時計界の雲上ブランドには、これぞといったドレス系デザインの“ザ・シンプルウオッチ”がラインナップされている。それらは栄光の歴史や技術の高さを物語るシンボリックな存在であり続けている。
本記事では、東西ドイツの再統合を経て、再びドイツ時計産業の聖地へと返り咲いたザクセン州グラスヒュッテの名門、「A.ランゲ&ゾーネ(A.LANGE & SÖHNE)」のシンプルモデルの魅力について解説する。
ドイツ時計らしい素朴さとバランス調整の妙技
高級ドイツ時計の聖地として知られるザクセン州グラスヒュッテ。東西ドイツの再統合とともに復権を遂げ、現在では高級腕時計の一大生産地となっているが、その先鞭をつけたのがA.ランゲ&ゾーネだった。ダイアルに掲げられた「I/SA」の文字は、強王アウグストの統治下で数学・物理学や手工業が発展していったザクセン州で作られたことを示す原産地証明である。しかし古来から、“伝統的なドイツ時計”とはムーブメントそのものを指し、ケースやダイアルなどの外装に重きが置かれることはなかった。スイス的な観点で、ドイツ時計らしさとは何かを追求していった解答が、やや素朴な印象のシリンダーケースだったのだ。
円柱状のミドルケースを持つこの基本デザインは、サイズや厚みを変えてもプロポーションが大きく変化しないという特徴を持つものの、その分、個性を盛り込むのが難しい。A.ランゲ&ゾーネが試みた手法は、ミドルケースの側面にサテン仕上げを施し、ケースに抑揚をつけるというものだった。さらにラグを分割してロウ付け(溶接)することで、ラグの付け根にステップを設けた。ほんのわずかなディテールの変化だが、これが程よく効く。基本的なデザインがシンプルであればあるほど、こうしたバランスの変化に敏感なのだ。
ジャーマンシルバー製の3/4プレートやシャトン留めの受け石など、ドイツ高級時計らしい伝統的な作法に則った超薄型ムーブメント「キャリバーL093.1」。エングレーブが施されたバランスブリッジ上に、スワンネック式の緩急微調整装置を備える。
A.ランゲ&ゾーネのラインナップで、最もベーシックなモデルが「サクソニア」。中でも2016年に追加された薄型の「サクソニア・フラッハ」は、2針時計というシンプルなデザインながら、37㎜のケース径と厚さのバランス、時分針とバーインデックスの長さなどのバランスが見事な調和を果たしたベストバランス機だ。しっとりとしたオパーリンダイアルと細身のバーインデックスに対し、時分針だけが重厚な個性を主張してくる点も、いかにもドイツ時計らしい。とくに針の付け根にあたる“袴”の部分はどっしりとしたボリューム感を持ち、また丹念な面取りが加えられている。分針はバーインデックスの外端に、短針は同じく内端にぴったりと揃えられており、インデックス1本分の長さがちょうど時分針の長さの差となっているという事実も、実に巧妙な仕掛けだ。
時分表示にのみ特化した2針のシンプルウオッチ。フラッハとはドイツ語で“薄型”を意味する。やや長めにアレンジされたバーインデックスと、重厚な立体感を備えた時分針とのコントラストが美しい。溶接されたラグの切り欠き部分から繋がるひと筋の面取りが、表情に彩りを加えている。ダイアルはしっとりとしたシルバーカラーに仕上げられている。
問い合わせ先:A.ランゲ&ゾーネ TEL.03-4461-8080 https://www.alange-soehne.com/ja/
- TAG