スイスの機械式時計ブランド【オリス】が新開発した自社ムーブメントの実力はいかに!? 「キャリバー400」の気になる核心部に迫る

近年、目覚ましい進化で時計界を席巻している「オリス(ORIS)」は、昨年新しい自社ムーブメントとして「キャリバー400」を発表した。この注目の自動巻きムーブメントについては、まだまだ詳細が明かされていない部分が多い。そこでWATCHNAVI Salonでは、同ムーブメントの“カギ”といえる自動巻き上げの機構に迫るべく、ローターを取り外すところまでの独占取材に成功。謎めいた「スライドベアリング」について検証する。

「キャリバー400」の高性能化の“カギ”
新しいローターシステムの秘密に迫る

今回は、オリスサービスセンター(共栄産業内)の協力のもと、新自社ムーブメント「キャリバー400」とオリスのスタンダードな3針モデルに搭載されている「キャリバー733(セリタ社製キャリバーSW200-1ベース)」を比較。どういった点が異なるのかをクローズアップしてみた。

左が新開発のオリス製「キャリバー400」で、右がセリタ社製をベースとする「キャリバー733」。外観もサイズも大きく異なる。

 

まず、見た目が大きく異なることを感じ取っていただきたい。「キャリバー733」はETA2824-2キャリバーの改良版クローンムーブメントのため、伝統的な設計を踏襲している。テンプの調整装置はエタクロンで、回転錘は長年にわたってオリスのクオリティの高さを証明するディテールであるオリジナルのレッドローターを採用している。

一方の最新自社ムーブメント「キャリバー400」は回転錘にレッドローターを用いず、全体的にサンドブラストやヘアラインの仕上げを多用することで洗練された印象の外観となっている。新時代のベンチマークたる先進ムーブメントとして、オリスが威信をかけて開発したという強い意気込みが伝わるのではないだろうか。

両機の基本スペックは以下の通り。

「キャリバー400」(オリス自社製/2020年登場)

「キャリバー733」(セリタ社製キャリバーSW200-1ベース)

<機構>自動巻き
<振動数>毎時2万8800振動
<パワーリザーブ>120時間
<石数>21石
<サイズ>直径30.0mm
<日差精度>-3~+5秒
<香箱>ツインバレル
<巻き上げ方式>片方向巻き上げ
<機能>センター時分針、日付表示、クイック日付設定、日付修正、ファインタイムチューニング、ストップセコンド針、高耐磁性
<機構>自動巻き
<振動数>毎時2万8800振動
<パワーリザーブ>38時間
<石数>26石
<サイズ>直径25.6mm
<日差精度>-5~+20秒
<香箱>シングルバレル
<巻き上げ方式>両方向巻き上げ
<機能>センター時分針、日付表示、クイック日付設定、日付修正、ファインタイムチューニング、ストップセコンド針

 

「キャリバー400」のローターを外してみると…新たな発見が!!

「キャリバー400」のローターを取り外した姿

ローターを外すと、その回転によって発生した動力を変換して輪列へと伝達する自動巻き上げの機構が見えるのが一般的だが、「キャリバー400」はこれがほとんど見えない。見える部分といえば、向かって右側の香箱上に切り替え車らしき歯車をわずかに確認できる。香箱用ルビーに挟まれた小さなルビーがこの歯車を留めているのだろう。歯車類をあまり露出せずに関係パーツごとに受けを別体化することで、保守性を高める狙いが見受けられる。

 

「キャリバー733」のローターを取り外した姿

「キャリバー773」の方はというと、ローターを外すとまず両方向巻き上げ用の切り替え車2枚があり、巻き上げ車や角穴車(香箱真を回転させて、香箱内のゼンマイを巻き上げる歯車)など、自動巻き上げに関連するパーツが多く見える。これらにはどうしても強い負荷がかかるため、故障や摩耗による交換が時折必要になる。その点で「キャリバー400」はシンプルかつ合理的な設計にすることで、アクシデントを低減させる工夫が施されているという。

 

ローターの裏側に新しい仕掛け「スライドベアリング」の設置

「キャリバー400」のローターの表側

ローターは中抜き加工して外側を重くし、効率よく回転するようにした設計になっている。中央のローター軸の部分にセットする留めパーツは、一般的なビスではなくクリップのような形状になっている。これは衝撃を緩和するショックアブソーバーのような役割も担っているのだろうか?

