<取材協力>
G-SHOCK
過酷な環境で任務にあたるプロフェッショナル向けのG-SHOCK「MASTER OF G(マスター オブ ジー)」シリーズ。その中で、“空”のステージに特化しているのが「GRAVITYMASTER(グラビティマスター)」である。狭いコックピット内での使用を想定し、操縦者が求める極限の視認性、機能性、耐久性を追求してきた人気コレクションに、待望のニューモデル「GWR-B3000」がリリースされた。
本機に関するトピックは事多いが、WATCHNAVI Salonは大きく3つのポイントに集約されると推察した。それが、「トポロジー最適化による構造設計」「新開発のTOUGH MVT. 2(タフムーブメントツー)」「航空時計としての機能とデザイン」である。これらに関し、開発リーダーを務めた小島一泰さんにその優位性や開発の裏側をたっぷりとうかがった。


↑小島一泰さん/カシオ計算機株式会社 時計事業部 商品企画部 第一企画室 チーフプランナー。1992年にカシオ計算機に入社。2018年までデザイナーとして「G-SHOCK」やアウトドアギア「プロトレック」のデザインディレクションを担当し、2019年からはチーフプランナーとして総合的に開発を指揮する。
構造解析のブレイクスルー。緻密な設計による「デュアル中空構造」の誕生
G-SHOCKのアイデンティティであるタフネスと、スリム化によるコックピットでの扱いやすさ。この相反する要素の成立は、外装設計において大きな壁となったことは容易に想像できる。本来、グラビティマスターはあらゆる外からの耐性を持たせるために頑丈に作られているが、「GWR-B3000」は大幅にスマートなスタイルとなった印象だ。
(小島さん・以下同)「薄型化とトリプルGレジスト(耐衝撃・耐遠心重力・耐振動)の両立が最大の課題でした。従来は衝撃、遠心力、振動という3つの応力を個別に評価し、対策していたため、緩衝パーツ(シリコーン製緩衝材など)がどうしても大きくなってしまい、結果的にケースが分厚くなる傾向にありました」
── これを打破したのが、数学的・工学的なアプローチであるシミュレーション技術の新導入だった。
「トリプルGレジストに関する解析チームと密に連携し、MASTER OF Gで初めて『トポロジー解析(※)』を活用しました。衝撃、遠心力、振動という3つの応力を同時に解析にかけたわけです。ここからコンピューターが弾き出した最適な形状は、従来とは全く異なり、無駄がない、まるで生物の骨格のような有機的なフォルムでした。
その解析結果をベースに、余分な部分を削ぎ落とした樹脂製パーツと金属パーツとの間に絶妙な空間をつくることで、構造そのもので衝撃を吸収する『デュアル中空構造』へと行き着いたわけです。過酷な耐久テストをクリアしつつ、腕にフィットする薄型化も達成された上に、解析によってトライ&エラーの分析時間を短縮することも可能になりました」
※トポロジー解析:位相幾何学を応用し、設計空間モデルで想定される製品の使用環境やスペックに対して形状を最適化する手法。
── しかしながら、その複雑な形状を金属パーツとして量産するのは容易ではない。そこで白羽の矢が立ったのが、高度な成形技術である「MIM(Metal Injection Molding=金属粉末射出成形)」。これもカシオが得意とする卓越した製造技術のひとつで、複雑な形状の金属部品を高い精度で量産できる。
「トポロジー解析で導き出されたアウターケース(ステンレススチール製のプロテクターパーツ)は、非常に複雑な3次元形状をしており、従来の鍛造や切削加工では製造が困難であり、できたとしても多大なコストがかかってしまいます。そこで、微細な金属粉末を樹脂のように金型へ射出し、高温で焼き固める『MIM』を採用しました。この技術のおかげで、シミュレーション通りの極めて複雑な形状の金属パーツを高精度に作り出すことが実現したわけです」
── また「GWR-B3000」は、プロフェッショナルたちの意外なニーズにも応えるものだと小島さんは語る。
「実際にパイロットの方にヒアリングをすると、狭いコックピット内で他の計器やボタンにぶつかることは許されないため、時計のコンパクト化を望むご意見を多々いただきました。その一方、当然ながら視認性や操作性が優れていることが求められます。そして意外な回答だったのが、叙勲・褒章を受けるシチュエーションもあるわけですが、スマートな制服にマッチする時計でもあることが望ましいということです。要するに、オール樹脂外装のG-SHOCKではなく、メタル外装で質感を高めたG-SHOCKの方がニーズにマッチするわけです」

↑デジタル表示を持たず針表示のみで、カウンターを横配列にした、いかにもクロノグラフらしい顔立ち。そしてエッジの立ったメタルが放つ洗練されたスタイルもまた、腕時計としての機能美を宿している。また、G-SHOCKのアイコンディテールであるベゼル上のブランドロゴをあえて省き、メタルの質感を活かしたソリッドなイメージを構築。第2時間帯の設定を行うための都市表示のみが静かに刻まれ、直線的なヘアライン仕上げのメタルパーツと6角形穴の4本の機能ネジが、男心をくすぐるツール感を誘う。
