人気急上昇中の腕時計ブランド「ブランパン」を指揮するCEOマーク A.ハイエック氏にカンヌで聞いたフィフティ ファゾムス70周年への想い

9月24日、筆者はフランス・カンヌにいた。目的は、スイスの高級時計ブランド【ブランパン】の定番ダイバーズウオッチ「フィフティ ファゾムス」の70周年イベントを見届けるためだ。そのイベントに付随して、CEOのマーク A.ハイエック氏に話を聞くことができた。世界中から関係者を呼ぶほどの大規模なイベントを行った意義やブランパン オーシャン コミットメントへの考えを尋ねた。

フィフティ ファゾムスの過去/現在/未来を表した三部作

–2023年はフィフティ ファゾムスの誕生70周年ということで、昨晩(インタビューはイベント翌日に実施)記念モデルの最後を飾るAct3を披露されました。1月のフィフティ ファゾムス70周年記念 Act1から始まる3部作にはどのような意図があったのでしょうか?

ブランパンは、「アール・ド・ヴィーヴル(=暮らしの芸術)」の活動にも取り組んでおり、ミシュランガイドなど食文化の関連団体ともつながりが深い。イベントでは、3つ星レストランL’Oustau de Baumanièreのシェフ/グレン・ビエル氏(左)、2つ星レストランのオーナーシェフ/クリストファー・クータンソー氏(右)がマーク A.ハイエック氏(中)と共にAct3のアンヴェールを行った。(C)BLANCPAIN

フィフティ ファゾムス70周年記念 Act1は20年前、私が着任したばかりのときにブランパンが発表したモデルにインスピレーションを受けたものです。実は、2003年に社長兼CEOになるまで私はフィフティ ファゾムスのことを知りませんでした。ブランドのアーカイブを調べてこれを見つけたときには、「ぜひ復活させなければ」と思いました。当時、世界の地域にちなんだシリーズ1/2/3という3本で展開したので、今年のAct1も同様の展開にしています。

–リリースを受け取った際にオンライン限定とありましたが、受付開始から瞬く間に完売しましたよね。それから間もなく2月にAct2を発表しました。WATCHNAVIもありがたいことに日本からは唯一、ランギロア島での発表を取材させていただきました。

Act2については、今後より多くのダイバーが求めると思われる機能を開発しました。ランギロア島で体験していただいたように、今は「リブリーザー(※)」を使えばゆうに1時間以上の潜水が可能になります。そうしたダイビングツールの進化を受け、「フィフティ ファゾムス70周年記念 Act2 テック ゴンベッサ」では3時間の潜水時間を測れるようにしたのです。一方でいまはまだリブリーザーが広く浸透していないこともあり、必要とする人は少ないだろうと思っていました。正直に言って「これほどは売れないだろう」と。

※リブリーザー=閉鎖式(または半閉鎖式)で呼吸を循環させる装置のこと。

カンヌではダイビングのアクティビティが行われ、マーク A.ハイエック氏も参加。赤いウェットスーツを着たリブリーザー装備の人物は水中写真家/海洋研究科のローラン・バレスタ氏。シーラカンスの生態を研究する「ゴンベッサ・プロジェクト」のリーダーである。(C)BLANCPAIN

–その予想に反して、「製造が追いついていない状況」だと以前ブティックで伺いました。特別なモデルですし、とても量産できるようなモデルではないから今からオーダーできても時間がかかりそうですね。そして今回のAct3ですが、これはなぜMIL-SPECをモデルにしたのでしょうか?

フィフティ ファゾムスの原点に近く、ヴィンテージの愛好家にとても人気もあるので70周年を記念するモデルとして相応しいと思いました。とはいえ、ただ単に復刻させたわけではありません。サイズはオリジナルに忠実な41.30mm径を採用していますが、素材にブロンズゴールドを用いています。これは同じグループにあるオメガと共通の技術ですが、ブランパンではより少し配合を変えてより温かみのある色味にしました。

「フィフティ ファゾムス70周年記念 Act 3」Ref.5901-5630-NANA 442万2000円 自動巻き(Cal.1154.P2)、毎時2万1600振動、約100時間パワーリザーブ。ブロンズゴールド(9K)ケース。直径41.3mm、厚さ13.3mm。ナイロンストラップ。世界限定555本。(C)BLANCPAIN

–入手困難という話で言えば、スウォッチとのコラボレーションもそうですね。あの時計も70周年に絡めて考えられていたのでしょうか?

はい。この機会にフィフティ ファゾムスと、その70年の歴史をより多くの人に知っていただきたかったのです。もちろん名前だけが一人歩きしないよう、デザインだけでなく仕様にもこだわりました。中でもブランパンの全製品に共通するように機械式であること、そしてダイバーズウオッチと認められるだけの性能を有することは必須条件でした。

–日本の銀座でもブティックのあるニコラス・G・ハイエックセンターから銀座四丁目交差点まで行列ができるほどの反響がありました。今回のカンヌでのイベントもそうですが、先ほど伺ったスピリットの話を考慮すると、あなたの真の目的はフィフティ ファゾムスを通じたブランパン オーシャンコミットメントや海の現状の認知拡大にあるように思えます。

ローンチイベント前日に行われたパネルディスカッションでは、活動に参加する識者によりブランパン オーシャンコミットメントの成果や海洋の現状などが語られた。(C)BLANCPAIN

今、世界中の海は危険な状況にあります。ブランパンはもちろん、すべての生物にとって海は不可欠な存在です。海はすべての命を司っているのです。息子に「レマン湖でダイビングしよう!」と誘われることがあるのですが、その湖さえもマイクロプラスチックで汚染されています。そのため、42cm以上のマスは食べてはいけないという規則もあるほど。マスの体内の微量汚染物質のレベルが高すぎるため、人間にとって危険であると考えられているのです。みなさんには、ぜひ解決策を待つのではなく、個人でできることから始めていただきたいと思っています。

–最後に、来年はブランパン オーシャンコミットメントの宣言から10年、さらにその翌年にはブランド創業290周年もあります。これから来るべき節目に向けてどのような展開をお考えですか?

来年以降ですか? まだ先の話ですね(笑)。

マーク A.ハイエック氏(左)と筆者

Text/Daisuke Suito(WATCHNAVI)

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