluetoothの「3way」など、多くの革新を遂げてきた。いまや最薄モデルの「マンタ」のモジュールは、従来のタフムーブメントに比べて約71%の薄型化を達成。これに使われるカレンダーディスクは、もはやコピー用紙と同等の薄さである。

小島さんが触れているのが最新モジュールのカレンダーディスク。吹けば飛ぶような薄さ

最新の20周年モデルでは、これまで培ってきた技術を駆使して異なる3パターンの「海の情景」が表現された。こうしたストーリーデザインが、今後の新作の開発ではより重要になってくるのではないだろうか。オシアナスはテクノロジーだけでなく、そこにエレガンスも伴わなければならない。かつて進化のポイントにブルーを配色してきたように、まだ見ぬ新作では時計の魅力をいかに美しく魅せてくれるのか。これから先のオシアナスの展開が楽しみでならない。

TEXT/Daisuke Suito(WATCHNAVI) Photo/Ryohei Oizumi

問い合わせ先:カシオ計算機 お客様相談室 TEL.0120-088925

https://www.casio.com/jp/watches/oceanus/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。

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