〈開発者インタビュー〉時計ブランド初の挑戦! G-SHOCKが1.5億人集うメタバース「Roblox」にオリジナルワールドを開設した意義

1983年の誕生以来、「落としても壊れない時計」という他に類を見ないタフネス思想で時計の常識を覆してきた「G-SHOCK」。その後、ストリートカルチャーやエクストリームスポーツ、ファッションと密接に結びつきながら世界的アイコンへと発展を遂げてきた。そして今、新たなフロンティアとして注力するのが「バーチャル空間」。カシオが2023年に立ち上げたプロジェクト「VIRTUAL G-SHOCK」をさらに加速させ、1日のアクティブユーザーが全世界で1億5000万人を超える巨大メタバースプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」への参入を果たした。公式アバターアイテムの販売とともに、ブランドの世界観を凝縮したオリジナルワールド「Challenge the Skate Obby:G-SHOCK」を公開した。

時計ブランドとしてのRobloxの参入は初の例となるが、先陣を切るこの挑戦の狙いとは? そしてデジタルネイティブ世代に向け、「時計を身につける文化」をどう根付かせるか? 本プロジェクトの開発を指揮した、カシオ計算機株式会社 時計統轄部 デジタルマーケティング部 高山喜博さんへのインタビューを通じ、バーチャル空間におけるG-SHOCKの戦略に迫る。

VIRTUAL G-SHOCKの軌跡 ── 「VRChat」と「The Sandbox」を経て「Roblox」へ

 

―― まず「VIRTUAL G-SHOCK」プロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

(高山さん)「プロジェクト自体は2023年頃からスタートしました。G-SHOCKのブランド価値をバーチャルの領域まで拡張できないかという模索から始まったものです。その背景には、若年層に対するアプローチ手法の劇的な変化があります。従来のマスマーケティングやリアル店舗、紙媒体だけでは、今の若い世代にリーチすることが難しくなっています。彼らが可処分時間をどこに費やしているのかを分析すると、やはりゲームやバーチャル体験という領域に集中していました。そこで、バーチャル空間そのものをブランド体験の場とし、認知や好意度、そして“G-SHOCKを着用してもらう文化”を醸成しようと考えたのです」

―― これまでにも複数のプラットフォームで、バーチャルの世界と繋がってきました。

「おっしゃる通りです。第1弾として、2023年に『VRChat』内にG-SHOCKストアを開設しました。時計のパーツカラーを自由にカスタマイズできる『MY G-SHOCK』の体験をワールド内に落とし込んだり、G-SHOCKを模したライドに乗って楽しむアトラクション型ワールドを展開しました。続く第2弾が、メタバースの『The Sandbox』への参入でした。ここでは、1983年のG-SHOCK誕生秘話を追体験するタイムトラベル型アドベンチャーゲームのほか、過酷な耐衝撃試験をプレイヤー自身が受けるミニゲームを用意しました」

―― The Sandboxでは、G-SHOCKの歴史を楽しく学べる機会となりました。ユーザーの反応はいかがでしたか?

「非常に能動的に楽しんでいただけたことがわかり、我々も嬉しい限りです。G-SHOCKの歴史をゲームを通して初めて知った、という声はもちろん、最も嬉しかったのは、ゲームを遊んだことでリアルのG-SHOCKが欲しくなった、というフィードバックです。バーチャルでの体験が、リアルなプロダクトへの購買意欲や愛着に直接結びつくという手応えを得られたことが、今回のRoblox参入への決定打となりました」


↑「Roblox」に関するデータ/・1日あたりの訪問者数(DAU):約1億5000万人以上・年齢層:13歳以下が全体の約3割を占め、若年層が中心・アバター着せ替え頻度:1日あたり約2億7400万回・アバターの装いが現実のファッションに影響すると答えたユーザー:84%

 

なぜRobloxなのか? 1.5億人が集う空間とファッションの新発信地

―― メタバースと呼ばれるプラットフォームは数多く存在します。その中で、Robloxを選定した理由を教えてください。

「Robloxは、ユーザー自身が作成した数百万以上のゲームを自由にプレイできるオンラインプラットフォームで、言わば“ゲーム版のYouTube”のような世界が広がっています。動作環境がPCだけでなく、スマートフォンやゲーム機にまで幅広く対応していることもあり、プレイしてみようという障壁が低いことが強みです。現在、デイリーアクティブユーザーは約1億5000万人を超えており、日本の総人口以上の人々が毎日Robloxの世界に集まっています。

またユーザーの地域的な分布も興味深いです。北米や欧州だけでなく、スマートフォンの普及率が徐々に向上しているアジア圏でもシェアを伸ばしています。ハイエンドなゲーミングPCを必要とするVRChatやThe Sandboxと比較して、スマートフォンで手軽にアクセスできるRobloxはより広範な若年層にリーチするためのプラットフォームとなっているわけです」

―― Robloxでは、“アバター文化”の熱量の高さも話題になっています。ブランドビジネスにとって見逃せないステージとも言えるのでしょうか?

