時計専門誌「WATCHNAVI」は、3月20日から小田急百貨店 新宿店本館5階=時計売場で開かれるワールドウォッチフェアにコンテンツ提供を行っている。本コラムは、このショップを通じて百貨店の時計売場の魅力を伝えていくのが目的だ。最終回となる3回目のテーマは「腕時計のジャストサイズ」について。
第1回「WN編集長が巡る百貨店の時計売場の歩き方」
第2回「国産ウオッチも豊富な百貨店でクオーツ式時計を見比べてみては?」
Text/Daisuke Suito(WN) Photo/Katsunori Kishida
メンズのトレンドは小型化へとゆるやかにシフト、
一方レディスは大きめサイズを狙う人が増加
近年、日本で人気を集めている腕時計のメンズのサイズは40mm前後となっている模様。これは、腕時計の装着感に対して皆さんが厳しい目を持ち始めたからだろう。スイスで作られるような舶来製の本格時計は欧米人の体格を想定して作られることが多く、自然とサイズも大型になりがちだ。対して日本人は腕の細い人が多いので、日本の時計市場に対してミスマッチな印象を受ける海外製品を筆者はしばしば目にしてきた。実際、試着したら手首からケースがはみ出してしまうほどのビッグサイズだったために、泣く泣く好みのデザインの時計を諦めたこともある。
一方女性はというと、ジャケットスタイルに合わせて知的な印象に、やラフな着こなしに合わせてマニッシュな印象に、とミドルサイズのメンズウオッチを求める声も多くなっているとのこと。コーディネートのポイントを意識して腕時計のサイズを選ぶ女性が増えているようだ。
アパレルと同じく、腕時計もジャストサイズが上手な着こなしの基本。「ビッグサイズ」のブームがひとつのスタイルとして定着する一方、腕時計自体の原点回帰も見直されるいまはサイズの選択肢が幅広くあり、自分に最適な大きさを見極める絶好のチャンスといえる。だからこそ、多くの商品が一度に見比べられる時計売場は、腕時計を探すときに必ず一度は訪れておきたいところだ。
一度は試しておきたいユニセックスサイズ
今回も売場を一緒に回ってくれたのは、小田急百貨店 新宿店本館5階=時計売場フロア担当の佐藤さん。実際の商品を見ながら、サイズについての売場のトレンドを伺った。
「本来は男性向けの腕時計を女性がお買い求めになることも、またその逆のパターンも増えています。新しく入荷する商品についても、明確に男女を区別しないものが増えている印象です。代表的なモデルが、ショパールの『ミッレ ミリア クラシック クロノグラフ』。メンズのイメージが強いコレクションですが、クロノグラフではあまり見かけないサイズ感と、クラシックだけど個性あるデザインという点で、女性のお客様からもご好評いただいています」
世界的なジュエラーとしても知られるショパールは、同時にメンズウオッチの分野で魅力的なタイムピースを手がけていることは時計好きの間では知られた話。そういった2面性に加え、歴史ある独立企業で、幅広い世代の本物志向の人々に愛されてきた実績が、性別を超えて引き込むだけの魅力へと繋がっているのだろう。
「“ムービングダイヤモンド”で知られるショパールの定番『ハッピーダイヤモンド』を見に来られた方が本格的な機械式時計の前で足を止める、という光景は割とよくあります。このコーナー自体は女性のお客様が多いのですが、皆さんレディスウオッチという言葉にとらわれず、広い視野で時計を探されているようですね」
ミッレ ミリア クラシック クロノグラフに共通する傾向は、オメガのスピードマスターでも見受けられるという。
「スピードマスターといえば直径42mmのプロフェッショナルが大定番で不動の人気があり、38mmは2017年の発表当時はレディス版という位置付けが想定されていたようです。実際は、サイズ、デザインのバリエーションとして幅広く愛されるコレクションとなっていて、女性に選ばれるのはもちろん、男性がお買い求めになったこともあります。直径4mmの差は腕時計だとかなり違ってくるので、やはりサイズを重視して選ばれたのだと思います」
スピードマスター 38mmは、ブラックダイアルのモデルを除いてオーバル型のインダイアルや豊富なバリエーションも大きな魅力。別モデルにはダイヤセッティングやマザー・オブ・パール文字盤などもあり、選び、悩む楽しさがある。さらにイチ時計好きの私見としては、女性がクロノグラフを選ぶという点に、なんとも言えない喜びを感じる。
「クロノグラフを選ばれる方は、やはり時計がお好きでよく調べていらっしゃいますね。そういった方が実は増えていて、いまでは女性の方にも幅広くご提案するようにしています」
失礼ながら筆者は先入観としてレディスウオッチは小さくて、ダイヤが付いているものというイメージがあったが、その固定観念はもはや捨て去った方が良さそうだ。