1秒が明暗を分ける。「TOUGH MVT. 2」は絶対精度を実現する新ムーブメントだ
── そして「GWR-B3000」の魅力は、スタイリッシュな外装のみに留まらない。その心臓部には、18年ぶりの進化を遂げた新開発のムーブメント「TOUGH MVT. 2(タフムーブメントツー)」が搭載されており、各種の耐性スペックとともに絶対精度を実現するものだ。
「グラビティマスターは、“MASTER OF G”シリーズの『空』を担うラインであり、音速を超える人類の挑戦に着想を得て、壁に挑むパイロットの精神をこの時計の強靭さに込めています。これを体現するべく、今回はムーブメントそのものを見直すこととなりました。
そもそも『TOUGH MVT.』とは、絶対精度への挑戦と信頼性、実用性の向上を追求してカシオが独自に開発した、自動時刻修正機能付きのソーラーアナログムーブメントです。2008年の初登場時からすでに完成されたシステムでしたが、今回18年ぶりに進化させた『TOUGH MVT. 2』を開発するに至りました。その理由は、ムーブメントが外部から受ける意図しない干渉や環境変化が当時とは異なるためです。具体的には衝撃と磁場の質で、衝撃検知付き針位置自動補正と磁場検知機能を新たに搭載しています」
── 現代のニーズに合わせてアップデートされた「TOUGH MVT. 2」。従来のシステムでは毎時55分に針位置を検知して自動補正していたが、一瞬を争う極限状況では次の補正タイミングを待つ余裕すら許されない。そこで、衝撃や磁場を検知した瞬間に針のズレを即座に補正、あるいは未然に防ぐ機能が組み込まれた。その中で、開発陣を最も悩ませたのは、“どのレベルの衝撃・磁気で作動させるか”という感度調整だったという。
「衝撃検知のアルゴリズムには、かなり悩まされました。というのも、針がズレるほどの深刻な衝撃は確実に検知しなければなりませんが、日常動作で少し腕をぶつけた程度でいちいち反応していてはバッテリーも消費してしまいますし、実用的ではありません。開発メンバーでプロトタイプを着用して生活し、『机を強く叩いた時はどうか』『ドアノブにぶつかった時はどうか』など、日常のあらゆるシーンで検証を重ね、最適な基準値を探り当てることを繰り返し行ったわけです」
── さらには、現代のパイロットや一般ユーザーを取り巻く「磁気」への対策も、全く新しいアプローチが採られている。
「近年、スマートフォンのマグネット機能やワイヤレス充電などの普及により、強力な磁気を発する機器がコックピット内だけでなく、身の回りにあふれています。磁場による針のズレというリスクは、18年前とは比較にならないほど高まっているわけです。今回の『TOUGH MVT. 2」の磁場検知機能は、そういった強い磁場を専用のセンサーで検知し、針のズレを未然に防ぎます。実はこのセンサー、基板上に向きを変えて2つ実装しているんです。磁力は様々な方向から襲ってくるため、どの角度からの磁場にも死角なく対応するための工夫というわけです」

↑(左から)GWR-B3000A-2AJF 12万6500円、GWR-B3000B-8AJF 13万7500円、GWR-B3000-1AJF 11万円
── そして、時計業界のセオリーを覆す革新的な発想について、小島さんはこう続ける。
「機械式を含む従来の耐磁時計は、軟鉄などのカバーで覆って“磁場に耐える構造”にするのが一般的でした。しかしそれだと時計が重く、分厚くなってしまいます。そこで今回は発想を転換し、クオーツの特性を逆手に取りました。磁場の影響を受けている間はあえて針を止め、磁場から離れて環境が戻ると、内部で記憶していた正しい時刻へ自動で復帰するという新しいアプローチを採用したわけです。これにより、磁場による悪影響や衝撃が加わった際の補正、そして軽量化と薄型化を同時に適えることができました。現代の磁気リスクや様々な環境要因にも対応したこの次世代ムーブメントは、パイロットだけでなく、ビジネスやアクティビティなど、正確な時刻表示を求める方の日々を支える相棒になってくれれば嬉しい限りです」
空のエキスパートを支える実用機能とこだわりのディテールの数々
そのほかにも、「GWR-B3000」にはパイロットウオッチとしての真髄を宿す機能美が詰め込まれている。
⚫︎スマホ連携による「フライトログ」機能とUTCダイレクト呼び出し
「時刻の調整は、モバイルリンク機能と標準電波受信機能でカバーしています。また、パイロットからの要望を反映し、Bluetooth®接続でタイムスタンプをグルーピングしてアプリに記録できる『フライトログ機能』も搭載しています。さらに左上のボタンを長押しするだけで、瞬時にUTC(協定世界時)をダイレクトに呼び出せます。国際線を飛ぶパイロットは常にUTCを基準に行動するため、空のステージに対応する本格的な仕様です」
