日本人時計師の浅岡肇さんは、時計の本場スイスのなかでも指折りの時計師がボードメンバーとなって1985年に発足した由緒正しき「スイス独立時計師協会(通称:アカデミー、AHCI)」に認められ、正会員となった人物である。そんな彼が、時計師であると同時に、デザイナーでもある彼のキャリアを生かし、「自分が普段使いできる時計が欲しい」との思いから立ち上げたブランドが、「CHRONO TOKYO」だ。このブランドは独立時計師として製作する腕時計とは異なり、浅岡さんが高品質と普及価格帯の両方にこだわって考え抜いた腕時計となっている。主に時計店「TiCTAC」で取り扱われてきた歴代モデルは、立て続けに完売を記録してきた。だが、実はこのCHRONO TOKYOには別名がある。それが、海外向けのブランド名「KURONO BUNKYŌ TOKYO」だ。この度、挑戦的な予約受付が行われる最新作は、この「KURONO BUNKYŌ TOKYO」名義で発表された。
朱鷺:TOKIと名付けられた3針時計
37mmの316L鍛造ステンレススチールケースに収まるのは、ミヨタ製Cal.90S5。約38時間パワーリザーブを有する自動巻きムーブメントである。文字盤は、外縁に向かって緩やかに下がっていくボンベ形状を採用。これにシルバー色の3つのリングと植字バーインデックスを合わせ、さらにクラシックな雰囲気を醸し出すレイルウェイパターンを配置することで小ぶりながら立体感のある表情を作り上げた。こうした繊細な造り込みを決定付けているのが時、分、秒を示す3本の針。それぞれに形状が異なるだけでなく、時分針はいずれもわずかにやまなりの形状をしている。繊細なパーツに曲面を用い、それを磨くことは作業難易度が高い。しかも分針と秒針は先端を湾曲させた「曲げ針」だ。しかし、ここまでは歴代モデルにも共通していた仕様。最新作において最も浅岡さんがこだわったのは、モデル名の由来にもなった文字盤のカラーにある。
浅岡さん曰く「試作から完成までほぼ一年かかった」という文字盤カラーは、まず自身で調合した塗料を金属プレートに塗るところからはじまり、そうしてできた膨大な数の色見本から気に入ったものを文字盤メーカーに発注。理想の色を求めて、これまでで一番プロトタイプも作ったという。文字盤のサンプル製作にも当然コストはかかる。まして本機のように20万円台を切る価格設定の時計であれば、その影響は甚大だ。だが、もちろん浅岡さんは自身のキャリアにかけて一切の妥協を排除し、納得のいく文字盤を、その輝きの微調整に至るまでこだわり抜いたという。
そこまで手間をかけて作り上げた文字盤色こそ、日本特有の洗練された色を目指したという朱鷺:TOKIである。色調こそ銅色がベースとなっているものの、西洋で好まれるような「サーモンカラー」とは一線を画す。浅岡さんの狙いは朱鷺の羽の色「朱鷺色」。“大空を飛ぶ朱鷺の羽根に見られる、独特の桃色を基調にすることにした”のだそう。ちなみに日本の国鳥はキジだが、朱鷺もまた学名「ニッポニア・ニッポン」という、まさしく日本を象徴する鳥。海外向けブランド「KURONO BUNKYŌ TOKYO」から発売する腕時計として、うってつけのネーミングではないだろうか。
さて、この朱鷺:TOKIだが、発売は5月21日23:00〜23:10の10分間、公式サイト(https://kuronotokyo.com/)で期間限定販売されるという。もちろん全世界の時計愛好家に向けた販売のため、かなりのアクセスが予想される。現在、世界でも31名しかいない独立時計師のうちの一人、浅岡 肇さんがこだわり抜いた20万円以下のデイリーウオッチ。買う買わないは別として、この時計の販売状況は販売終了後ただちにSNS等で話題に上ることだろう。そのリアルな声が、世界的な時計市場の盛り上がりを示す指針となるはずだ。