「キャリバー400」のローターの裏側

ショッキングだったのが裏側で、2枚の歯車がローターに直に備え付けられていることが確認できた。こちらはかしめられた一体型のパーツなのか、外したら元に戻らなくなる可能性があるため分解は控えることに。その構造はというと、中央の歯車の衛星的に付いている歯車が、わずかに見えていた切り替え用の歯車(下写真の矢印)と噛み合い、ここに固定。中央の歯車はローター軸に設置されており、ローターが回ることによって回転し、衛星的な歯車に動力を伝達。それが巻き上げの機構へと順に伝わる構造になっている。この一連が「スライドベアリング」のメカニズムである。

矢印の位置が切り替え車と思われる歯車。ここに伝わった動力が巻き上げ車でギア比を変更し、ツインバレル内のゼンマイを巻いて5日間ものパワーリザーブを確保する原動力となっている。

 

「キャリバー733」のローターの表側

「キャリバー733」は、オリスのトレードマークといえるレッドローターを搭載。これは2002年頃からスタートしたオリジナルデザインで、“手の届く金額で現実的な機能を備える高品質な機械式時計”というオリスの哲学を表している。ローター軸への固定は一般的なビス留め式。

「キャリバー733」のローターの裏側

裏側もセリタ社やETA社のムーブメントが採っている一般的な構造で、ローター軸に接するパーツに「ボールベアリング」が使われている。写真でも確認できるように5つの球体が内蔵されており、ローターの回転によって発生した動力を歯車側に伝え、切り替え車を介しててゼンマイを巻き上げる機構へと伝達される。

 

「スライドベアリング」の構造は把握できたがまだ謎も多く、追加検証が必要

今回の「キャリバー400」のローター周辺部の分解によって、実際に目視で「スライドベアリング」の仕組みは把握できた。しかしながら、まだまだ不明な点が多いのも事実。例えば、「スライドベアリング」の設計上の理由なのか両方向巻き上げではなく片方向巻き上げが採用されていること。巻き上げの効率を優先すると、両方向の方がメリットを得られそうな気もする。それとも、摩耗による消耗を考慮して控えたのか? ほかにも解明したいことが多くあるため、今後スイス本社への問いかけを含め改めてレポートしたいと思う。

 

オリス自社製「キャリバー400」を搭載する本格派ダイバーズウオッチ

オリス「アクイスデイト キャリバー400」Ref.400 7763 4135-07 8 24 09PEB 37万4000円/自動巻き(自社製Cal.400)、毎時2万8800振動、120時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)&ブレスレット。直径43.5mm。30気圧防水

 

オリスの新時代を告げる自社製ムーブメント「キャリバー400」が初めて投入された革新的モデル。本格的なダイビングに対応する30気圧防水ながらシースルーバックを採用しているため、同ムーブメントのメカニズムを鑑賞することができる。海を彷彿とさせるブルーグラデーションのダイアルとブルーのセラミックトップベゼルのほか、ケース&ブレスレットの丹念な仕上げ、両面ドームシェイプのサファイア風防の設置、強力な発光性のあるスーパールミノバBG W9の採用など、外装・デザイン面も抜かりない。オリジナルのストラップチェンジシステムを搭載。ラバーストラップ仕様(36万3000円)もリリース中。

<取材協力>

オリス銀座ブティック
Tel:03-6228-6866
住所:東京都中央区銀座4-3-14 和光オリスビル
営業:11:00~19:00
定休日:不定休

https://www.oris.ch/jp

※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、休業日や営業時間の変更、一時休業などを行っている可能性があります。

<分解協力>オリスサービスセンター(共栄産業内)

 

Text/WATCHNAVI編集部 Photo/KATSUNORI KISHIDA

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