蒸着技術の進化と偶然が生んだ情緒的なグラデーション
――蒸着の工程も以前より進化しているとのことですが?
(佐藤さん)「第1弾では黒とブルーがはっきり分かれていましたし、第2弾の琥珀のときも2色がはっきり分かれていました。今回のテーマに合わせて、初めて切子モデルにもグラデーションの蒸着を採用しています。斜光というテーマを体現できる“伸びやかな光の筋”をイメージした新しい蒸着色も開発しました。カシオとしては、ブルーのバリエーションは結構たくさん持っているんですが、鮮やかなブルーからブラックになっていく過程で、わずかにパープルの輝きが現れる情緒的なグラデーションを新たに開発しました」
(鈴木さん)「実はこのパープルって、本当に想定していなかったんですよ。ブルーからブラックに変化するグラデーションをやりたいと思ったんですが、実際作ってみたら、こういう紫が出て、情緒的でキレイだねという話になって。これは願ってもない、偶然の産物なんです」
(佐藤さん)「普通、偶然出てきたものは使えないことが多いんですが、こんないいこともあるんだなと(笑)。それから、2019年時点ではできなかった、サファイアガラスのリングの内側を研磨する処理も施しています。これは蒔絵の時に開発した技術なんです。サファイアガラスって、加工した後、擦りガラス調なんですね。これを研磨材で磨くことで透明になるんですが、これまではサファイアガラスのリングの内側は擦りガラス調のままでした。今回はリング内側の立壁面をミラーに仕上げ、鏡のように映り込ませることで、切子に立体感を持たせています」
――細かいところにまで新技術が導入されているんですね
(佐藤さん)「堀口切子さんの工房で職人によるカッティングをしていただいたサファイアガラスのリングに、最後に蒸着で着色するんですが、通常は1~2回のプロセスのところ、今回4工程入っています。まずシルバーの蒸着をかけて、そのあとカットを施した部分にだけシルバーの蒸着が残るように、他の部分は剥離してしまいます。そのあとに新開発したブルーブラックの蒸着を施しますが、これだけだと、発色が物足りないというのが第1弾の研究からわかっているので、最後にもう一度シルバーの蒸着をかけています」
(鈴木さん)「切子を施した箇所に、もっと明るいシルバーの蒸着をかけたものも作ってみたんですが、そうするとグラデーションが弱く、見えづらくなってしまいました。切子ばかりが目立ってもよくないし、グラデーションが見え過ぎてもよくないし、色のバランスも含めて検討しましたね。斜光の伸びるイメージを切子だけでなく、蒸着も含めて、組み合わせでどう表現できるか、試行錯誤を重ねました。
ケース外装は2019年の時と同じ形状ですが、文字盤の色を変えただけでなく、新たに顔の構成を変えたりもしています。2019年の時は、文字盤全面で受光するタイプだったんですが、今回はインダイアルソーラーを採用しました」
(佐藤さん)「もともとインダイアルソーラーの技術はあったんですが、切子モデルでは初めてこの技術を採用しました。ブルーのインダイアルの部分だけで受光して、発電しています。蒔絵モデルのときに開発したミラーブラックの文字盤を採用し、視認性を担保しながら、切子のデザインが映えるように配慮しています。厚みは、2019年のときと同じく9.3mm。着け心地は抜群にいいですね」
(鈴木さん)「切子モデルのために、なにを組み合わせれば一番いいものができるのかを考え抜いた、欲張りなモデルだと思っています」