時計製作が学べる「ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」の卒業制作展 学生たちの個性的な時計が一堂に集結

WATCHNAVI本誌では、モノづくりを学べる専門学校『ヒコ・みづのジュエリーカレッジ』の時計コースに所属する学生たちが、1年間でオリジナル時計の製作に挑む連載を行っている。この連載で取材した2024年度入学の学生たちの作品を確かめるべく、卒業制作展へ足を運んだ。会場はヒコ・みづのジュエリーカレッジの青山校舎。時計以外にもジュエリー、自転車、シューズやバッグなど、各コースの学生の作品が展示されていた。普段はカジュアルな服装の学生たちも、この日ばかりはスーツに身を包み、会場は多くの来場者で賑わっていた。

❶2針のドレスウオッチ(佐藤さん)

時計が完成しましたね、ケースと文字盤の素材を教えてください

「まずは完成できてほっとしています。精度も問題なく調整できました。ケース素材はステンレススチールで、文字盤はシンプルなシルバーの銀製です。この文字盤に手作業で彫金を施しています。約8時間かけて、この表情を出しています。文字盤は均一に光らせるのが難しく、マットな質感を出すのに苦労しました。叩くだけでは光沢が強くなりすぎるため、サンドブラスト加工を施して光沢を抑えています。打ち込んだ深い部分にはサンドブラストが届かないため、マットな部分と光沢のある部分でコントラストが生まれています。ちなみにリューズのカボションは、サファイアです。彫金を学ぶために彫金教室に通っていたので、石の留め方などの技術も活かされています」

時針のデザインが個性的ですね

「初めは穴は空いていなかったのですが、磨く工程で中心部分が薄くなり、その結果穴が空いてしまいました。そこで穴をデザインとして取り入れ、中央部分を鏡面仕上げ、上部をヘアライン仕上げにすることでメリハリを出しました。時針は3つのパーツから構成されており、別々に製作した後、金属用接着剤で接着しています」

インデックスやストラップなども自作ですか?

「どちらも業者に依頼しました。インデックスは届いた時点で変形していたため、一つずつヤスリで修正しました。表面は黒の塗料で1つずつ塗り、少し丸みを帯びた形状にしています。ストラップは表側がカーフスキンで、裏側がクロコダイルを使用しています」

オメガの30mmキャリバーにオリジナルの地板を装着。手作業で磨き上げた美しいムーブメントを鑑賞できるシースルーバック仕様

ムーブメントの特徴を教えてください

歯車と脱進機はオメガの30mmキャリバーのジャンクを使い、調整と仕上げを行い使用しました。地板とブリッジは私のオリジナルのデザインと設計です。真鍮素材から削り出し手作業で仕上げを施しています。テンプはフリースプラングにしています。慣性モーメントの調整、ミーンタイムスクリューの取り付け、ヒゲゼンマイの調整を行い精度を10秒以内に収めました」

今後の展望を教えてください?

「4月から一度、以前勤めていた会社に戻り、修理の仕事をしながら時計製作の準備を進めていきます。CNCを導入するなど、製作環境を整えながら続けていきたいですね。まずは、同じモデルをもう一本製作したいです。次は秒針付きの時計を作り、いずれはクロノグラフにも挑戦したいと考えています」

 

❷天文時計(宇津原さん)

時計の現状を教えてください

「さっきまでは動いていたのですが、歯車が外れてしまったようで現在は動いていない状況です。針は動いていませんが、テンワは回っていました。少しズレが生じていたのかもしれません」

左下のリューズは時分針を動かすものですか?

「3時位置のリューズは段引きで1段目は本来月針の早送り、2段目は時分針を予定していました。8時位置のリューズは回転方向によって動く針が異なります。時計回りではドラゴン針、反時計回りでは月齢針の予定でしたが、月齢機構は実装できていません。なお、早送り機構は歯車の噛み合わせの問題で、うまく機能していない状況です」

左が1年目の作品、右が2年目に製作した改良版の天文時計。ケースの小型化やスリム化を実現している

昨年の時計から変更した点を教えてください

「全体的に少し小さく、薄くデザインしました。ラグも少し細くしています。6時位置にはムーンフェイズを搭載する予定でしたが完成していないため、現在は歯車が見えている状態ですが、オープンワークダイアルとしてこれで良いかなと思っています。新たに8時位置にリューズを追加し、歯車と輪列を見直しました。大きな変更点としては、日食と月食の時期を示すドラゴン針を追加したことです」

それぞれの針の役割を教えてください

「後ろ側に中心に穴が空いている円板がついている針がドラゴン針、周りがギザギザした円板がついている針が太陽針、三日月がついている針が月針です。現在それぞれの針は3時、7時、4時を指しています。太陽と月とドラゴン針の位置関係で日食と月食が分かります。満月の時に太陽と月の針が重なり、ドラゴン針も揃うと日食、新月の時に太陽と月の針が反対方向になりドラゴン針が揃うと月食です」

今後、新しい時計の製作予定はありますか?

