アイコニックな“ディンプル”デザインが悩みのタネに
――チタンでスクエアG-SHOCKの耐衝撃性能を保持することは難しくなかったのでしょうか?
泉さん:いまの角型フルメタルG-SHOCKの起源となったフルゴールドのG-SHOCKで培った技術が応用でき、さらに質量も軽くなるので、耐衝撃性能を得ることはさほど難しくなかったです。それよりも仕上げが大変だったとか。実は、2015年にバーゼルワールドで発表したフルゴールドのG-SHOCKを伊部さん(編集部注:1983年の初号機の開発者)とほぼ二人三脚で作り上げたのが彼女なんですけど、あれが出来上がって以降、フルメタルのスクエアG-SHOCKに関わる人たちは事あるごとに西村が作った複雑形状のメタルに悩まされているようで(笑)。
――最高級素材とG-SHOCKが融合した2016年発表のコンセプトウオッチは衝撃的でした。あのモデルのどこかに問題があったのでしょうか?
西村さん:あのときは「1本だけ」という話だったので、ケースとモジュールの間に入れる緩衝材を私が試行錯誤しながらピンセットで貼り付けたりしながら、ハンドメイドの一点物をなんとか完成させました。あのモデルの製作は、誰にもアドバイスを求められない超極秘プロジェクトで、しかも高級素材と対峙しながらピンひとつさえ無くせないプレッシャーも常に感じていたので、ほとんど辛かった記憶しかありません(苦笑)。にも関わらず、私がフルゴールドのスクエアG-SHOCKに取り入れたケースとブレスレットの“ディンプル”(=丸いくぼみ)が、その後の製品のデザインや製造工程でネックになっているんです。そこが議論になるたび、私の辛い記憶も蘇ってくるという……。
泉さん:彼女は1983年の初号機から続くデザインを“スペシャルな1本”に反映したわけですが、それを金属で作るとなると“くぼみを鏡面にするのか、別の仕上げを施すのか”など、多くの人を迷わすポイントになってしまったんです。
西村さん:「なんでブレスレットのコマにまでくぼみを入れたんだよ〜(泣)」と、周囲からよく言われます。「1本だけ」ということでデザインした当初のこだわりが、いまでは新作を作るたびに大ごとになってしまい……。実はチタンのモデルでも穴の仕上げをどうするか議論になりました。鏡面で磨くのもステンレススチールと勝手が違うので、結果、私も苦労しましたね。
――そんなに苦労を重ねて完成させたのに、期間限定の製造はもったいない気もします。
泉さん:これだけの手間が必要だから、製造期間を限定しないと出せないのです。ただ、せっかくチタンを使うことでステンレススチールと比べて57gも軽量化できたので、その「軽さ」をより多くの方々に実際に手にとっていただきたい。そうすれば、きっとG-SHOCKのアイデンティティである「進化」も感じてもらえることでしょう。
新たな素材を使うことで直面する様々な問題を乗り越え、晴れて完成したチタン製G-SHOCK。確かに高額ではあるものの、その価格の裏付けは十分に取れたと筆者は感じた。加えて、新たなデザインも同時に試すというプラスアルファのチャレンジ精神。こうした、ときにコストや生産性を度返ししてでも「進化」を止めない姿勢があるからこそ、私たちはいつまでもG-SHOCKに惹きつけられるのだろう。
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