〝最新こそ最良〟は、各種分野で度々議論される。時計もそのひとつだが、2019年はこの“方程式”にぴったりとあてはまる新作がいくつも見受けられた。本企画では、時計専門誌・ウオッチナビが絶えず高みを目指すブランドの姿勢に心動かされた、〝最新こそ最良〟と提言できる2019年ニューモデルについて、時計ジャーナリストに評価してもらう。初回は、時計を中心に様々な媒体に寄稿されているフリーライター・高木教雄さんが、シャネルの新「J12」の魅力に迫る。
「何も変えず、すべてを変え、アイコンを洗練させた」
写真を見て、いったいどれくらいの読者が、これが“新生”J12だと気付くだろうか? フルリニューアルがにわかに信じられないほど、外観は何も変わっていないように見える。
2000年に誕生したJ12は、シャネルの、そして時計界の、新たな時代を開いた。メゾン初の機械式時計であり、立体的なラウンドケースをセラミックで初めて実現したからだ。そんなハイテク素材による艶やかな黒は、当時強烈なインパクトを見る人に与えた。しかしその実、デザインの本質は、極めてオーセンティックだ。
逆回転防止ベゼル、リューズガード、アラビア数字、レイルウェイトラックなど、ダイバーズやパイロットウオッチといった、時計界が長く受け継いできたスポーツウオッチから要素を抽出。それらを洗練し、組み合わせた。結果、J12はスポーツウオッチのピュアな機能美を表すこととなる。
モダンデザインにおいて、機能美とは普遍と同義だ。変える必要のないメゾンのアイコンのフルリニューアルに、シャネルは4年もの歳月をかけたという。ディテールをひとつずつ取り出し、慎重に手直しして最適な組み合わせを模索。オリジナルが持つスポーツウオッチのピュアなスタイルは変えることなく、ディテールの70%以上をも変更した。リューズは3分の2に縮小。ベゼルもスリムにして、ダイアル開口部をわずかに広げた。時針も細く改められ、拡張したダイアルと相まって大きくなった余白により、気品は一層高まった。ブレスレットのリンクもひとつひとつが、薄く長く設え直され、よりエレガントになった。
さらに機械も刷新。シャネルは実力派のムーブメント会社、ケニッシに出資し、70時間駆動でCOSC(スイスクロノメーター検定協会)の認定も取得する、高性能な新型自動巻きキャリバー12.1を手に入れたのだ。トランスパレントに改められた裏蓋から見えるローターには、シャネルが得意とする幾何学的な美が与えられている。
何も変わっていないようで、外も中もすべてが新しい。新生J12は、機械式時計としての完成度を極めた。
髙木教雄
1962年生まれ。フリーライター。時計をメインに建築やインテリア、キッチンウェアなどライフスタイルプロダクトを取材対象とする。スイスでの新作時計発表会の取材は、1999年から取り組み、時計専門誌や一般誌で執筆。
問:シャネル(カスタマーケア) TEL.0120-525-519
https://www.chanel.com/ja_JP/
- TAG