2019年にSIHH(ジュネーブサロン)からの撤退を表明したオーデマ ピゲは、コロナ禍を経て2021年から独自の新作発表会「AP ソーシャルクラブ」を開催している。今年の開催地に選ばれたのは、イタリア・ミラノ。去る3月4日に市内中心地にあるコンベンション施設でお披露目された新作は、20モデルに及んだ。
新素材「サンドゴールド」の魅惑的な色彩効果
今年からメゾンを率いるイラリア・レスタ新CEOによれば、2024年のテーマは「シェイプとマテリアル」。しかし目新しいシェイプのモデルは、ミラノでは発表されなかった。一方、マテリアルに関しては、独自の18Kサンドゴールドをまとった「ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク」が登場し、注目を集めた。18Kサンドゴールドとは、18Kピンクゴールドの割金(純金以外の金属)に含まれる銀を、より白いパラジウムに置き換えた合金。元々18Kピンクゴールドに含まれる銅と相まって、柔らかなサンドベージュカラーを呈する。さらにその色味は、光の具合でシルバーカラーに見えるという色彩効果を有しているのが、実に新鮮である。
今後に期待したい新たなセラミックの可能性
また、まったく新しいセラミック素材も登場。色が異なる顔料を混ぜた複数の酸化ジルコニウム粉を一体焼結できる新技術スパークプラズマ焼結(SPS)によって生み出された、カモフラージュ柄のセラミックだ。触れてみると各色の間に段差や隙間は一切なかった。すでにさまざまな色の組み合わせのカモフラージュセラミックが完成しており、その中にはUVライトを当てると一部の色が光るものまであった。この新素材を用いたプロトタイプも完成しており、正式に発表される日も近いだろう。
ジョン・メイヤーとの共作に2作目が登場
次々と新作のプレゼンテーションが行われる中、会場が最も沸いたのは、シンガー/ギタリストのジョン・メイヤーが登壇した瞬間だった。時計コレクターとしても名高い彼とのコラボレーションモデルが、実現したのだ。メイヤー曰く「自分だけのためのオーダーメイドとして注文したところ、前CEOのフランソワ-アンリ・ベナミアスから、ぜひコラボモデルとして販売したいと言われたんだ」。かくして誕生した「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー “ジョン・メイヤー”」は、かつてない光を乱反射して煌めく「クリスタルスカイ」と名付けた新ダイヤルが与えられていた。一面に広がるランダムな形状の微細な突起、精密成型した金型によるスタンピング。その上からブルーPVDを施すことで、光に煌めくメタリックな質感を得ている。
そして、この「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー “ジョン・メイヤー”」をもって、薄型自動巻きの傑作Cal.2120をベースとしたCal.5134の生産を終了するともアナウンスされた。これが何を意味するのか? 来年オーデマ ピゲは、創業150周年を迎える。そのアニバーサリーモデルの1つに、新たな永久カレンダー・ムーブメント搭載モデルが登場するのではと、期待に胸が膨らむ。
ミラノにできたオーデマ ピゲファンの新たな社交場
ところで、今年のAP ソーシャルクラブがミラノで開催されたのは、新しい「AP ハウス ミラノ」(住所:Via Bagutta 2 20121 Milano Tel.+39 02-7600-3115 10時30分~19時、日曜休)の完成披露を兼ねていたから。世界19都市で展開される「AP ハウス」は、オーデマ ピゲ ファンが集うサロン的な存在で、2017年にまずミラノに誕生した。コンセプトは「ブランドの創業者であるジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲがもしも21世紀の現在を生きていたら、顧客とどう関わるだろうかと想像し、第二の我が家のような存在の家の居心地の良さと人々の絆を最も大切にした空間」である。それが1939年にミラノ初の複数階式駐車場として建てられた、旧ガレージ・トラヴェルシ内に移転したのだ。そのインテリアを、イタリア建築界の巨匠ピエロ・リッソーニが率いる「リッソーニ&パートナーズ」が手掛けた。歴史的建造物の3フロアを、リッソーニはヒゲゼンマイに似た螺旋階段でつないだ。そして内装の随所に、八角形やタペストリーといったオーデマ ピゲを象徴するディテールを取り込んだ。木やガラス、金属といった多彩な素材使いは、リッソーニの真骨頂。各フロアのテラスからは、ミラノを代表する建造物ドォーモが望めるというロケーションも魅力である。イタリア・ミラノに、オーデマ ピゲ ファンの新たな社交場が、誕生した。
問い合わせ先:オーデマ ピゲ ジャパン TEL.03-6830-0000 https://www.audemarspiguet.com/ja
Text & Photo/Norio Takagi
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