フランスから編集部に売り込みのあった新興ブランドSEMPER & ADHUCで腕時計ビジネスを考える

腕時計専門メディアであるWATCHNAVIの編集部には、たまに海外ブランドから直接売り込みの連絡が入ることがある。今回取り上げるSEMPER & ADHUCも、そうしたブランドのひとつ。送られてきたプレスリリースを見ると、かなり興味深いコンセプトを持っており、今後の時計市場に増えそうな予感がしたので、トレンド先読みとしてご紹介しよう。

 

ヴィンテージムーブメントをアップサイクルするフランスの新興ブランド

ラテン語で「常に」を意味するSEMPERと、「いまなお、ここまで」を意味するADHUCの組み合わせをブランド名に採用

創業したのは、コリン・ド・トナック(Colin de Tonnac)さん。2018年に大手クラウドファンディングサービス「キックスターター」での資金調達に成功し、2019年からブランドとして本格始動したという。まさに新興ブランドである。

彼の経歴がまずユニークで、5年にわたり時計についての知識を学んだのち、ジュネーブの名門パテック フィリップで品質管理や時計の開発などを担当。その後、すぐに自身のブランド「センペル&アドフーク(SEMPER & ADHUC)」のプロジェクトを立ち上げたのだ。そのため、キックスターターで支援者を募っていた2018年の時点で、彼の年齢は30歳とまだ若い。

そんな彼の立ち上げたブランドのコンセプトは、1930年代〜70年代にかけてスイスで製造されたヴィンテージムーブメント(いまのところAS1012のみの模様)を自身がレストアし、新しくデザインしたケースに搭載していくというもの。ムーブメントこそスイス製だが、アトリエはコリンさんの出身地でもあるボルドーにあり、サプライヤーもフランス南部の各地から調達するこだわりよう。もちろんレザーストラップもフランス製である。

センペル&アドフークが使うヴィンテージムーブメント

 

ケースは丸型、楕円型、クッション型の3タイプあり、それぞれ文字盤に1〜12までの数字が記された「クラシック」と、個性的にデザインされた「オリジナル」(時間はちょっと読みにくい?)の2種類が揃う。私たちは基本的にこの6型からチョイスできるのだが、公式サイトを見るとリューズの向きを右と左で選べる項目が。その下には、ブレスレットの長さと追加ストラップの選択肢(プラス100ユーロ)、文字のエングレービング(プラス40ユーロ)も最初のオーダー段階で選ぶことができる。

手巻きCal.AS1012を搭載した3型の「オリジナル」デザイン。すべて縦幅は37mmで統一されている

 

新興ブランドのセンペル&アドフークに勝機はあるか!?

日本にはすでに多くのカスタムオーダーウオッチがあり、そのどれもが10万円を切る価格設定。対して、センペル&アドフークは時分針のみの時計で1250ユーロ(約15万円)という価格。国内参入は正直なところあまり分がよくないだろう。

とはいえ、トップブランドでキャリアを積んだ時計師が1本1本手作りで組み上げる、年産150本限定のフランス時計というキャラクターと、販売のメインをウェブショップにして世界中に向けて時計を販売するならば、ブランドとして成立させることはできるだろう。彼らが使うようなヴィンテージムーブメントの数は有限ではあるものの決して少なくはないし、仕入れ値も安く済むに違いない。外装はフランスにある複数のサプライヤーを使っているが、ほとんど受注生産の少ロットのため各所への支払いは割高になっているかもしれない。そのほか化粧箱その他の付属品のコストと、創業者であるコリンさんの人件費を合算したものが時計の下代と考えられる。

創業者のコリン・ド・トナックさん

 

販売価格に対する思いは人それぞれだろうが、ひとつ言えるのはコリンさんがクラウドファンディングの資金調達を達成したという事実。一定の支持者は世界中にいるのである。だが、より低価格で様々な選択肢がある日本市場でセンペル&アドフークがどこまで存在感を示せるのか。それが、今後のブランドの発展の鍵にもなるに違いない。

ともあれ、SNSで著名人と一般人がダイレクトに繋がることも可能ないま、こうした有能な時計職人と個人ユーザーが直接やりとりを行い、自分だけの一本を作ってもらうような事例は今後さらに増えるだろう。ビスポークウオッチは時計愛好家の憧れだが、これからはどのブランドの時計を買うか、ではなく誰が作った時計を買うか、というのも時計選びの選択肢に加わってきそうだ。

センペル&アドフーク https://semperadhuc.fr

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