「まさにそこがポイントです。Robloxでは1日に約2億7400万回もアバターの着せ替えが行われており、バーチャルファッションが自己表現のカギとなっています。興味深いのは、Robloxユーザーを対象とした調査で、“アバターのファッションが現実の自分のファッションに影響を与えている”と答えた人が、実に84%に達している点です。

従来であれば、“自分が持っている服や時計に似せてアバターを着せ替える”ことが一般的でした。しかしデジタルネイティブの子供たちは、順序が逆転しているのです。まずアバターに好きな服や時計を身につけさせ、それがカッコイイから現実世界でも同じものが欲しくなる。そうした現象がすでに起きています。バーチャルとリアルの境界線が極めて曖昧になっている今だからこそ、アバターの腕元にG-SHOCKを巻いてもらうことの意味は非常に大きいと考えています」

オフィシャルだからこその造形美。「DW-5600」「GA-2100」を完全再現するディテールへの執念

―― 今回リリースされた公式アバターアイテムは、G-SHOCKがそのままRobloxの世界に飛び込んだような緻密なデザインですね。

「実のところ、これまでもRoblox上にはユーザーが有志で作成した非公式のG-SHOCK風アイテムがいくつか存在していました。ファンが作ってくれたアイテムですからカシオとしても大変嬉しい限りなのですが、それらは形状のバランスや厚み、質感などがG-SHOCKとは大きく異なるものでした。我々は公式として参入する以上、これまでにないクオリティを示す必要があったわけです。


Roblox内で販売されるG-SHOCKは2シリーズ。ひとつは、ファーストモデル「DW-5000C」のDNAを受け継ぐ、スクエアモデル「DW-5600」 。アイコニックなフォルムで、定番ブラックから最新色となる「ROOKS BLACK」を含む全6カラーで展開。

 

(実際のアバターアイテムをPC画面で見せてくれたうえで)樹脂ケース、バンド部のレジンのテクスチャー、ベゼルの彫り込み文字、文字盤の立体感など、DW-5600が持つ固有のディテールを見事なまでに再現できたと自負しています。Robloxではアバターの動きや体型によってアクセサリーが自動リサイズされるのですが、場合によっては時計がブレスレットのように潰れてしまう現象が起こりがちです。そのため、アバターの個体差や激しく動いたとしても、G-SHOCKのプロポーションが破綻しないように調整を徹底しました」


↑もうひとつが、特徴的な八角形ベゼルを持つアナログ&デジタルモデル「GA-2100」。薄型かつモダンなスタイルで、「カシオーク」という愛称で親しまれているG-SHOCKは、ストリート映えする全6カラーで展開される。

 

「第一弾として、原点であるスクエア型の「DW-5600」シリーズと、世界的なヒット作となった八角形ベゼルの「GA-2100」シリーズを選びました。各6色、計12種類のバリエーションを揃えています。さらに、アパレル(Tシャツやキャップ)に加え、巨大なG-SHOCKを背負うバックパックなど、ゲーム空間ならではの遊び心を取り入れたアイテムも用意しています」

―― アバターアイテムの表現に限界があるのは容易に想像できます。これだけのポリゴン精度とテクスチャーの解像度を維持するのは、なかなか技術的に困難だったのでは?

「非常にシビアな作業となりました。Robloxにはアップロードできるアセットのデータ容量に厳格な制限があります。単純に高ポリゴンなデータをアップすることはできません。データの軽量化を図りながら、どこまでG-SHOCKらしいエッジの鋭さや立体感を残せるか。ゲーム内でカメラがアバターの腕元に寄った際にも、文字盤のインデックスやロゴがくっきりと視認できるよう、テクスチャーのベイク処理やノーマルマップの適用において、できる限りの最適化を繰り返し、完成へと至りました」

スケート×障害物レースで、タフネスを体験「Challenge the Skate Obby」

―― アバターアイテムだけでなく、誰もが楽しめるゲーム「Challenge the Skate Obby : G-SHOCK」の提供について、その目的を教えてください。

「ショールームのように時計を並べるだけでは、RobloxユーザーにはG-SHOCKに興味を持ってもらえないと考えました。彼らはゲームをプレイしにRobloxへ集まるため、そのトレンドとG-SHOCKのブランドアイデンティティを融合させた体験の提供が不可欠でした。

