連載【時計パーツの源流を知る日本の旅】は、時計を構成しているパーツの製造元を取材し、驚きの発見をお届けする。第1話「夜光の秘密――夜光塗料は液状ではない!?」(https://watchnavi.getnavi.jp/serialization/41229)、第2話「夢の夜光誕生――放射性物質ゼロを目指して」(https://watchnavi.getnavi.jp/serialization/41619)に続く第3話も、夜光塗料の世界シェアNo.1メーカーである根本特殊化学を特集。腕時計の文字盤への夜光塗付の工程のほか、夜光を異なる分野へ転用している実績について迫る。
夜光を塗り付ける作業は、まさに職人芸そのものだった!!
第1話と第2話で解説した夜光塗料の製造方法などを経て、「N夜光」や「ルミノーバ」は完成する。ここで驚くべきは、根本特殊化学では各時計メーカーから送られてきた文字盤やインデックス、針などへの塗付も行っていること。その理由は、夜光塗料を正しく扱うには高度な専門技術を要するためで、根本特殊化学には塗付作業を行える熟練の職人が揃っているのだ。しかも手作業というのも驚きで、時計メーカー側では製造が難しいというのも納得できる。
プリントタイプのインデックスの場合は、スクリーン印刷機を応用して文字盤に直接塗付する場合もあるが、高級時計に使われているアプライドインデックスと針はすべて、工場内のクリーンルームで職人が専用道具や特殊な顕微鏡装置を用いて塗付している。
そして日本やスイスなど各国で製造されている多くの本格時計の夜光を、根本特殊化学が請け負っているというから驚きを通り越して感動さえ覚える。何より時計の文字盤は“顔”とも呼ばれるほど審美を求められるパーツのため、夜光のはみ出しやムラは無論許されないし、塗り付けは極めてテクニカルな作業だ。
時・分・秒針は中央軸にmmの数分の一の単位で上下に重なっており、一番下層の時針はインデックスの上をかすめるように回転している。だから夜光が必要以上に盛り上がることは許されないわけで、作業は時計メーカーが定めたマニュアルに沿ってマイクロスコープなどを駆使し、ミクロン単位で調整して厚さや範囲が規定内かを厳重に検査している。そして合格したパーツのみが各社へと出荷される。
時計パーツ以外への「N夜光」「ルミノーバ」の転用
また、時計以外のジャンルでも根本特殊化学の夜光技術は生かされており、人々の生活を支えていることにも触れておこう。蓄光性夜光は放射性物質を一切含まない安全な夜光塗料であるとともに、電気や電池を使わないエコな性質も持っている。そこで「緊急」「避難」「防災」の用途でも有効活用されている。
緊急避難口への安全な誘導のため、階段や壁にある標識や目印には夜光が塗付されている。またアメリカでは自動車のトランクルームに子供が閉じ込められる事故が多発したことから、非常用レバーの設置が義務付けられており、そのレバーを真っ暗な荷物室内でも発見できるように夜光が施されている。そのほかにもビルや映画館でよく見かける非常口への誘導板や広告ディスプレイ、消防用のホース、工事用チェーンなどにも利用されている。根本特殊化学の夜光塗料は、時計界はもちろんのこと社会にも貢献しているのがよくわかる。
「小さな腕時計の文字盤から大きなディスプレイ用品まで、環境保護の観点からも『N夜光』『ルミノーバ』の応用範囲はさらなる広がりを見せています」(須田さん)
「さまざまな色に発光するカラー夜光や立体形状パーツへの塗付など、『ルミノーバ』の技術は年々進化を続けています」(門澤さん)
と、根本特殊化学の夜光技術の特性や進化を熱弁してくれたお二人。腕時計に欠かせぬ蓄光機能の発展には、日本人として誇らしい根本特殊化学の企業努力があったのだ。今後もルミノーバ同様、時代をリードする光り輝く存在であってほしいものである。
※「N夜光」と「ルミノーバ」は根本特殊化学の登録商標。
文/外山明秀(トイズハウス) 撮影/我妻慶一
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