4月25日に初のデジタルプラットフォームで開催された、新しい高級時計の新作見本市「WATCHES & WONDERS」。このイベントの筆頭メゾンであるカルティエも、ここで注目のタイムピースを発表した。昨年に6年駆動のロングライフクオーツで話題を呼んだ「サントス デュモン」が、今年は手巻きCal.430 MC搭載の限定機種として登場。これら本数限定モデルは、早くも5月7日からカルティエの公式サイトで先行発売される点でも注目に値する。
冒険家サントス=デュモンへのオマージュウオッチ
各種デジタル製品やクルマ、カメラなどと同じく、腕時計にも世界的な新作の見本市が毎年開催されていた。最も有名なイベントは2つあり、どちらも時計大国スイスで行われる。ひとつはジュネーブで開かれるSalon de International Haute Horlogerie in GENEVE(通称ジュネーブサロン)、もうひとつは100年以上の歴史あるBASEL WORLDだ。ちなみに前者は2020年からWATCHES & WONDERSと名称を変えて開催される予定だった。“予定だった”というのは、もちろんCOVID-19の影響によってメッセでの開催が見送られたから。代わりに同イベントは史上初のデジタルプラットフォームで行われ、その初日となる4月25日には、30の出展ブランドうち18ブランドが新作を発表。世界の時計業界ウオッチャーがこぞってSNSにお気に入りタイムピースを投稿するなか、筆者のリサーチした限り最も注目されていたのがカルティエの新作群だった。
多種多彩な新作が出揃うなかでも興味を惹かれたのは、本稿で取り上げる「サントス デュモン」である。このシリーズは、20世紀初頭に世界初の紳士用腕時計の製作をカルティエに依頼した冒険家アルベルト・サントス=デュモンの先進性にインスピレーションを得て昨年に登場。スリムデザインに搭載された、長寿命クォーツも大きな話題となった。そして、今年は早くも手巻きムーブメントを搭載したタイムピースが限定で発表されたのである。
5月7日から同社のオンライン ブティックで先行発売される「サントス デュモン」リミテッド エディション。これら3本は、すべてに飛行家サントス=デュモンがかつて設計した航空機に関連づけられている。
プラチナ製ケースにルビーのカボションを持つ「ル ブレジル」は、設計者曰く「最も小さく」「最も美しい」という、1898年7月4日に発表された飛行船。ケースバックに刻まれているのが、そのデッサンである。
18KイエローゴールドのケースにCal.430 MCムーブメントを搭載した「ラ バラドゥーズ」のケースバックには、膨らんだフォルムが特徴的な同名の1人乗り小型飛行船の線画を刻印。その、1903年にフランスの首都の上空を横断した実験用のモーター式飛行船からは、「いつか空飛ぶバスが旅行者やビジネスマンを運ぶ日が来るだろう」と予感したサントス=デュモンの優れた先見の明が伝わってくる。
最後に取り上げる「N°14 ビス」は、18Kイエローゴールドとスティール製のコンビネーションケースが特徴的。ケースバックに刻まれる同名の機体は、胴体の中に立つパイロットが舵と補助翼にケーブルで繋がれる構造から、しばしば“コンパートメント付きカイト”とも描写されたという。ちなみに、1906年10月23日にはアークディーコン カップで優勝、同年11月12日にはフランス飛行クラブ賞を受賞したこの名機により、サントス=デュモンは220mの飛行を公式に認定された最初の飛行士となったのである。
ここ数年で世界的にラグジュアリー業界のオンライン販売チャネルが増え続けている。だが、日本の時計市場においては歴史ある優良店舗が全国各地にあり、ユーザーの傾向も高額品ゆえ実物をじっくり吟味してから購入を決める人々が大多数のため、一般的な購入の選択肢になるには時間がかかると予測されていた。そうした日本ならではの商習慣も、世界3大ラグジュアリーグループであるリシュモン(残る2つはLVMHとケリング)の筆頭メゾンが「サントス デュモン」の販売方針で見せた、ウオッチのオンライン販売の積極化によって風向きが変わりそうだ。
しかも今年は、折からのCOVID-19の影響に伴う政府からの外出自粛要請により、路面店は短縮営業や休業を余儀なくされている状況である。今年は、日本でもラグジュアリー品のオンライン販売数がいよいよ増加していくことになりそうだ。
カルティエ 公式サイト https://www.cartier.jp/
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