⚫︎ピラミッド型の表面加工で徹底的に反射を抑える無塗装マット文字盤
「コックピット内では、上空の強烈な太陽光が様々な方向から入り込みます。ガラスや文字盤の反射は、致命的な視認性低下に繋がるわけです。そこで、文字盤表面(無塗装マット)に微細な凹凸を設け、徹底的に光の反射を抑えています。また、塗装を使っていないのも特徴で、万が一、墜落レベルの極限の衝撃を受けて針が文字盤に強く接触した際、塗料が剥がれて内部に粉塵が舞うと、それがギアに噛み込んで動作不良を起こすリスクがあるわけです。そのため、文字盤表面は金型加工そのもので反射しにくい成形を行っています。また、背面飛行などで上下感覚がなくなる激しい機体操縦時でも、時計の上下が瞬時に判断できるよう、12時位置のインデックスのみアラビア数字を配しています。夜間の読み取りにも配慮し、蓄光塗料の量や配置も最適化しています」
⚫︎キビキビと動作する「デュアルコイルモーター」と遊び心
「モード切り替え時や時刻修正時の針の動きが非常にスムーズでスピーディです。特に海外へ行った際の時差修正の速さは、ストレスフリーに感じていただけるはず。これは、カシオ独自のデュアルコイルモーターによって実現しました。なお、扱いやすいように大きくしたリューズは、実はトリプルGレジストのロゴ(ケースバックに刻印されているトライアングルデザインのロゴ)がモチーフとなっており、デザインの細部にも遊び心を入れました。所有する喜びも感じていただけるよう、隅々までこだわりを持って仕上げています」
まとめ:究極の機能美を実感できる“クロノグラフ”
「スーパーソニック(超音速)」をコンセプトに掲げる「GWR-B3000」は、パイロットが瞬時に情報を読み取るための視認性や操作性において、一切の妥協を許していない。空のプロフェッショナルによる着用を想定し、過酷な環境下でも時を刻み続けるという時計にとって最も重要な信頼性を備えている。さらには、私たちも日常で直面する見えない磁気リスクの低減や、トポロジー解析が導き出した無駄のない造形を含め、まさに究極の機能美を宿している。
数々のタフウオッチを見つめ続けてきた筆者からしても、「GWR-B3000」はグラビティマスターが持つ空のイメージの枠を超え、真の実用時計であり、所有する歓びも満たしてくれる一本に見える。漠然と、“夏のボーナスで良い腕時計を買おう”と考えていたら、ぜひ候補のひとつとして選択肢に入れてもらいたい。いつでも、どこでも、気兼ねなく着けて出掛けられるライフスタイルに寄り添うクロノグラフとして、目の肥えたウオッチフリークたちの間でも広く認められる存在となるだろう。

G-SHOCK「グラビティマスター GWR-B3000A-2AJF」 12万6500円
音速の壁を突き抜ける“スーパーソニック”のスピード感からインスパイアされた、アビエーション仕様の本格派パイロットウオッチ。新開発のムーブメント「TOUGH MVT. 2」を初搭載し、従来の耐衝撃性に加え、衝撃や磁場を感知して自律的に時刻を補正・維持する先進機能を備える。外装にはトポロジー解析を活用した「デュアル中空構造」を導入し、強靭なトリプルGレジスト(耐衝撃・耐遠心重力・耐振動性能)を維持したまま、腕なじみのよい薄型化を実現。
スペック:クオーツ。樹脂+ステンレススチールケース、ソフトウレタンバンド(主要な樹脂パーツにはバイオマスプラスチックを採用)。縦56.7×横47.3mm、厚さ14.1mm。20気圧防水。質量102g。20気圧防水。
GWR-B3000シリーズ/機能一覧
● トリプルGレジスト(耐衝撃構造・耐遠心重力性能・耐振動構造)
● カーボンコアガード構造
● デュアル中空構造(AI解析による外装最適化)
● タフソーラー(ソーラー充電システム)
● TOUGH MVT. 2(自動時刻修正機能付きソーラーアナログムーブメント)
● モバイルリンク機能(Bluetooth®通信によるスマートフォン連携)
● マルチバンド6(世界6局対応の標準電波受信機能)
● 衝撃検知付き針位置自動補正機能
● 磁場検知機能(針ずれ防止・自動復帰機能)
● ダークブラックマットダイアル(低反射・高視認性仕様)
● デュアルタイム
● ストップウオッチ
● タイマー
● 時刻アラーム
● UTCダイレクト呼び出し機能
● 高輝度LEDライト(スーパーイルミネーター、残照機能付き)
● 日付・曜日表示
● パワーセービング機能
● ネオブライト
モデルの詳細はコチラ>>>
問い合わせ先:カシオ計算機 お客様相談室 TEL.0120-088925 https://gshock.casio.com/jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。
Text/山口祐也(WATCHNAVI編集部) Photo/吉江正倫(時計)、鈴木謙介(インタビュー)

















