W&W超速報!すべての探求者を鼓舞するユリス・ナルダン新作「UFO」「ダイバー X スケルトン」「ブラスト アワーストライカー」

いま最も面白い時計ブランドのひとつが、ユリス・ナルダンだ。その歴史を振り返れば、19世紀半ばより航海に不可欠な船舶用の置き時計「マリンクロノメーター」で名を馳せ、その性能の高さから45か国の海軍が装備品に採用。近年ではシリコン製パーツをいち早く取り入れ、次世代ウオッチメイキングの嚆矢になった。こうした一連の歴史のなかで共通しているのは、常にスイス時計製造の伝統をもって革新を続けてきたことにある。そして創業175周年を迎える2021年、WATCHES & WONDERS 2021で発表されたばかりの新作にもまた、斬新なデザインに数百年に及ぶ時計製造の歴史が息づいていた。

Text/Daisuke Suito(WN)

自らの歴史を育んだ“海”のさらなる深みへ挑む

スイスの時計産業のなかでもとりわけ有名なル・ロックルとラ・ショー・ド・フォンの街でリーダー的な存在となっているユリス・ナルダンは、マリンクロノメーターの開発でその地位を確立した。つまり、ブランドが最も本領を発揮できるフィールドこそ“海”なのだ。

最新作「ダイバー X スケルトン」は、2018年よりユリス・ナルダンが自社製品に取り入れてきた「X」コンセプトのデザインをさらに昇華したものとなっている。ベースとなっているのは「ダイバー X」と「スケルトン X」の2モデル。ちなみに、この2つを掛け合わせる“Experiment(=実験)”もまた「X」コンセプトの一環である。

ユリス・ナルダン「ダイバー X スケルトン」Ref.3723-170LE-3A-BLUE/3B ( オレンジラバー)Ref. 3723-170LE-3A-BLUE/3A ( ブルーラバー)各267万3000円 自動巻き。(UN-372 キャリバー)毎時 2万1600振動。96 時間パワーリザーブ。 ブルーPVD処理チタンケース+カーボニウム(R)ベゼル(シースルーバック)。直径44 mm。ラバー ストラップ。防水 200m。 限定 175 本生産。

ディテールに目を移せば、水深200mの水圧にも耐えられるよう設計された直径44mmのケースに複数の仕上げを組み合わせが見て取れる。素材にはブルーPVDを施したチタンケースに、独自素材「カーボニウム(R)」製ベゼルを採用。これは航空宇宙素材として開発されたもので、最新の航空機の胴体や翼に使われている繊維と同じだという。また、軽量であることはもちろん、耐久性、堅牢性にも優れ、さらにアップサイクル素材のため他のカーボンよりも環境負荷が低いという特徴もある。これもまたユリス・ナルダンの革新性の一部と言えるだろう。

その外装に守られるムーブメントは、伝統的な機械式時計のメカニズムを発展させた自社製キャリバーUN-372。見てわかる通り「X」ブリッジに全パーツが支えられたダイナミックなスケルトンデザインは、6時側にシリシウム脱進機を、12時側にはベゼルと同じブルーのカーボニウム(R)を使ったカバーを持つ香箱を備える。以前のスケルトンムーブメントとの大きな違いは裏にもあり、本機では自動巻き上げ用のローター形状まで「X」に改められた。

繊細な機構に潜水時計のスペックを持たせた「ダイバー X スケルトン」は、堅牢性第一主義の無骨なデザインとは一線を画した、新感覚のダイバーズである。世界限定175本と希少だが、もし手にすることができたら表情豊かな堅牢スケルトンウオッチの魅力をじっくり鑑賞したいものだ。

地平線上に漂う未確認浮遊物体が誘う未知への旅

私たちの前に現れては消え、消えては現れるを繰り返す飛行物体は、いつの時代も好奇心旺盛な私たちの心を捉えて離さない。その存在の真偽から長年にわたり議論が繰り広げられている未確認浮遊物体「UFO」を、ユリス・ナルダンが開発してしまった。

ユリス・ナルダン「UFO」Ref.9023-900LE-3A-BLUE 497万2000円 手巻き(キャリバー UN-902)毎時3600振動。約1年間パワーリザーブ。アルミニウム & 吹きガラスケース。高さ264×直径 159mm。世界限定 75 個。

この置き時計は、19世紀からはじまるマリンクロノメーターの歴史から最新コレクションの「ブラスト」までの歴史を収斂させた、創業175周年の節目を祝うに相応しい限定75台の芸術作品だ。ひと際目を引くガラス製の外装は、スイスのヌーシャテル湖畔にある吹きガラス工房「Verre et Quartz」の26歳の職人ロマン・モンテロ氏によってひとつ一つ手作りされている。