ジェンダーレスウオッチの現在地
ショパール、オメガで学んだように、いまや腕時計の時代はジェンダーレス。その現代スタイルをいち早く腕時計で実践しているブランドを、佐藤さんに教えていただいた。
「ラドーは、性別問わず愛されているブランドのひとつと言えます。加えて、耐傷性に優れたハイテクセラミックスの時計には“二人の愛が傷つかない”という験担ぎからブライダル需要や、ご夫婦でペアのご購入もあり、実際にきれいなまま長く使えることからリピーターの方も多いのが特徴。最近は、デザインにも力を入れていることもあり、若年層のお客様からも好評いただいています。そのようなブランドのいまを象徴するモデルが、この『トゥルー シンライン レ・クルール™ ル・コルビュジエ』です」
このモデルは、建築家ル・コルビュジエが生み出した建築的ポリクロミーの9色をラドーが誇るハイテクセラミックス素材のケースで実現した限定シリーズ。聞けば、常時全9色のフルセットを展開している売場は、小田急百貨店 新宿店のみではないか、とのこと。
「スイス生まれの世界的建築家の限定モデルということもあり、わざわざ遠方からお買い求めにいらっしゃる方も。直径39mmに対し、厚さわずか5mmというサイズ感は誰にでも抵抗なく着用いただけますし、ハイテクセラミックスなのできれいな色を長くお使いいただける点で私たちも安心してご提案できますね」
次に見せていただいたのはティソ。スイスウオッチのエントリーとしても選びやすい名門は、その長い歴史のなかで作られたアーカイブピースの復刻版から古き良き時代のサイズ感を知ることができる。
「腕時計は実用品であるだけでなく、女性の装身具としても重宝されてきました。バングルのように手首に沿うようなカーブケースを特徴とするティソのバナナ・ウォッチも、元々は貴婦人のために製作され、1916年に発表されました。形状だけでなくサイズまでほぼオリジナルモデルの通りに復刻された現行モデルは、アール・ヌーヴォー様式を文字盤や針にいたるあらゆる点で楽しむことができます」
「それと同じく、誕生から100年以上の歴史ある腕時計としてポルトもぜひご覧になってください。こちらは手巻きムーブメントを搭載しているので、時計に詳しい方ならこちらの方がお好みにあうかもしれませんね。こちらは1919年誕生で、アール・デコ様式を取り入れているところにティソの先見の明が感じられます」
最後に見せていただいたのは、本稿で唯一のフランスブランドとなる「ミッシェル・エルブラン」だ。2014年に上陸したばかりで日本ではまだ馴染みが薄いながら、本国フランスでは国を代表するウオッチブランドとして親しまれており、広く世界展開されている。
「角形ウオッチの『アンタレス』でメディア露出の多いミッシェル・エルブランは、『ニューポート』というコレクションも人気があります。38mmのクッションケースを特徴とする本機は7.5mmと薄く、着け心地は軽快そのもの。日付が大きく見やすいので、ビジネス用途でもお使いいただきやすい一本となっています」
ちなみにアンタレスの方は、ブレスレットから簡単に交換できるストラップがロングとシングルの各1セットずつ付属することもあって好調を続けているという。その日のファッションに合わせてストラップを交換するのもまた、時計の小径化と時を同じくして生まれたトレンド。1本で様々な変化が楽しめる時計を選ぶのは、賢い時計の買い方と言えるだろう。
腕時計のジャストサイズとは果たして・・・
ここまで試着を繰り返しながら見てわかったのは、やはり腕時計は着けてみなければ実際の装着感はわからないということ。手首周り17cm程度の筆者が所有する数本の腕時計は直径34mmから45mmまで10mm程度の幅があるが、快適な時計の方が使用頻度は自然と多くなる。それは決して直径だけの問題ではなく、ケースの厚みやラグの長さ、重量、バランスなど、様々な要素が絡み合うため言葉では説明し難い。男性にも女性にも様々な選択肢があるので、失敗しないためのアドバイスとしては「一度は必ず店頭で試着してほしい」ということに尽きる。
また、気をつけたい点としてジェンダーレスなサイズ感といっても女性向けと男性向けというのは、実は明確に存在している。その見極めポイントとなるのがストラップの長さ。試着する場合はストラップの穴位置やブレスレットのコマ詰めのことまで考えを巡らせ、長い、もしくは短い場合はスタッフに相談してみよう。とくにストラップの場合には最適なサイズに交換できる可能性もある。長く使うものだからこそ見た目の印象だけでなく、腕に乗せた時のフィーリングもしっかり吟味しよう。いつも以上に多くの時計に触れることができるワールドウォッチフェアの期間中に経験値を積めば、きっと自分なりの“ジャストサイズ”が見つかるに違いない。