そこで着目したのが、Robloxで圧倒的な人気を誇るジャンルであるスケートボードと、Obby(オビー=障害物コースを走破するアスレチックゲーム)です。ストリートカルチャーを象徴するスケートボードとG-SHOCKは、歴史的に深い繋がりがありますから、打ってつけなコンテンツだと言えます」


【「Challenge the Skate Obby:G-SHOCK」の魅力】
1. ストリートカルチャーと融合したクールな世界観
・グラフィティアートやネオンが彩る都市空間
・タイマーやコース各所にG-SHOCKのベゼル・バンドを模したギミックを配置
2. 失敗を恐れず挑み続ける「タフネス思想」の体現
・高難度の障害物を何度もリトライしながらクリアするゲーム性
・G-SHOCKの「決して諦めない(Never Give Up)」精神とObbyの親和性
3. アイテムと連動するユーティリティ機能
・公式G-SHOCKアイテムを装着することで発動する特殊な視覚効果やゲーム内アドバンテージ

 

―― (ゲーム体験を経て)難易度自体も、あえて高めに設定されているとか。

「はい。あえてコース設計をタイトにし、テクニカルなジャンプやレールスライドを要求される構造にしています。Obbyというゲームの本質は、“失敗を繰り返しながら、チェックポイントをひとつずつ進めてゴールを目指す”というプロセスにあります。落下しても、ハンマーに弾き飛ばされても(笑)、立ち上がって再び挑む。このゲームサイクルそのものが、過酷な耐衝撃試験をクリアしてきたG-SHOCKのタフネスに通じるものなのです。

なおワールド内には、耐衝撃試験機をモチーフにしたハードなギミックや、GMW-B5000(フルメタルG-SHOCK)のメタルバンドを模した巨大な橋など、時計好きなら思わずニヤリとするような造形を随所に散りばめています。ぜひ、体験してください!!」

バーチャルからリアルへ。次世代へと紡がれる時計の未来像

―― ゲーム内で使える通貨やアイテムの入手方法については、どのようになっているのでしょうか?

「2種類を用意しています。ひとつ目が、Roblox共通のプラットフォーム内仮想通貨『Robux(ロバックス)』で購入できる公式アバターアクセサリーです。ここで購入したG-SHOCKは、他のあらゆるRoblox内のワールドにも身につけていくことができます。

ふたつ目が、G-SHOCKワールド内でチェックポイントを通過したりコースをクリアすることで獲得できる限定コインです。このコインを貯めることで、ワールド専用のカスタムスケートボードや特別なエフェクトを手に入れることができます。課金・無課金を問わず、やり込むほどにプレイヤー自身の個性を表現できる設計にしているのも特徴です」

―― ゲームからリアルな世界へといった、時計ビジネスに対するフィードバックや今後の展望についてどのようなビジョンがありますか?

「まずはこのG-SHOCKワールドをリリースして終わり、にするのではなく、継続的にアップデートしていきます。例えば、G-SHOCKの新作の発売に合わせてバーチャル空間でも同時に新作のアバターアイテムをローンチしたり、Roblox内でのユーザーの反応や人気の高かったカラーリングをリアルの製品開発にフィードバックする、といった双方向の展開も視野に入れています。

時計離れと言われて久しい世代に対して、時計を着けることのカッコよさを言葉ではなく体験として届けること。アバターの腕元に輝くG-SHOCKに親しんだ子供たちが、やがて成長したとき、本物のG-SHOCKを手に入れたいと思ってくれるような、息の長いカルチャーの種まきをこれからも続けていきたいですね」

# 取材後記 #

スマホやスマートウオッチの普及によって、時刻を確認する道具としての時計の存在価値は大きく変容した。しかし、手元を飾り、自己のアイデンティティやライフスタイルを主張するための時計は、その魅力は不変なものと筆者は考えている。

今回のRobloxにおけるG-SHOCKの試みは、従来からのデジタル広告とは一線を画す。あらゆる企業やブランドがひしめき合う次世代が熱狂するプラットフォームの中で、自社のプロダクトがどう評価されるかの挑戦なのだ。カシオのような大手企業は保守的になりがちだが、あえて見せたその勇気ある挑戦にまずは賛辞を贈りたい。その一方で思うことは、G-SHOCKは革新の連続で進化してきたブランドであり、時代を見据え、Robloxの世界に飛び込んだことは必然的だったのかもしれない。

スクエアケースや八角形ベゼルのアイコニックなG-SHOCKが、アバターの腕元で躍動し、仮想空間のストリートを駆け抜ける。バーチャルからリアルへと繋がるこの新たなプロセスは、時計のカルチャーを未来へと繋ぐための一手となることだろう。

 

〈G-SHOCK公式サイト〉https://gshock.casio.com/jp/

Roblox公式サイト〉https://about.roblox.com

Text/山口祐也(WATCHNAVI編集部)

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