ひとつを作るのにほぼ半日を要するという厚さ3mmのガラスカバーに覆われたムーブメントは、高度な技術を有するメゾン・レぺが制作を担当。675個のパーツからなるこの機械は完全に巻き上げると1年間動き続ける超ロングパワーリザーブを確保している。この1年駆動を支えるのが、ゆったりと毎時3600振動するリム径49mmの特大テンプ。半回転で1秒運針するデッドビートセコンドを作り出すメカニズムは、そのまま悠久なる時の流れまでも表現する。

こうした造形に行き着いた理由について、CEOのパトリック・プルニエ氏はこう述べている。“ヴィンテージコードを再利用して過去の時計を復刻することは、今回のアニバーサリーモデルの制作意図ではありませんでした。それどころか、逆に175年分の飛躍を目指したのです。私たちは常に先を見ています。2196年にデザインされるマリンクロノメーターはどんなものだろうと考えていました”

その狙い通りの革新的な見た目を持つ「UFO」は、波の揺れさえも時計に封じ込めている。かつてのマリンクロノメーターが船の絶え間ない揺れの影響を和らげるべく水平補正機能が付いた木箱に収められていたのに対し、本機では静かに揺らされたときにオブジェ自体が波を起こすようになっているという。重さ7.2kgの本体は軸から60°(振幅120°)まで揺れることが前提。この動きの重心、質量、慣性の比率を正確に計算することで、テンプの動作に大きな影響を与えないよう揺れを制御する設計となっている。揺れを封じるのではなく、揺れを前提にしたメカニズムは、まさしく未来のマリンクロノメーターだといえよう。

デビアレ社製サウンドシステムを組み込んだ第二弾!

ユリス・ナルダンは、2019年にデビアレとのコラボレーションにより、まったく新しい時打ち機構を開発した。デビアレは、160件以上の特許技術によって最高のリスニング体験を求める音楽ファンのためにサウンドシステムを提供している、オーディオ業界で知られたフランスの企業。そんな同社の主力製品である新世代高音質ワイヤレススピーカーPhantomの出力音圧レベル108dBに比肩する、ストライキングウォッチの最高記録パフォーマンス(100mmで85dB)を実現したのだった。そして2021年は、前作「アワーストライカー ファントム」から改良し、音と音質の改善を目指した新たなストライキング機構が、次世代コレクション「ブラスト」に搭載されることになった。

ユリス・ナルダン「ブラスト アワーストライカー」Ref.6215-400/02(アリゲーターストラップ ) Ref.6215-400-3B/02(ベルベットストラップ) Ref.6215-400-3A/02 ラバーストラップ ) 1262万8000円 自動巻き(自社製キャリバーUN-621)。毎時2万8800振動。約60時間パワーリザーブ。18Kローズゴールド+5NブラックDLCチタンケース。直径45mm。30m防水。

「ブラスト」は2020年から加わったコレクションであり、そのインスピレーションの源は自然の強大な力だ。岩の如きソリッド感に、炎のように情熱的なデザインを持ち、大地を揺るがすほどのインパクトを見る者に与える。複雑なラグの造形にステルス戦闘機のモチーフが用いられた点は、Blast(=爆風)に悠然と立ち向かう人工物の象徴ともいえるだろう。こうした有機物と無機物の融合もまた、実験(Experiment)や探求(Explore)、というユリス・ナルダンの「X」コンセプトに合致する。

正時、30分、任意の3種類の時打ちを行う新作「ブラスト アワーストライカー」では、革新的な機構と構造を組み合わせるのみならず、新たに2つの課題が出されたという。ひとつは「文字盤側でチャイム機構を見えるようにすること」、もうひとつは「音の品質と出力の比率をさらに向上させること」だった。

新開発のキャリバーUN-621では、フライングトゥールビヨンのキャリッジを迂回するよう細工が施されたゴングを12時位置に見えるハンマーが打ち鳴らして時を奏でる。もちろんデビアレ社製のサウンド増幅システムが組み込まれており、唯一無二の豊かな音を打ち鳴らすわけだ。機能のオンオフの切り替えは8時位置、任意での起動には10時位置のボタンを押すだけと、操作は極めてシンプルだ。

ユリス・ナルダンは1980年代からストライキング機構の開発に注力してきたブランドのひとつであり、あらゆる時打ち機構を持つコンプリケーションを開発してきた。「ブラスト アワーストライカー」は、そうした技術開発と、外装デザインの両方向でユリス・ナルダンの最先端となる一本なのだ。

すべての“探求”する人々へ

ユリス・ナルダンは2021年、新たなるテーマ「Vertical Odyssey」(垂直方向の旅)を掲げた。その世界を表現した新作の第1弾が、深海をフィールドにする「ダイバー X スケルトン」と、地平線にある「UFO」、そして空中や宇宙をイメージした「ブラスト アワーストライカー」の三部作である。175周年にわたって技術研鑽を積んできた時計開発のチャレンジャー、ユリス・ナルダンの新たなる旅路はまだ始まったばかりだ。

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