「今後は、均時差時計を製作予定です。工夫して製作したいと思っています。完成したらインスタグラムに投稿するかもしれません。自宅にCNCと歯切板もあるので、あとは大きい旋盤を購入して自宅で時計製作ができる環境を整えていきたいです」

 

❸オルガン時計(板垣さん)

なぜパイプオルガン時計を作ろうと思ったのですか?

「元々からくり時計やオルゴールが好きで、それをさらに発展させたいと思ったのがきっかけです。時報で生演奏をする機械式のパイプオルガンが、時計の中に組み込まれているというロマンに惹かれて製作しました」

パイプオルガンの機構をどのように時計に組み込んだのですか?

「時計内部にオルガンのふいごとパイプを配置し、ふいごで空気を送ることでパイプから音を出す仕組みです。オルガンも時計もゼンマイ仕掛けです。ただ、ふいごを動かすには大きなトルクが必要なので、限られたスペースの中に組み込む錘のサイズと重さのバランスが重要でした。パーツを作りながら調整を繰り返していきました」

一番苦労した点は?

「やはりふいごの調整ですね。必要なトルクを確保しつつ、小型化するにはどうすれば良いか、試行錯誤の連続でした。錘のサイズ、ふいごの大きさ、空気の流れなど、全てが複雑に絡み合っているので、調整には大変苦労しました」

時計の下側に見えるふいごから上部のパイプに空気を送り込み音を奏でる

時計ケースの素材にもこだわりがあるそうですね

「ケースにはウォールナットという硬い木材を使用しています。楽器にも使われる素材で、音の反響にも優れています。ケースの両サイドは布張りになっており、正面の三角形とF字ホール、上の蓋も開けられるので、音が抜けるように設計しています」

ケースの製作はご自身で製作されたのですか?

「ケースは静岡の職人さんに作っていただきました。ケースが届くまで不安だったのですが、特に内部のクリアランスは3mm〜5mmという非常に精密な仕上がりでした。設計通りに仕上げていただいたので、大変満足しています」

今後の展開について教えてください

「4月から就職しますが、製作活動は今後も続けていきたいと思っています。さらに音楽の幅や表現を豊かにしたり、オルガン動力を錘式からゼンマイ式にするなど、改良を進めていく予定です。このオルガン時計は私にとって0が1になった、大きな一歩です。今回得た経験を活かして、さらにデザインやパーツにこだわった2作目、3作目を作っていきたいです」

 

巻き上げ効率が高く、ベゼルを5回転ほどで完全に巻き上がる

❹腕時計型機械式メトロノーム(岡田さん)

1月の取材時には2本目を製作中だったと思いますが、完成しましたか?

「2本目も完成しました。ちなみに、今朝5時に完成したばかりです。睡眠時間を削ってようやく仕上げることができました。もともと量産を視野に入れて設計していたので、作業に慣れれば、1ヶ月ほどで同じ時計を作ることができると思います」

2本目の時計で変更した点はありますか?

「ムーブメントにはシャフトが2本取り付けられていますが、1本目では左側のみに金色のスリーブを取り付け、右側には取り付けませんでした。左側は精度を極限まで高め、右側には若干の余裕を持たせる設計にしたため、スライドはスムーズに動作していたので問題はありませんでした。新しく製作した2本目では、左右のシャフトどちらにもスリーブを取り付けました。その分、精度がシビアになりましたが、ガタつきは全くありません。さらに、振動でキャリッジ自体が動くこともなくなりました。1本目では時間がなくてできなかったのですが、2本目を作るにあたって挑戦し、精度向上と耐衝撃性の向上を実現しました」

ムーブメントのサンプルも展示されていた。組み合わせると実際に動く高い精度で仕上げられている

完成した時計をミュージシャンの方に実際に使用してもらうなどの実践的なテストは行いましたか?

「先日、ドラマーのケンドリック・スコットさんから『君の時計をインスタで見て、すごく気になる』と言っていただき、ブルーノート東京へ招待してもらいました。実際に時計を見せたところ、とても良い評価をいただきました。少しずつプロのミュージシャンの方々ともコンタクトが取れるようになってきたので、今後は実際にミュージシャンの方々に時計を着けて演奏してもらうことにも挑戦したいです」

今後、腕時計型メトロノームのバリエーション違いも検討していますか?

「次のモデルは、時刻表示機能を取り入れたものを設計中で、2026年の初めに販売をスタートできたらと考えています。もちろん、メトロノーム以外にもやりたいことはたくさんあるので、随時製作していきたいですね」

 

卒業制作展の時計ブースは多くの来場者で賑わっていた

今年度の学生たちの作品は4つとも完成度が高く、そのクオリティに驚く来場者の反応が印象的だった。学生たちの表情からは、達成感や完成した作品に対する自信が伺えた。この1年間で学んだことは、今後の時計製作に必ず活かされるはずだ。4名とも卒業後の進路や目標が決まっている。それぞれの今後の活躍が楽しみだ。

 

Text・Photo/平野翔太(WN編集部)

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